この場所

@Ohamu4356

第1話 「この場所」

朝の光が2階の私の部屋に入ってくる。

凌也「う〜ん・・・」

あまりいい目覚めでは無い。よく寝たはずだが、何故か倦怠感が残っている。私はそんな気だるさを引きずりながら1階へ向かった。

凌也「またやってるよ・・・」

デモ隊の声が外からする。いい目覚めじゃなかった理由はこれかもしれないし、違うかもしれない。


凌也「どうせ『戦争反対!』とかやってんだろな・・・」


そんなデモ隊を私は1階のリビングから横目で見ながら出かける支度をする。

大阪はデモ活動が多くて中心部はとてもじゃないけど落ち着かない。


ラジオ「開戦から1年と4ヶ月が経ちました。戦線は停滞していて、決着が着く目処は未だ見えません。皆さんは命を守・・・」


凌也「そうか、もんそんなに経っていたか」


2030年。日本はある国際問題を発端に、世界的に孤立してしまった。

それに危機を感じた政府は憲法を勝手に改正して、日本に軍を置き、平和主義を捨てて他国と戦争・・・ということになってしまった。


凌也「本来なら、今頃高校2年生か・・・」


戦争が始まってから学校は無期限の休校。

最初は正直嬉しかった。でも、これが1年ちょっと続くとなったら話が違う。

だから私は、今日も行くあてもなく外を歩く。


アナウンス「1番線に泉佐野行き電車が7両で、到着します。危ないですから・・・」


電車の中はエアコンが効いていてとても涼しい。そんな中、私はお気に入りのカセットテープの11番を流しながら電車に揺れる。

気がついた頃には終点に着いていた。

寝てしまっていた。

行くあてがない。とは言ったが半分嘘だ。

私にはこの場所がある。

立ち入り禁止のテープを跨ぎ、半壊したビルであろう建物の上に座りながら大阪湾を眺める。

周りは瓦礫と荒野で広がっていて唯一残っている建物がこの建物。

立ち入り禁止区域だから誰にも邪魔されない・・・と思っていた。


真衣「へへっ〜やっぱりいると思った〜」


凌也「げ・・・お前かよ・・・」


幼なじみの真衣だ。同じ大阪府出身の女の子。めちゃめちゃ私に着いてくるヤツだ。


真衣「ここ立ち入り禁止だよ!早く出ないと軍人さんに見つかっちゃうよ〜」


凌也「お前もその区域に入ってるじゃねぇかよ」


真衣「あ、そうだった」


真衣は笑いながら近寄ってきた。


真衣「何それ!カセットテープ?現代っ子じゃないねぇ〜今頃スマホで音楽ぐらい聴けるのに・・・」


凌也「現代っ子じゃなくて悪かったな。言っとくけど、聴かせないぞ」


少し鼻で笑いながらカセットテープを再生し始めた。

音量が小さいのか、左耳の方のイアフォンがよく聴こえない・・・と、思ったが原因はすぐわかった。


凌也「おおおい!」


真衣が勝手に左耳のイアフォンを取って聴いていた。


凌也「返してくれよー!」


真衣「別にいいじゃん〜ほら、もっかい再生して!」


凌也「チクショー・・・」


大声出しすぎても人にバレるので、ここは穏便に済ませるようにしたが内心めちゃめちゃ嫌だった。


真衣「あ〜!これ聴いたことあるかも!有名だよね!」



凌也「そうでも無いぞ。お前ホントに聴いたことあるのか?」


少し冗談も混じえながら会話していくと気づいたら17:00だ。

今日もそのまま帰って寝ようと思ったが真衣が声をかけてきた。


真衣「どうせ家帰っても暇でしょ。なら私の家来なよ!」


凌也「『どうせ』とは随分失礼だな・・・あながち間違ってはいないのが悔しいが」


真衣「へへ〜なら決まりだね。電車でこっから10分もかからないよ。着いてきて!」


真衣とは長いこと一緒に居るが、真衣の家に行くのは初めてだ。少し緊張するが、どうせ家に帰っても親はいないので着いていくことにする。


凌也「んで、俺を連れてくってことはなんか企んでるの〜?・・・」


真衣「勘が鋭いねぇ・・・今日はゲーム!しまくるわよ!」


凌也「ゲーム?」


正直ゲームは全般苦手で嫌いだ。だが真衣の目がキラキラ光っているのを見て断るにも断りきれなかった。


午前4:00。真衣がやっと寝落ちしてくれた。

・・・俺の膝上で寝たってのが気に食わないが・・・


凌也「俺もそろそろ寝ようかな・・・」


と思ったが、


凌也「ちょっとだけ行くか。」


俺は外に出て電車に乗りまた、この場所へ来た。


凌也「やっぱり1番落ち着く」


この場所が1番落ち着くんだ。別に真衣を嫌ってる訳じゃないがどうしてもここが1番になってしまう。

その時空から大型の飛行機が通り過ぎる。

だがあれは見た感じ旅客機じゃない。

なら何か。


サイレンが鳴り出した。


爆撃だ。


雷のような音が私の近くで鳴り止まない。

私は慌てて防空壕を探したが、本来立ち入り禁止区域なため、防空壕すらない。

かろうじて近くに林があったので、そこに身を潜めることにした。

近くの木が倒れ、地面が揺れる。私はカセットテープを握り締めながら爆撃が止むのを祈った。


忘れてはいけない。


日本は戦争中なのだ。

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