【完結】権力の闇に立ち向かうUDIラボの法医学者たち。真実を暴く勇気は、どこまで世界を変えられるのか。
湊 マチ
第1話 就任の祝宴
重厚な木製の扉が開かれると、その先に広がるのは日本医療会の会長室。歴史と権威を象徴するこの空間には、壁一面に並べられた歴代会長たちの肖像画が威圧感を漂わせていた。会長室の中央には、頑丈な楕円形のテーブルが鎮座し、その周囲には豪奢な革張りの椅子が配置されている。重厚なカーテンから漏れ入る淡い光が、シャンパンのボトルと高級なグラスを照らし出し、空間全体を華やかに彩っていた。
その場にいるのは、現会長である松本与四郎と、元会長の竹見太郎、そして彼の息子であり、この度厚生労働大臣に就任したばかりの竹見敬三だった。松本は立ち上がり、慎重にシャンパンのボトルを開け、グラスに注ぐ。その音は、この空間に張り詰めた静寂を切り裂くかのように響き渡った。
「竹見敬三君、厚生労働大臣への就任、誠におめでとう。」松本がグラスを掲げると、竹見太郎と敬三もそれに倣った。松本の表情には、彼の心中にある計算高い思惑がちらりと垣間見える。彼は、目の前にいる二人と共に、これからの日本医療界のさらなる支配を確固たるものにするためのシナリオを描いていた。
「父上、松本会長、この場を設けていただき感謝します。」敬三は微笑みながら言ったが、その笑みの奥には、冷徹な野心が潜んでいる。彼の目には、医療政策を通じて日本の医療界を自分たちの望む形に変えていくという強い決意が宿っていた。彼は父・竹見太郎から受け継いだ権力の重みを知り、それを使って新たな時代を築くつもりでいた。
「敬三、お前は竹見家の名に恥じぬ働きを見せてくれるだろう。」竹見太郎は、グラスをゆっくりと持ち上げる。その瞳には、自らが築き上げた日本医療界の支配体制を息子が継承することへの期待と誇りが光っていた。「医療は単なる医療行為ではない。それは、国を動かす力なのだ。」
松本はその言葉に深くうなずく。「医療界と政府の連携を強化し、我々の描く理想の医療制度を実現させるための布石が、今ここに打たれた。これで我々の計画は盤石だ。」
敬三は、二人の言葉に応えた。「医療は国民のためのもの。しかし、同時に我々が築き上げた医療界の秩序を守り、発展させることもまた重要です。厚生労働大臣として、私は日本医療会と共にこの国の医療の未来を導く覚悟があります。」
その言葉に、松本は満足そうに頷き、グラスを彼に向けて差し出す。「ならば、我々の新たな時代に乾杯しよう。日本医療界の更なる繁栄のために。」
グラスが触れ合う音が、会長室の静寂に響き渡る。その音は、祝福の響きでありながら、同時に医療界に暗い影を落とす新たな陰謀の始まりを告げるものだった。松本と竹見父子の間に交わされる微笑の奥には、これから進められる計画への期待と確信が潜んでいた。
彼らの計画は、医療費削減や政策改革という名の下に、医療界の構造を巧妙に操作し、権力を強化するものだった。しかし、その背後には、多くの人々の命と健康が犠牲にされるであろう現実が待ち受けていた。
その場に流れる一瞬の沈黙の中で、竹見太郎は静かに息を吐き、「敬三、覚えておけ。医療界を支配するのは技術や知識ではない。権力だ。」と息子に語りかける。その言葉は、これから始まる物語の核心を暗示しているかのようだった。
シャンパンの泡が弾ける音が、どこか遠くから聞こえる。その音は、祝福の音色であると同時に、医療界の暗い未来を告げる警鐘のようにも聞こえた。この一瞬の祝宴の裏で、権力と利益を巡る闇が、徐々にその姿を現そうとしていた。
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