聖剣王シリーズ
べっ紅飴
聖剣王と七人の剣巫女
第1話
曰く、その剣を手にした者はあらゆる力を手に入れ、あらゆる技を凌駕し、遍く全てを圧倒するのだとか。
それは世界の始まりと時を同じくして姿を顕し、世界の終わりさえ断ち切ると言われる神話に語られる伝説の剣の物語。
手にした者は如何なる願いも一つだけ叶えることができるとも言われている。
古書漁りを人生の目的としている我が友人であるホンジョウはある日そんな話を私に語った。
「これは先日僕が譲り受けたそれはそれは由緒正しい家に伝わる秘伝書でね」
ホンジョウは彼の書斎の隣室にある客室兼閲覧室の机の上に置かれたうちの一冊を撫でながら言った。
「偽書だろ、どうみても」
見たままの感想を伝えるとホンジョウはため息をついてやれやれと首を左右に振った。
「これ一冊に10万両もしたんだ。偽書であるはずがない。」
まったく論理的ではない回答だったが、ホンジョウが胡散臭い古文書や文献を高値でつかまされているのはもはや日常風景とも言えたので、相手にする気にもならなかった。
「あっそう。で、その秘伝書がなんだって?」
「おやおや、聞いてなかったのかい?これに書かれてるのは何でも願いを叶えることが出来る伝説の剣の在処。」
「それは聞いたが...。」
「知っての通り僕は大の冒険嫌いだ。」
「初耳なんだが」
「だから、君には僕の代わりにこの秘伝書を頼りにこの秘伝書に書かれた剣が実在するのかを大陸に向かって確かめてきて欲しい。」
「何か叶えたい願いでもあるのか?」
私が問いかけると彼は秘伝書とやらを捲り、開いたページを指さして読み上げた。
「願いを叶えし権能は、担い手こそがふさわしい。ここにそうかいてある。」
「つまり?」
「剣を手に入れたとしても願いを叶えることが出来るかは運次第ということだろうな。台座に刺さったまま抜けずに安置されているとか、泉の奥深くで水の精に抱かれているなど剣がどのような状態でどこにあるのかは書かれた書物によってバラバラだが、その全てに共通する部分がある。剣に選ばれし乙女だけがその望みを叶えたという一文だ。」
「男には資格がないから願いについては考えるだけ無駄、か。」
「予測の範疇に過ぎないが、その通りだ。」
「報酬は?」
「100両でどうだろうか」
「安い。仮にも空を渡って返ってくるんだ。最低でもその3倍はないと話にならん。」
100両もあれば3年くらいは余裕を持って暮らせるだろう。
しかし、大陸と一切の地理的つながりを持たないこの島から大陸に向かうのであれば島と大陸を隔てる空の狭間を命懸けで越えなければならない。
しかも、往復だから二回である。
大陸に渡るために空へと旅立つ者はそれなりに見かけるが、もう一度空を越えて故郷へ帰ってくるような人物は稀だ。
きっと中には大陸の影すらも見ることが叶わずに空の底に沈んでいった者たちもいるだろう。
それを考慮すれば、100両というのは安すぎるといってよかった。300両でも安いくらいだ。
「では率直に聞こうか。いくら欲しい?」
「2000両。」
「では成功報酬を2000両。失敗時には300両で如何か?」
「成功条件は?」
「無論、剣を見つけ出すこと。持ち帰れたならば追加報酬もだすことも約束しよう。」
「引き受けよう。」
私がそう言って受託すると、ホンジョウはニヤリと笑って満足そうに頷いた。
「契約成立だな。」
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