第2章:夏祭りー!

第136話:私の出番は? byマッドドクター☆

 ――あの、無理してませんか?

 その一言を私は絶対忘れない。

 当時十八歳だった私は、その才能から既に研究所を貰っており国や冒険者に対して様々な魔道具を作り提供していた。

 

 子供の頃魔道具というものに憧れた私は、人が笑顔になれる物が作りたかった。

 無価値でいい。くだらなくて構わない……でも、それで誰かを助けられるような、それこそ魔力が無い人でもそれを使って笑顔になれるような物を作りたかった。

 

 ――だけど私の才能で求められるのは国のため、技術の進歩のため、もっと利益を、金を稼げるものをと。

 私が本当に作りたいものなんて許されるわけがなく、依頼されたものを作る毎日。やりがいは……なかったと言えば嘘になる。

 最高品質の素材に理想の環境。

 依頼通りのものを作れない日なんてなく。だけど溢れんばかりの称賛に増え続けるお金。自分の作品に付けられる他人からの意味の無い価値に、無為に過ぎる日々。


 その毎日に疲れて、諦めて、仮面を被ることを覚えたのは懐かしい。

 でそんな日々の中で、彼と出会ったのは本当に偶然だったのだろう。

 きっかけ近くの中学校の職業見学。ダンジョンに関する学校の生徒達が私の研究所に訪れて、私は普段通り仮面を被り理想の氷室江奈を演じて、中学生の子達が楽しめるように一人っきりの研究所で案内を続けた。


 評判は良かったんだと思う。

 皆笑顔で聞いてくれて、楽しそうに魔道具を体験してくれて、その瞬間だけは少し仮面が外れた気はした。何より、その中でわかりやすく目立っていた中学一年生だった霊真の事は忘れない。


 ことあるごとに魔道具のことをメモして、一個の魔道具に対して何個も質問を飛ばしてくるちょっと変わった子……何が変かって、気まぐれに紹介した子供の頃に作って飾ってあった価値のないはずの魔道具にばっかり興味を示した事。


 それがちょっとおかしくて、実用的なダンジョン攻略に関するものとは明確に態度が違って、とても不思議だった――だって、他の生徒が興味を示していた実用性のある道具の説明の時には、まったく楽しそうにしてなかったから。

 いや、最初の方は楽しそうだったけど、途中から態度が変わったんだっけ?


『どうしたんだい少年、休憩時間とは言え魔道具の体験をしないのかい?』

『あ、いや――大丈夫です』

『うーん、君は一際興味を示してたのに何故だい? それに辛気くさい顔をしているし、もしかして飽きてしまったのかな?』


 休憩時間の中、どうしてか彼に興味が尽きなかった私は……離れたところで休んでいた彼に声をかけた。


『いやえっと、楽しいですしどの江奈さんの魔道具は好きなんですが……ただ』

『うーん、歯切れが悪いね、遠慮しないでくれたまえ』

『……怒らないでくださいね、まじでぶっちゃけるんで』


 そこで一拍おき、彼はバツの悪そうに。


『あの、無理してませんか?』


 私の仮面を見透かして、そんな事を言い放ったのだ。

 ずっと仮面を被って、好きでもない物を作り続けた私に……彼はどうしてかそう言った。


『……どうしてそう思ったんだい?』

『気のせいかと思ったんですけど、途中に紹介してくれた魔道具と最後の方で態度が違った――というか、取り繕うように笑って紹介するのがすっごく変で。途中のトランポリンみたいな魔道具とかは、本当に楽しそうだったのに……』

『ねぇ、君……名前はなんて言うんだい?』

『えっとその、狩谷霊真です』


 ……狩谷霊真。

 それは、サポーター界隈で有名な子の名前だった。

 理由としては魔道具の扱いが巧く今活躍中の雪崎なんたらという子供のサポーターの一人とされ、よく私の魔道具を使っていると泉華に聞いていたから。

 それだけだったら興味を持つことがなかったのだが、その子には無視できないような、魔力を持たない特性があったのだ。


 だから名前だけは覚えていた。

 見た目は知らなかったけど、その功績だけは知っていた。

 魔力を持たないのにも関わらず冒険者として認められ、それこそダンジョンが現れた時代の英雄の様に戦う少年。

 

 若いのに、どこまでも頑張る子だって聞いていて、いつか会おうとは思っていた。でも時間が無くて、会う機会が無くちょっとしたファンではあったんだけど。

 そんな彼にそう言われた事が衝撃で。

 見透かされたことに驚いて。

 私を見つけてくれて。

 

『ねぇ君、ちょっとお姉さんと連絡先を交換しないかい?』

 

 初めての好奇心から誰かのために魔道具を作ってみたいと――そう、思ったんだ。

 

――

――――

――――――

 

『へいゆーかもん!』

 

 その日はダンジョンに関する夏期講習を終えて、学校が終わった放課後のこと。

 急に携帯にそんなメッセージだけが届いた。通知できたから誰か分からなかったが、開いてみればそこには氷室江奈ひむろえなの名前が一つ。


「…………」


 額を抑えて少しの無言。

 見なかったことにしてもいいかなと思いつつも、一回携帯を鞄にしまおうとしたところで、もう一度届くメッセージ。


『……ふ、今しまおうとしたね? それに、来ないのはダメだよ――構って』

「なんで分かるんだよ」

『ちなみに勘だから、特に能力とかは関係ないぜ? 君の反応を予測して送ってるだけだからね』

「……こわぁ」

 

 まだ少ししか関わってないマッドドクター☆と名乗る彼女。

 あんまり彼女にマッド感は感じてないが、それはそうと自分の反応をこうも予測されると、怖いものがかなりあり、一応予定自体はないが行きたくはあんまり無い。


「行くかぁ?」


 でも、わざわざ連絡してくるってことは何かはあるのだろう。

 だから俺は疲労と心労を受けることを覚悟しながらも……五分ほど死ぬほど悩んで、行くとメッセージを送ってしまった。


『しゃおらー! よし、準備してるからすぐ来てねー!』


 返ってくるそれ。

 文面からも分かるような、そのテンションの高さに……服だけは着てくれと、自然と送ってしまった。


「来たぞー江奈さん」

「よしウェルカムだよアナザー霊真ー! さぁ、早速実験しよう」

「っし帰るわ」


 やってきた研究所で出迎えてきたのは、全裸の馬鹿。

 相変わらずの白衣に際どい部分に謎の光が添えられてる意味不明な現状と、実験しようという言葉で俺は扉に手をかけて出て行くことを決意した。


「待って待ってウェイトステイ……せっかく来たんだし帰す訳ないだろう?」


 ガチャン……と、次に聞こえるのはそんな音。

 さっきまで簡単に開いていたはずの扉はそれだけで閉まり、完全に俺は閉じ込められた。


「ふっふふー、これで心置きなくお話しできるね! そうだ、感想聞きたいんだけど、どうだいこの出来たてほやほやの謎の光発生装置は!」

「何だよそれ……」

「ほら服を着ろという君の頼みだろう? それは面倒くさかったから、適当に作った魔道具さ! なんと私の全裸を感知して際どく光を添えてくれるのだよ!」

「服着た方が楽じゃね?」

「なっそれは禁句だよ! それに浪漫が無いじゃないか!」


 全裸に添えられる浪漫ってなんだよ、いらねぇよ。

 無駄に馬鹿広い研究所の玄関。そこで繰り広げられるこれに早速だけど既に頭が痛い。大げさに彼女がリアクションする中で、動く度に謎の光が追尾してるこの状況にどうツッコめばいいのかだけが分からなかった。


「もう怒ったぞ、君にはやはり魔道具の浪漫を分かってない! 無駄こそが美しさなんだよ! アナザーだとか関係ない語り合おうぜ、今すぐに!」

「疲れるから本題入ってくれないか?」

「あ、うんおけー。えっと……なんで私は君を呼んだの?」

「…………帰るわ」

「思い出すからちょっと待ってよー! うわぁーん霊真に捨てられたって言って外に出てやるー! 構えー!」


 流石にこの格好で外に行かれるのは心配。

 ……遊ばれているのは分かるし、ふざけられてるのも分かる。だけどまぁ、彼女が霊真の大切な人の一人だったのは、なんとなく分かるので。


「はぁ……思い出すまで前の俺の事を聞かせてくれ」

「え、急にどうしたの? デレ期?」

「いいから、頼むって」

「ふっふふ、それなら任せてよー! いっぱいあるよー!」

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