第135話:妄想爆裂ランデブー

「えっと、気配は……とりあえず六つか」


 魔力感知に引っかかる幻術の数は六。

 ……なんか質量を持っているその幻術はこの世界をバラバラに逃げていて、駄馬を絞める前に破壊しないとやばいことが目に見えている。

 あいつの発言を聞くに相手の妄想? を叶えるみたいな事を言ってたし、至上最悪の黒歴史量産魔法に他ならない。


「っし付い、たぁ!?」


 辿り着いたのは少し大きめの山。そこにはルナとソルの家があり、よりにもよってこの場所に来た幻術に冷や汗を流しながらも――山の頂上に訪問してみれば。


「なぁ、ソル。俺にはお前が必要なんだ――これからも、ずっと一緒にいてくれ」

「ふぇレイマ!? これレイマ? ……え、急に来てどうしたの!?」

「なんでもない、ただお前の事が大切だって改めて思ったんだ」


 ルナ達の家の前で、そんなことを言う俺(幻)がいた。

 ……どうしよう、舌を噛み切りたい。

 俺の顔と俺の声で、ソルに色々言うのを止めて欲しい。

 心底感じるその思い。普段から割と思っていることではあるが、こうやって実際に面と向かっていって姿を見るのはキツい。それになんか妙に声が作られているしで、寒気と鳥肌と違和感と気色悪さのオンパレードだった。

 

「ごふっ」


 というか咽せた。

 意識が落ちかけ、ソルが顔を赤くする現場で……なんか色々な声が遠のいて聞こえる。もうゴールしていいか? 破壊とか諦めて術の効果切れるまで逃げていいか?

 一人目で限界な思考回路。人化したユニが慌てているのが見えるが……よく見ればなんか本に書き始めているし、誰も現場を納めようとしていない。


「お姉ちゃん退いて、それ殺せない」

「え、ルナ?」


 その瞬間の事だった。

 どこからか警告が届き、極寒とも言える冷気が周りに解き放たれたと思ったら……巨大な氷剣が俺の幻覚を両断した。


「何してるのルナ?」

「偽物を消しただけ」

「……偽物? 匂いとか気配は同じ……」

「そんなの分かってる。だけどあの鈍感クソボケますたが、理想通りの言葉を言うなんてないから。それにみて、ますたならこの程度対処余裕」


 両断されて残ったのは、真っ二つになった末に凍った幻術。

 俺そっくりの氷像に肝を冷やしながらも、幻術の効果が終わり消えていくそれを見て安心した。


「……えっと、さんきゅールナ」

「あ、ますた! 偽物ぶっ殺したよ褒めて?」

「たす……助かった。あれバイコーンの幻術で追ってたんだよ」


 妙に言葉の強いルナに少し引くも、助かったことは事実なので感謝を告げる。そんな中でちらりとソルを見れば、薄く笑っており……次の瞬間に焔が解放された。


「へぇーバイコーンが……うん、殺そ」


 それこそ優しく軽快な声音で、音符でも付いてそうな感じで、めっちゃ物騒なことが告げられる。ソルの爪にまで炎が纏われているし、近づくだけですごく熱い。


「あいつも悪気しかないし欲望のためにやってたけど、俺が絞めるからほどほどに燃やしくれ」

「えぇーレイマ、それじゃあ甘いよぉー。ボクが殺るから、任せて欲しいなって!」


 いつにもなく甘い声音。

 でも、発されるのあまりにも物騒な言葉。

 いつにも増してキレているのか、熱気と殺意が溢れまくっているし見ているだけで冷や汗が凄い。今この場所が熱いってのもあるが、多分八割恐怖の冷や汗だと思う。


「えっと……落ち着けソル、お前が笑ってるのは好きだけど今の笑顔は怖い」

「えへへーそんなことないよー、今はアレを焼滅させたいなぁーってぐらいだから」

「なぁソル、口調まで変わってるから落ち着こうな?」

「えぇーボクは今すっごい落ち着いてるよ。あ、あのさ偽物って後何匹?」

「……四人?」

「わかった全部燃やすねー!」


 どうしよう、今までとは別のベクトルでソルが怖い。

 怒りが一周して口調が逆にのほほんとしてるのが怖い。宥めても意味ないし、何より下手に鬱憤溜めた方がやばそうだからもう幻術の俺には焼滅して貰おう。

 自分と同じ顔の幻術が燃やされるのはちょっと嫌だが、元から破壊する気ではあったし誤差の範囲だと思って納得しよう。


「ユニはちょっとバイコーンの捜索頼む、俺はルナ達と幻術追ってくるわ」

「わ、分かりました! ソルさん達の方が速いですから」

「おう、さっきは乗せてくれてありがとな」


 そういうわけで今度はルナに乗った俺は、怒り心頭で周囲に太陽の焔を放つソルに先頭を任せてみれば、まだ誰の元にも辿り着いていない幻術が見つかった瞬間に滅された。それこそ必殺を食らい消し飛んで、跡形もなく灰になった。


「ふふあーとっ……三匹」


 最初は跳ねた鈴のような声音、だけど最後はとっても低い。

 それで思ったのはソルは怒らせないようにしようという事であり、それを心に刻んで……ルナの上で冷や汗が流れた。

 

「とりあえずこの方向だと、バアルの神殿だよな?」


 あいつのために建てられた、バアル・ゼブルを祀った神殿。

 神であったあいつのことを称える為に作ったそこは、ライブキッチンみたいな器具がある場所なのだが……近づく度に良い匂いが漂っていた。


「…………まさか」


 嫌な予感は当たるもの。辿り着いたその神殿には……二人の俺がいて、料理を食べて笑顔の俺とバアルに奉仕されて感謝を述べる俺がいた。

 …………あぁ、なんというか微笑ましいなと思うと同時にバアルは変わらないなと思えて――少しの黙祷を捧げた後に、二人の俺が燃えて凍った。


「あ、主ー!?」

「それ、偽物だから心配しなくていいぞ」

「知っていますが――純粋に奉仕させてくれる主がレアで! だからこそ何故だ! ソル嬢達よ、なぜ我の理想を阻むのだ!」


 噎び泣き何よりも慟哭するような勢いで叫ぶバアル。

 珍しく他者に怒りを向けながらも、そんな彼にルナ達は冷たく。

 

「だって、偽物に存在価値ないし」

「あんなのますたじゃないから」

「分かっている――分かっている。でもだ、でも――だ。我は。我はもっと主に奉仕したかった!」

「えっと、今度時間作るからバイコーン倒そうな」

「オーダー受諾、いまからバイコーン殿を倒せば良いのだな? あぁ滅尽滅馬、どこまでもあの駄馬を滅ぼそう」


 瞬間に獣に変わるバアル。

 ……殺意が滾り、嵐が迸り、死の魔力がこの場所を支配する。

 バアル・ワイルドハント……嵐を冠する狩りの魔王は、このとき不純駄馬を敵と定めた。これ、あいつ生きてられるかなぁとか思いながらもバアルの馬が嘶いたのを聞いて、思考が遠のいていく。


「あ……れ、レイマさん! えへへ、カス兄捕らえました」

「あぁ、ユニ殿ありがたい――そこに縛ってくれると助かる」

「え、あの――ば、バアルさん?」

「我は死、我は嵐、我は慈雨を司る魔神なり――遍く命は我が腕に、潰え滅ぼせ、これが自然の意思と知れ」


 あー……終わったわバイコーン。

 これ、バアルの必殺だ。

 嵐が渦巻き槍を成す、死の魔力が滾ってこの場所を黒く染める。その技の余波を考えた俺達は結界を張りつつも逃げ出して、遠くで告げられる技名を聞く。


生命滅日せいめいめつじつ――嵐壊らんかい


 瞬間、空に馬が打ち上がった。

 ……黒い星が、綺麗だなぁと現実逃避した俺は最後に残ってたメルリの実験台にされていた幻術を救って、その日は寝た。

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