『腐敗するこけし』

「見て頂きたいのはこれです」

Aさんが差し出したのは、こけしの写真だった。

解像度がやや荒いが、最近流行りの”エモい”加工をした写真と言われても納得する雰囲気の、どこにでもありそうな写真だった。



「この写真がどうかしたのですか?」

特に違和感を感じないこけしの写真を手に取ってまじまじと見た。

「その写真、冷暗所に置いて置かないと駄目なんです」

Aさんが真面目な顔で言うので口から出かけた言葉を飲み込む。


「えっと、その…写真自体が?」

「いえ、写っているこけしだけです」

「まるで腐らせた事があるみたいな」

「ええ、こちらに」

そう言ってポケットから出した写真は、

ジッパー付きのビニール袋の中に入っていた。


「…それ、持ってて大丈夫なんです?」

「さあ」

「何か変なこととかは?」

「特には。やっぱり大人だからかな。子消しっていうからには、ねぇ」

穏やかに語る彼の頬に、こけしの腐敗部と同じような痣が浮かんでいた。



どす恋!ケツ毛大明神/いい/暗裏/花豆

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