第92話

「待って!待ってよっ!!!…ぐふっ!!!」




階段を降りきった所で王子が急に立ち止まったので、あたしは王子の背中に激突した。




「いきなり止まんない…で……っ?!」




次の瞬間には、王子の腕の中にいた。




「く…くるし…」




今までにないくらいのキツい力に、あたしの体はミシミシと悲鳴を上げている。




「克…穂…?」




それでも王子は一切何も言わず、ただあたしを抱き寄せて抱きしめた。




トクン


トクン…




胸の鼓動が鳴り始める。




やっぱりあたしは王子が好きだ。





「…生身って何だろうな…」




王子が小さく囁いた。




「俺、昔からただの人形だから」




あたしから身を離して、そう呟く。




ゆらゆらと揺れる瞳が、あたしを映していた。




「…だから一本気な…感情垂れ流しの千亜稀に惹かれたのかも…」




本来なら、きっと不快な文句の言葉。




でも今は、王子の壊れそうな表情から目が離せない。




「そんな事…そんな事ないよ!」




あたしは強い口調で言った。




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