第74話

「っはっ…」



廊下を走った。



息が切れるくらい、全速力で走りぬけた。




「っ…っはぁっっ」




息切れが苦しい。




いっそのこと、このまま風になってしまえたら、あたしはどこまでも飛んでいく。




知らない場所。


知らない世界。


知らない土地に行きたい。



誰も知らない、…そう。何も知らない世界に行きたい。



戻りたい。



昨日のあたしに。



何も知らない方が良かった。



きっと何も知らない方が幸せだった。








本当は、



そんなに走ってなんかない。



猛ダッシュはしているけれど、距離はそんなに走っていない。




苦しいのは、心が泣いているから。




瞳から溢れ出す涙が、あたしの呼吸を邪魔するから。

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