第59話

王子がそっと囁いて、あたしを甘い籠の中へと誘き寄せる。



あたしはもちろん頷いてしまう。



前後の文脈はなしにして、ただソコだけのフレーズなら、胸はたちまち『きゅん』と鳴る。



あたしは心拍数を上げながら、王子を見上げた。



自分の言った言葉に少しだけ頬を染めて、王子は照れくさそうに呟いた。




「って、千亜稀にはいつもペース乱される気がする…」







その言葉に驚きすぎてあたしは声が出なかった。



「…なんだよ、その顔」



「…はっ!!


いやいやっ!!」



あたしは半開きになっていた口元を拭って、視線を落とした。



そうなの?



全然気づかなかったけど、王子を乱してるの?



…あたしがっ!??!



「村岡~?」



頬をクニクニと上下に揺らしながら、あたしはその声に振り向いた。




「フラスコの場所分からないの?・・・ってか、その運動何?」

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