ト・ド
恥目司
あるSNS廃人の観測録
「ん……?」
いつもの通り、交差上のアイコンのSNSを見ているとタイムラインに現れたハッシュタグ
#トドノベル
一体それが何を意味するのかは全く分からなかった。
ただ、その後には必ず課金者が有する青マークの特権である規定以上の文字数で出来上がったショートストーリーが載っていた。
どうやらお題箱にきたフォロワー達からのお題であるらしく、それに応えて短編を描いているらしかった。
トドノベルのほとんどは“火の粉”というアカウントが書いた小説だ。
彼、もしくは彼女が書いた小説は“トド■カ”というおそらくフォロワーであるユーザーを極道、もしくはミーム系の怪異にしているモノが多く、嫌がらせに近い事をしていた。
確かに話は面白い。オチもしっかりあって、ただのSNSユーザーが書いたとは信じがたい出来の良さ。
しかし、その内容は“ト■オカ”に人殺しをさせてるようなものばかり。
とても手放しに笑えるものではなかった。
誹謗中傷として報告しようにも、全てのトドノベルはフィクションでしかなく、その根拠となりえる投稿は全く存在しない。
故に、“火の粉”は暴れ放題だった。
ただ、ボクにとってはどうでもいい話だった。筆を折った身として、小説は無意味なものだったから。
ある日、名もなきユーザーのとある呟きを境に急にトドノベルが増えた。
“トドノベル、ボクにも書けるかなぁ”
一体、どのような感情でこれを言ったのだろうか。
それが後に起こる異変のきっかけだとも知らずに。
愚かにもソイツは開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったのだ。
だが、それは未来の話。
当時のボクは面白がって“次は……君だ!!”なんて某ジャンプのヒーロー漫画のセリフを言って笑っていた。
そして、ヤツは有言実行してしまった。
彼のトドノベルは別にまずまずの評価だったが、その後、“トド■カ”及び“火の粉”両氏周辺のフォロワーによる執筆によって、トドノベルは爆発的に拡散した。
はっきり言うと、トドノベルは才能の原石が発掘できる鉱脈であった。
プロの小説家が参入もしていたが、やはり多くのSNSユーザーの文才が広がるきっかけとなっていた。
とある人は“トド■カ”氏の事を女子高生として書き、とある人はメスガキ探偵として書く。
トドノベルが広がるに連れて“トド■カ”の姿はさらに千変万化する。
ただの一ユーザーをここまで多種多様な存在に創り上げる。それは常軌を逸した行動であり、狂気に駆り立てられているとしか思えなかった。
ただ、トドノベルの影響力はSNSだけに留まらなかった。
トドノベルが日常になってきた翌週の事。
タイムライン上では“大柄のヤクザが見える”、“ドアの向こうでドスの効いた男の声が自分の名前を叫んでいる”、“関西弁で殺してやると脅される”などと言った呟きが多く見られたのだ。
例外なく、トドノベルを書いていた人だった。
そのトドノベルで書いた“トド■カ”氏が小学生であろうとも怪異であろうとも、みんな大柄の極道を見ていた。
“関西弁を喋る大柄のヤクザ”の話は何日もタイムラインで続く。
ボクは“ただの幻覚”としか言えなかったが、タイムラインでの妙にリアリティのある大柄ヤクザの話は幻覚とは言い難いものだった。
恐ろしくはなかった。彼らをトドノベルへと駆り立てた狂気はそれよりもさらに上をいっていたから。
それは承認欲求によるモノなのか、はたまた“トド■カ”氏への愛によるモノなのか、それともその両方なのか……
その心情は当人しか分からない。
今では幻覚に悩まされていた彼らも“トド■カさんが隣にいて幸せ”、“トド■カさんがいるから心強い”なんて言ってる。
……ボクは、これから初めてのトドノベルをSNSに上げるつもりだ。
#トドノベル、とタグをつけて“トド■カ”氏を題材にした久々の小説を。
どう評価されるか恐ろしいが、そんなのは別に大して気にはならない。
ボクは“トド■カ”さんを慕う。
承認欲求ではなく、ただの尊敬の意を込めてボクは文字を綴る。
例え幻覚が聞こえようとも関係ない。
トドノベルはいつまでも続く。
トドノベルはどこまでも続く。
ト・ド 恥目司 @hajimetsukasa
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