甚次郎の遺髪

ネプ ヒステリカ

甚次郎の遺髪

 あるところに甚次郎というバカがいた。

 バカなだけでなく、極端な女好きだった。

 しかし、美男子で、いい寄られた女は、たいてい甚次郎に許した。

 いい寄られた女は、かなりの数にのぼった。

 なみの女好きではない。

 八十歳を過ぎた老女にいい寄ったこともあった。

 あるとき、仲間と隣村に行った帰り、深い森を進んでいた。

 そこで、鬼女に出会った。

 牛のような角、トラのような牙、ケダモノの毛皮を身にまとっていた。

「殺される」

「喰われる」

 と、だれもが恐れて逃げだそうとしたとき、女好きの甚次郎は、臆することなく、この鬼女にいい寄って行った。

 鬼女が恐れて、

「この変態」

 と、甚次郎を打ち殺した。

 鬼女も恐れる、女好き。

 仲間は相談して、遺髪だけでもと、甚次郎の髪を持ち帰ることにした。

 彼らは、遺族に、

「これが、甚次郎の毛、

 と、話したとか、話さなかったとか。

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