科学特区の鬼面童子

雨降って地固まる

第1話 空からおっさんが降って来た


 ——また残業だよ、ちくしょうっ!こちとら高校生だぞ。少しは早く帰らせる努力をしやがれってんだ。まあ金は欲しいからいいんだけども



 時刻は22:53分。

 もう何度目かも分からない残業に対し心の中で愚痴を呟きながら、俺こと立花優人たちばなゆうとは走っていた。


 23時を超えると一応学生の身分である俺は補導されてしまう。

自然と駆け足になっていたがよくよく考えれば「別に親もいないし困る事はないか」と一度は足を止めるものの、すぐに妹の存在を思い出して「あいつに叱られるのはごめんだ」とまた駆け足になった。



「あーあ、こんな時があったら一瞬で帰れたりするんだろうな」



『超能力』

 ファンタジーの世界でしか聞かない人の理解を超えたその力は、科学の発展と共に現実の世界へと舞い降りた。

 サイコキネシスにテレパシー、テレポーテーションなど様々な能力が開発されている。

 超人手術と呼ばれるこの手術さえ受ければ、誰もが超能力を得られるのが今の時代だ。

 ただし、手術を受けるには当然お金が必要となる。


 幼い頃に両親を亡くし、親戚に引き取られた俺たち兄妹は決して裕福な家庭ではない。

 親戚も別に悪い人ではないのだが、超人手術を受けさせるお金をわざわざ出そうとはしなかった。


 現代では人類の7割が何かしらの能力を持っている。そうなれば持たざる者は迫害を受けるのが自然の理。

 俺は自分一人が虐められるのであればどうでもよかったが、妹のそんな姿だけはどうしても見過ごせなかった。


 高校には行かずに働いてお金を作りたかったが、流石に高校までは出るようにと言われ、なくなく最低限の出席はしているものの他は全てバイトに時間を割いていた。

 全ては妹に超人手術を受けさせるために。



「ま、ないものねだりしたって意味ないし、俺は近道でも使って時短しますかね」



 住宅街の中で異彩な雰囲気を放つボロ屋敷。

 その雰囲気から誰も近寄ろうとしないのだが、この屋敷を抜ければショートカットになるので俺だけはごく稀にこの場所を通り抜けている。



 ——とは言ってもこんな夜中に通り抜けるのは初めてだし…ちょっと不気味だな



 オカルトを信じない時代とはいえ、やはり夜の廃墟というのは不気味だ。

 夜だというのに灯りもついてないし、人気も感じられない。

 早く渡ってしまおうと屋敷の門を飛び越え、中庭を駆け抜けようとした、その時だ。



「………そこの君ーーー!!!、危ないよーーー!!!」



 どこからか声が聞こえて来たかと思えば窓ガラスの割れる音と共に、空から人が落ちてきた。

 無精髭を生やし髪型はオールバック、年齢は4〜50代だろう、体の至るところから血を流した大きなおっさんが、ガラス片と共に空から降って来たのだ。



「いてててて…いや〜、参ったね…どうも…」




 この時、まさかこんなおっさんとの出会いが俺の運命を大きく変えてしまう事になるとは想像もしなかった。

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