【No.087】袖すり合えば……(性的表現あり)【BL要素あり】

【メインCP:男1. 市村いちむら 洸太こうた、男6. 辻浦つじうら 優真ゆうま

【サブキャラクター:女23. ユリストフ・メェメェ】

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「きゃー!! くーにゃん?! くーにゃんが帰ってきたー!!!

 え? まぢで?! ユーマすごいっ! ユーマさいこー!!」


 俺が手渡したアクキーを握り締め、うるさいほどに飛び跳ねているのは我が家の居候だ。

 先日このアクキーを失くしたと普段のうるささが幻ではないかと思うほど落ち込んでいた居候の為に、今日たまたま同じアクキーを持っていた人物と交渉したところ、何故かタダで譲ってもらえた。

 そこでふと、昼間出逢った人物が脳裏にちらついた。

 

「……うるさいよメェメェー? ご近所迷惑になるからやめよー?」


「何言ってんの?! ココ防音完備じゃん! 聞こえる音が少なくて、わたし腹ペコ!」


 いつものことながら胡乱な目でこの居候を見てしまう。

 本人曰く音を食料としている宇宙人らしいが、胡散臭い事この上ない。

 が、ウチにコイツが転がり込んでから冷蔵庫のナカミが減っている様子もないし、水以外口にしている様子もない。

 だからまぁ……音を食べてるって言うのはあながち嘘ではないのかもしれない。


「はぁぁぁぁ! くーにゃん帰ってきたー。これで心置きなく配信聞けるわー。

 まっててくーにゃん! わたしが美味しくいただいてあげるからねー!!」


 ……発言が卑猥だが、コイツは本気でくーにゃんとやらの声を食べるつもりなんだろう。

 いそいそとリビングに置いたパソコンを操作し始めるメェメェの後姿を見ながら、ふと今日俺にあのアクキーを渡した男を思い出していた。


 おどおどした様子……をされるのは、この見た目にしてからはよくある事だったのであまり気にしてないが、アクキーの話をした途端目を輝かせた様子は、年の割に幼く見えて。


「きゃー! くーにゃんきたー!!」


「うるさいよ? メェメェ?」


 ちらりと視線を流せば、モニタにはネコミミを生やしたいかにもなデザインのオンナノコがゆらゆらと揺れていた。

 それは今日の昼に、彼から手渡されたアクキーそっくりの容姿をしていた。……当たり前だが。


「ふふっ。相変わらず自信なさげな様子が美味しぃ~。今日はホラゲ配信なのね? ふひひ。恐怖におののく声を食べさせてぇ!!」


「……変態」


 不審な同居人をじとりと見つめながら、自分用にコーヒーを淹れて、メェメェの隣に腰を落とす。

 モニタでは半泣きの表情を浮かべたネコミミ少女が一生懸命ゲーム内のキャラを操作していた。

 その様子に……やっぱり昼間の彼を思い出す。


「うへへへぇ。美味しいなぁ」


 にやにやとしまりのない顔をするメェメェからイヤホンを取り上げて、パソコンのスピーカーから音を出すようにすれば、いわゆる萌え声の悲鳴が響き渡った。


『ひにゃぁぁぁぁ! こっちくんにゃー! に゙ゃぁぁぁ!!』


「ふひひ~。いいねいいねくーにゃん! その怯えた声最高ぅ! 貴方のメタロンがお布施しちゃいますよー」


「……やっぱり変態……」


 一人鼻息荒く興奮しているメェメェを放っておいて、Vtuberの声に耳を傾ける。

 頑張ってキャラを維持しているが、ところどころに素の感情がはみ出している。巷でも怖いと噂のホラゲに本気で怯えている。

 ネコミミ少女がぷるぷるとネコミミをふるわせて、ネコ由来らしいきゅっと目尻の上がった蒼い目に涙をいっぱい乗せて震えている様子に……やっぱり昼間の彼を思い出す。


「なぁ……このVtuberって……」


「んひひぃ~。やっぱ若い男の子の恐怖に震える声はいいねぇ。普段聞けないから美味しさもひとしおだよー」


「ん?」


「おん? ユーマどしたー? 何か不思議なことでもあったぁ?」


 俺の疑問符付きの言葉に、音に聞き入っていた、いや食事中らしいメェメェが振り向いた。 

 

「いや……このネコミミ、男なのか?」


「聞きゃわかるじゃん」


「いや、わっかんねぇよ。男だっつーならボイチェンか何か使ってんだろうけど、普通わかんねっから」


 改めてネコミミ少女の声に聞き入る。


「そっか。地球人は不便だねぇ。ちょっと待ってね」


 しばらくめぇめぇが口をもぐもぐさせていると、急にモニタから男の声が聞こえてきた。

 ……それは間違いなく……昼間の彼の声だった。


「ほら、これがほんとのくーにゃんの声だよぉ。ボイチェンした部分の音だけ食べてみた!」


 なにやらドヤ顔してるメェメェは放っておいて、彼の声に聞き入る。

 ホラゲで、物陰から飛び出してきたモンスターに本気で悲鳴を上げる彼。

 ビビりながらなんとか配信を続けようと、半泣き声で状況を説明して……不意に現れた敵キャラにやっぱり悲鳴を上げる。


 そんな震える彼の声を聞いて……。


「……勃った」


「ん? わたし勢いよく食べ過ぎてユーマの声聞こえなかったみたい?」


「……勃った」


 俺の言葉を認識した途端、ずさっとメェメェが距離を取る。


「ちょっと! ヤり過ぎてインポになったから安心して住んでいいぞって言ってたじゃん!

 メェメェは一生食料になってくれそうな美(味しい)声の持ち主と結ばれるって決めてるんだからこっちくん……「てめぇじゃねぇよ」 ……あ、そなの?」


 離れた距離を戻ってきたメェメェが、俺が凝視してる先を見る。


「くーにゃん?」


「そう」


 間髪入れず頷けば、僅かに驚きを含んだ視線がメェメェから返ってきた。


「なんで? ユーマ、ネコミミ少女のアニメーションに欲情するタイプだっけ?」


「ちげぇよ。 いわゆる『中の人』てやつだな。今日そのアクキーくれたやつ。多分ソイツがくーにゃんの『中の人』だ」


「……へぇ? まぁ、ユーマには宇宙そらから来て路頭に迷ってたわたしを住まわせてくれた恩があるし、探すの手伝うよー?」


 新宿だったから飢える事はなかったけど宿無しはやっぱ厳しかったからねーと宣いながら、どこかウキウキとネコミミ少女にスパチャするメェメェを横目で見ながら、食い入るようにモニタを見つめる。


 どこか頼りない、おどおどした様子の昼間の彼を思い出す。


 俺みたいなヤツに声を掛けられるのも晴天の霹靂であっただろうに、自分の仮の姿を大事にしてくれる人がいる事を知って、僅かに表情を崩した彼のことを……。


 画面では未だに敵キャラから逃げきれないネコミミ少女が男の声で悲鳴を上げている。


 どうせなら……。


 俺が啼かせたい。

 俺の下に組み敷いて。

 悲鳴のようなあの声に、一匙の甘さを乗せたら一体どうなる? ……どれだけ滾る?


「おぅおぅ悪いカオしてるぅ~」


「しってる……。相手のアテはついてる。

 メェメェ、声聞いて同一人物か確認してくれるか?」


 上がりっぱなしの口角に、狩猟本能とでも言えそうな血の滾りを感じながら、俺は決意する。


「おっまかせー。イッシュクイッパンのオンは宇宙人ワスレナイヨー」


「一宿一飯どころじゃねぇけどな」


 そして俺は、くーにゃん、こと市村洸太を手に入れる為に動き出す。



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【本文の文字数:2,685字】

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