【No.074】婚活よりコンサルを【性描写あり】
【メインCP:男30.
【サブキャラクター:男5. ブレード・グランドゥール、男16.
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なぜ結婚できないのか。
今までの経験から私は課題解決は得意だと自負している。適切な
ただ、こと恋愛・結婚においてはそのisuueがまず見つからない。手前味噌だが、どう考えても自身に問題があるとは思えないからだ。
しかし、見つからないと嘆いているだけでは前へは進めない事も重々承知している。
だから、私は一歩を踏み出すことにし、婚活パーティーに参加することにした。
結婚願望を持つ男女が集まり、互いの需要をマッチングする会合。素晴らしく合理的だ。まるでベルトコンベアのごとく次々と相対する多様な男性の嗜好を調査することで私の課題を解決する糸口もきっと見つかるだろう。と私は安易に考えていた。
結論から言うと、その希望的観測は見事に打ち砕かれる。
男性があまりに多様過ぎたのだ。
私の参加した回が特異だったのか、それとも婚活パーティーとはデフォルトでそういうものなのかが気になったので、同性の参加者に意見を求めた。
会場で唯一、着物を着用していた女性だ。名札には弱竹とあった。何と読むのだろうか、フリガナがないので分からず終いだ。
服装で男性の注目を集める戦略性の高さから経験者であると判断したのだった。
「婚活パーティーは初めてなんですが、いろいろな方が参加されるんですね」
「ふふ、そうですね。何回か参加していますが、今回はとみに面白くございました」
なるほど、前者だったらしい。私が一人納得していると、弱竹さんは慌てた様子で補足する。
「何回かと申し上げましたが、私は別に伴侶を求めているわけではないのです」
不思議なことを言う。婚活パーティーに結婚相手以外に求めるものがあるのだろうか。私が得心がいかない表情をしていると彼女は早口で更に続ける。
「私はしがない物書きではありますが、普段は篭の鳥のような生活をしております故、たまに下界を見学しないと良い物語が書けませんの」
なるほど。私は根っからの理系人間であり、不本意ながら同僚から”AI”と渾名をつけられるくらいなのでその辺の機微は良く分からないが、そういうものなのだろう。
人間観察を目的に婚活パーティーへ複数回参加している女性が、「とみに面白い
」という男性陣を何人か紹介したいと思う。
1人目は加賀美という男性だ。看護師をしている一見好感触な同年代男性であったが、目の奥が笑っていなかったし、うまく言語化できないが会話に違和感があった。
「どういった女性が好みなんでしょうか?」
たった1回の参加でパートナーを見つけられると私は思っていなかった。プレゼンでそんな楽観的なプランを提案したら、契約は取れないだろう。
今回は飽くまで市場調査だ。だから、相手に好かれる必要はなく質問は単刀直入でよかった。
「そうですね、健康的な女性がいいですね」
「なるほど、健康的ですか。健康的というのは、容姿で判断するのでしょうか?」
「容姿は気にしませんね。とにかく健康であれば」
「……それは有り体に言うと、子供を産むのに支障がない女性という意味でしょうか?」
私は相手の意図を汲み取るのが得意だ。IT業界に多い口下手な部下をそのスキルで何人も救ってきた自負がある。そして、男性はそういう願望を潜在的に持っているということも、SNSなどで学んだ。
だから、私は切り込んだ質問をしたのだが、加賀美氏は笑っていた。
「そうじゃないですよ。病院勤めが長いから、健康的な人に惹かれるんです」
そんな理由で健康的な人を好きになるのだろうか。恋愛に疎い私には分からない。それに加賀美氏の表情からは恋慕というよりも、獲物を前にした獣のような雰囲気を感じてしまった。
2人目はいわゆる不思議系というのだろうか、いや不思議を通り越して少し不審な若い男性だった。名は月野と言っていた。
「そんなにお若いのに、どうして婚活を?」
月野氏は20歳の大学生だった。成人していれば出られるパーティーだったので、何も問題はないが、大学生は大学生同士でパーティーするのが健全だと私は思う。
まぁ私は大学生時代に男女が大勢集まるパーティーをしたことはないけど。
「わたし、人間すき。このパーティー、面白い人間たくさんいるね。だから、出る。お金は大変だけど」
驚いた。服装も話し方も対極である弱竹さんと同じような理由で参加しているとは。婚活パーティーは私が想像しているよりも遥かに構造が複雑なのかもしれない。
3人目は最早迷い込んだとしか思えない人物だ。金髪碧眼で騎士のコスプレをしていた。
コスプレをする婚活パーティーもあるとは聞き及んだ事があるから、会場を間違えたのかもしれないと思ったが、会話をするとその予想は覆された。
「気分を害したら申し訳ないのですが、時間もあまりないので率直に聞きます。貴方はなぜここにいるんですか?」
ビジネスで多用される枕詞をつけたが、かなり失礼な質問だと自分でも思う。だが、1人3分と決められた制限時間を社交辞令で無駄に使うわけにはいかない。
「それは、私が聞きたい。食事会だと言うから来てみたら、沢山の女性と代わる代わる話をさせられる。
やはり、迷い込んだらしい。容姿が整っているのでサクラとして運営会社のスタッフに無理やり誘われたのだろうか。事前のWEB調査でそういうこともありうるとは認識している。
「私も初めてなので詳しくありませんが、結婚相手を選別する会合です」
「……なるほど、ではここにいる者達は王族や貴族なのか?」
「何がなるほどなのかは分かりませんが、ちがいます」
「そうなのか、やはり、異なる世界に来てしまったようだな」
役になりきっているのか、彼の言っていることは良く分からない。私は私の疑問を解決させてもらおう。
「食事会と仰いましたが、食事をするだけなら飲食店に行けばいいのでは?」
「それは……」
騎士は言い淀む。
「ああ、単なる好奇心なので答えたくなければ無理に答えなくて大丈夫ですよ」
「いや、それは騎士道に反する。実は……先立つものが無くてな。代金無しで良いと言うから来たのだ」
なるほど。コスプレには金がかかると友人から聞いたことがある。見た所、この騎士もかなり若いから経済的に色々大変なのだろう。私は養うことに愛を見出すタイプではないので、他に良い人が見つけてくれることを祈るだけにしておいた。
とにかく疲れた。フォロー力には自信があったがそれは常識の範疇に収まる人間に限定されるらしい。浮世離れした変人は保証対象外だ。
パーティが終わって外に出ると、秋雨が降っていた。常時、鞄に折りたたみ傘を入れているので急な雨でも慌てはしない。
ただ疲労のせいか嫌なことを思い出した。同僚に『そういう隙のない所が、男に尻込みさせるのよ』と言われたことだ。
その時は言っている意味が分からなかったが、自身の課題に向き合い様々な男性と話した後はなんとなく理解できる。
多くの男性は自分より能力が劣ると判断する女性(実際に劣っているかは問題ではない)を守ることに喜びを見出し、女性に優位に立たれる事に大なり小なり屈辱のようなものを感じるという事だろう。
だとしたら、解決が困難なisueeだ。無能なフリはできるが、そんなのストレスフルすぎる。そこまでストレスを感じてする結婚に意味があるのだろうか。
低気圧のせいか、考えがネガティブに寄せられていた。
そんな状況だからか、無意識に視界の端で大きな負の波動を感じる。フォロー力を高めすぎて第六感的にトラブルの兆候に敏感になってしまっていたが、駅前の雑踏というこんなに広い空間で発揮するのは始めてだ。
黒い傘をさし、量販店で揃えたようなどこにでもある格好をした20代後半くらいの男性が路地裏に入っていく。
それほどおかしな光景ではないが、何故かものすごいトラブルの匂いがする。性根が問題解決を好んでいるのか、ふらふらと私も同じ路地裏に入っていく。
「生きていたければ、それ以上進むのはやめた方が良いぞぉ」
路地裏に入った瞬間にそう声を掛けられたが、付近に人影は見当たらない。追跡していた不穏な雰囲気の男性も消えている。路地裏の分岐や建物の入口が付近にはないのに一体どこに消えたというのか。
「誰ですか? どこにいるんです?」
不審な声に警戒心を高めて忠告通り私は立ち止まる。
もし、私に危害を加えるつもりであればこんな質問には答えないだろうなと思いながらも、何らかのリアクションがされることを期待して私は路地裏の奥に向けて声を発した。
すると、ガラクタの影から野良の大型犬がトボトボとした足取りで姿を現す。この大きさの獣が野良になって向き合うのは、本能的に少し恐怖を感じる。
「驚かせてごめんね。貴方には用事はないの」
犬を興奮させないように努めて穏やかな口調でそう諭した。
「問いかけてきて、用事がないとはこれいかに。トンチかな? ひとやすみ、ひとやすみ」
どう考えてもその声は犬から発せられていた。
信じられない。考えられない。脳が思考を停止しようとするが、意識的に深呼吸をして酸素を多く取り込み、無理やり脳を活性化させる。
仕事をしていれば、イレギュラーは必ず起こる。それこそ耳を疑うような出来事も飛び込んでくる。そういう時こそ冷静に誠実に対応するのだ。それが、仕事ができるできないの分水嶺のひとつだと私は考えている。
「何故喋れるの? 貴方は本当に犬なの?」
「恐ろしく冷静なお嬢さんだあ。さぞかし、仕事もできるのだろうなあ! お察しの通り、俺は確かに只の犬じゃあない。そもそも、生物の類じゃあない。機械の犬。増田たかしモデル2改、心は40代のピチピチ中年男性だ」
後半の意味不明な発言は無視して、気になる事だけを聞き返す。
「機械? こんなに自立して行動できる犬型ロボットなんて聞いた事ない」
「世俗の事は良く分からん。疑うなら触ってみると良い。いつもなら、30分6,000円の前払い制だけども、お嬢さんはそこそこ可愛いから今回は特別に無料にしておこう」
発言がクライアントにたまにいる昭和のセクハラおじさんそのものだから、機械であることがより疑わしくなったが、こうして会話ができている時点で犬ではない事は確定している。ならば、次の可能性を探るべきだ。
私は恐る恐る雨でびしょ濡れの大型犬の体に触れる。
確かに体毛は親戚の家のゴールデンレトリバーの手触りとは違い、化学繊維感が強い。何より違うのは体毛の奥から体温をまるで感じない。雨で冷え切った金属そのものだった。口元にはスピーカーらしきものも発見した。
これらの情報から判断すれば確かにこの犬は機械なのだろう。ファクトを否定しない。それは物事を前に進めるうえで非常に大切なことだ。
「こんなすごいもの、一体誰が作ったの?」
「とある学生だ、変な奴だがそんなにすごいことなのか?」
「学生!? 会わせてくれない?」
「んーそいつぁ無理だ。俺ははぐれ犬純情派。可愛い小型犬の
「すごいんだか、すごくないんだか、よく分からない……でも、貴方、帰る家がないのね?」
「この星のすべてが俺の家とも言えなくもないわなぁ」
これはチャンスかもしれない。
この犬の制御システム、主にAIの部分を解析できれば自分の業務スキルは格段にあがる。いや、そんなレベルじゃない。今の市場のパワーバランスを崩し、弊社がGAFAと肩を並べることさえ視野に入ってくるだろう。
そんなことを考えている自分が、心底楽しんでいるのを自覚する。先ほどのパーティよりの何百倍も楽しい。そもそも先ほどのパーティーは楽しさで言ったらマイナス値だから、負の値を掛けなければいけないけど。
私はこの仕事が好きなんだ。ならば、とことん突き詰めるのもいいかもしれない。偶発的事象に意味を求めるのはあまり好きじゃないけど、この出会いはそんな私の背中を押しているのかもしれない。
「よかったら、ウチに来る?」
「……いいのか? 俺は中身おっさんだし、犬だから資産なんて何もないぞ」
「大丈夫、体で払ってもらうから」
「それは至れり尽くせり。ちなみに俺はMだから攻められるのが好きだぞ」
「そうね、是非貴方の全てを見せてほしい」
こうして、中年セクハラ機械犬との奇妙な同居生活が始まったのだった。
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【本文の文字数:4,985字】
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