【No.030】「見せたくない」は恋の始まり
【メインCP:男9.
【サブキャラクター:男5. ブレード・グランドゥール、男18. シックル、男19.
----------
「どうだっ。これが、
会議室のスクリーンをバックに、私の自信満々の
あれっ、スベっちゃった? 拍手喝采の場面だと思ったんだけどな。
「いや、バッカじゃないの? カタカナのバカ通り越して漢字で馬鹿じゃないの?」
スマホの将棋アプリをポチポチやりながら鋭い目を向けてきたのは、私と同じ黒髪ツインテールが目を引く、
まだ小学六年生だけど将棋がメチャクチャ強くて、しょうれい会?ってところでプロ棋士を目指してるらしい。女性で彼女くらい強かったら女流棋士っていうプロ活動の道もあるそうだけど、そんなの寄り道にしかならないから興味ないんだって。まあ、たまにやる不指導対局イベントで彼女にぶった斬られたい将棋ファンから参加費を巻き上げてくれるから、運営的には大歓迎だけど。
「ふぇっ、ボクも下着見せるんですかぁ……? 不道徳なのはお父様に怒られちゃうと思いますぅ……」
泣きそうな声で次に意見表明したのは、綿菓子みたいなふわふわヘアーがチャームポイントの、ドジっ子担当・
ちゃんと人間界に戸籍があるのを
「違うんだなー、あくまで見せパンは見せパンってのがポイントなの。本物の下着じゃないんだけど、日ごと、メンバーごとに色や柄を変えることで、お客さんはまるでホントの下着が見えちゃったみたいで嬉しいし、こっちは見せパンだからノーダメージだし、っていう……。
最後の一人に水を向けると、「あはは……」と困ったような作り笑いが返ってきた。
「なんてゆーか、『同じJK』からその発想が出てくるの普通に怖いっていうか……。百歩譲ってキモいオジサンが言うならまだ分かるんですけど」
「キモいオジサン!?」
プロデューサーのセンスをさらっとディスってくれたのは、黒髪ボブヘアーを可哀想なくらい外ハネさせた、振り回され担当の
どう、なんでもありでしょ、このユニット。一周回って将棋の神童が一番現実的なの狂ってるでしょ。
そのメスガキ……じゃない、神童ガールが、スマホから顔も上げずに言ってくる。
「やりたいならアンタが自分のグループでやったらいいじゃない。私は
「アイドルだけに?」
「ダジャレ大会やってんじゃないわよ!」
うぐっとなった私に、
「てかっ、何
「ですぅ……今だって、ステージで転んで黒パン見えちゃうだけでも昇天しちゃいそうになりますしぃ……」
うぅーん、みんなショウビジネスをわかってないなぁ。アイドルの「スカートひらり」なんて商売道具じゃないの。そりゃー本物の下着が見えちゃったらダメだけど、その点への配慮も踏まえた完全無欠のプランだと思ったんだけどなー。
「宜しいですか、お嬢様」
と、そこで、部屋の隅で静かに控えていた執事服の男性が、銀縁眼鏡をクイッと上げて話に入ってきた。
アイドル業は色々物騒だからって、
「いいけど、お嬢様じゃ……」
「男の
「お嬢様じゃないって。……どういうこと?」
「考えてもみて下さいませ。スカートの中を周目に晒してしまうのは、
「……うん」
「そこへ、本物と見紛う見せパンをわざと見せつけるなどしてごらんなさい。本人のうっかりと思われるならまだマシでございますが、運営が率先して未成年にそんなことをさせていると勘付かれた日には……」
「むむっ……」
セバスチャン、もとい加賀さんの言いたいことは私にもわかった。メンバー達もウンウンと頷きながら、「事前に考えなかったんですか?」と言いたげなジト目を揃って向けてくる。
「炎上不可避って言うんでしょ? しょぼん、わかったよぉ……」
メンバー個人が炎上キャラで売るのはいいけど、運営ごと炎上するのは普通にヤバイもんね。いよいよプロデューサー権限を取り上げられかねないし。
「じゃあ、またいい案考えておくからっ。さぁっ、切り替えて、健康診断にレッツゴーだよ」
「はいはい。今度はもっとマトモな話持ってきなさいよね」
「ふぇぇ、お天道様に顔向けできるやつでお願いしますぅ……」
「うー、それより病院で正体バレちゃわないか不安だなぁ……」
鳳凰バレにビクつく
◆ ◆ ◆
芸能人
「あーあ。さっきの案、天啓だと思ったんだけどなー」
「お嬢様、ご存知ですか。誰もやっていない斬新なアイデアと申しますのは……」
「先人が思いついても敢えてやらなかったことだ、っていうんでしょ? わかってるわよぉ、私だってこの業界長いんだからっ」
せっかく
と、その時、業務用のスマホに病院の番号から着信。はて、何か問題でもあったかな、と思って出てみると、
『健康診断のご予約を頂いておりましたが、お見えにならないので……』
そんなっ、確かに病院の受付まで送っていったのに。
「まさかっ!?」
嫌な予感が脳裏をよぎって、私は気付けば脱兎のごとく駆け出していた。
商業施設を出て人混みをかき分け、スマホのGPSを頼りに病院の裏手へ回ってみると、そこには献血バスに似た怪しげな車両が停まっていて、
「ミスター加賀美、この三人で間違いないですか」
いかにも怪しさ満点の人達が、意識を失ったウチのアイドル達を連れ去ろうとしているところだったわけで。
「ちょっと、何してるのっ!」
叫びながら駆け寄る私に、鷹揚とした仕草で振り向いたのは、白衣を纏った眼鏡の男だった。
「その子達に何したの!? 悪の組織の研究者のテンプレみたいな格好してっ……!」
「おや、バレてしまったなら仕方がない。その通り、悪の組織の研究者ですよ。君は?」
私は
「その子達のプロデューサーよ。皆を解放しなさい!」
「くっくっ、手放すことは出来ませんね。天才少女に自称神の子に自称鳳凰族のハーフ。どれも素晴らしい実験サンプルになりそうだ」
白衣男が顎で指示すると、下っ端らしい男達が私を囲むように距離を詰めてきた。
襲ってくる男達を前に身構える私。これでもアイドルの端くれ、護身術の
(あっミニスカっ……ええい、防御してるからいいかっ!)
見せパンなんかコイツらに見せても減るもんじゃない。一瞬で割り切って、前に探偵さんから教わった前蹴りをえいやっと繰り出す私だったが、
「効かねーなぁ、嬢ちゃん!」
嗜み程度の護身術でどうにかなるなら、警察もボディガードも要らないわけで。
「うぅっ……。わ、私を代わりに連れてっていいからっ、その子達は放してっ……!」
呆気なく組み据えられた私に男達の魔の手が迫る。直後の展開はもう、ファンの皆様の予想通りってやつで、
「お嬢様っ!」
「主犯の貴方、神妙にお縄についた方が身のためですよ」
遠くから近付いてくるパトカーのサイレン音。
「なるほど、今回は相手が悪かったようだ。まあいい、サンプルはいくらでもいます」
きびすを返して裏路地に消えていく男。メンバー達の安否を確かめにかかる
「なんで捕まえないのっ!?」
「
優雅な動きで振り向いた彼が、そっと私に近付き、僅かに目をそらしたまま手を差し出してくる。
ミニスカートが捲れ上がったままだったことにハッと気付いて、私は反射的に足を閉じて――そして。
(……あれっ、私、なんで……)
中には二重に防御を敷いていて、生の下着なんてカケラも見えるわけないのに。
それでもなぜか――瞬間的に恥ずかしいと感じた自分に、私は気付いてしまっていた。
「そ、その……見た!?」
「
優しく差し出されるその手を、私は握り返して――
(……もしかして、これが……)
自分の顔をかぁっと熱くさせるその気持ちに、どう名前を付けたらいいのか分からず、
「どうされました、お嬢様?」
「……なんでも、ないっ」
ニコリと向けられる彼の笑顔から、思わず目を背けてしまった。
◆ ◆ ◆
あの事件から少しして、私はこの日も慌ただしいアイドル業の渦中にあった。
今日は自分のグループのミニアルバム発売記念の握手会。アイドル兼プロデューサーは忙しくって仕方ない。
「来てくれてありがとっ、
「実践!? 何があったのモカさん、大丈夫?」
「大丈夫だよー、ピンピンしてるでしょっ。でも、やっぱり素人には難しいねー。ねえ、逆に雷香さんがアイドルやらないっ?」
「何が『逆に』か知らないけど、私は探偵の本業があるから……」
作り笑いで私のスカウトを固辞する探偵さん。むぅっ、美人さんだし売れると思うんだけどなー。
私はアイドルスマイルを保ったまま、同伴の彼氏さんにも目を向ける。
「じゃあ、ブレードさんは? 歌って踊って戦える外国人アイドルとかバズ案件じゃない?」
「いや、俺は歌はともかく踊りは……。もとい、俺には彼女を守る使命があるからな」
表情ひとつ変えないままキリっと言い切る自称騎士さん。このヒトもキャラ濃いんだよなぁ。隣の雷香さんは顔真っ赤にしてるけど。
「お時間です」
次のお客さんは顔馴染みのお兄さん。でも、今日は初めて女性を連れていた。
「わぁっ、シックル君っ。今日も来てくれたんだっ。そちらはカノジョさん?」
「まあ……。新曲よかったよ、モカちゃん」
彼がちょっと照れくさそうに隣の女性に視線をやると、彼女はどこか私に似た瞳をキラッとさせて。
「シックル君の魂の伴侶のノゾミちゃんでーすっ。モカちゃんの書いた新曲、私も感動しちゃった。『見せたくない』は恋の始まり、うーん、いいフレーズだよねっ」
やっぱりどこかアイドルモードの私に似た喋り方で、楽しそうに手を握ってくる。
「これってモカちゃんの実体験? ねぇねぇ、何を見せたくないの?」
「それはー……うんっ、秘密っ」
えぇー、と口をとがらせる彼女に、ぺろっと舌を出して、
「お時間です」
私は剥がし役の
----------
【本文の文字数:5,000字】
【板野作品からの登場キャラクター】
・「匿名短文元神童企画」参加作『弟子入り志願』より、少女
https://kakuyomu.jp/works/16816700428555431158/episodes/16818093084373966770
・「ミケ猫さんを超えてゆけ杯」参加作『天帝の顔もN度まで ―ドジっ子アイドル爆誕秘話―』より、エレア
https://kakuyomu.jp/works/16816700428555431158/episodes/16818093085517306931
・「匿名キャラ設定企画」より、
https://kakuyomu.jp/works/16816700428555431158/episodes/16818093085904336589
★この作品が気に入った方は、応援、コメントで投票をお願いします!
★特に気に入った作品はコメントで「金賞」「銀賞」「銅賞」に推薦することができます(推薦は何作でも無制限に行えます)。
★各種読者賞の推薦も同じく受付中です。今回は「キュンとした賞」を含む常設の読者賞に加えて、「末永く爆発しろ賞」「さっさとくっつけ賞」「ギャップ萌え賞」「オトナの恋愛賞」を特設しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます