【No.030】「見せたくない」は恋の始まり

【メインCP:男9. 加賀かが 可惜あたら、女21. 紅谷ベニヤ 萌歌モカ

【サブキャラクター:男5. ブレード・グランドゥール、男18. シックル、男19. 加賀美かがみ 智彦ともひこ、女3. 銀音シロガネ 雷香ライカ、女24. 対象男性の望むように】

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「どうだっ。これが、萌歌モカPが物語モノガタールズに授ける完璧で究極の客寄せ戦略、名付けて『疑似なま下着パン作戦』だよっ!」


 会議室のスクリーンをバックに、私の自信満々の宣言プレゼンが炸裂する。バッチリ決まった――と思いきや、我が社の自慢の新人アイドル達は三者三様に「えぇえ……」と微妙な反応を返してきた。

 あれっ、スベっちゃった? 拍手喝采の場面だと思ったんだけどな。


「いや、バッカじゃないの? カタカナのバカ通り越して漢字で馬鹿じゃないの?」


 スマホの将棋アプリをポチポチやりながら鋭い目を向けてきたのは、私と同じ黒髪ツインテールが目を引く、物語モノガタールズのツンデレ担当・須垣すがきメイ。デレてるところは一度も見たことないから、ツンツン担当に改称してもいいかなって思うんだけど。

 まだ小学六年生だけど将棋がメチャクチャ強くて、しょうれい会?ってところでプロ棋士を目指してるらしい。女性で彼女くらい強かったら女流棋士っていうプロ活動の道もあるそうだけど、そんなの寄り道にしかならないから興味ないんだって。まあ、たまにやる指導対局イベントで彼女にぶった斬られたい将棋ファンから参加費を巻き上げてくれるから、運営的には大歓迎だけど。


「ふぇっ、ボクも下着見せるんですかぁ……? 不道徳なのはお父様に怒られちゃうと思いますぅ……」


 泣きそうな声で次に意見表明したのは、綿菓子みたいなふわふわヘアーがチャームポイントの、ドジっ子担当・天上あまがみエレア。自称、天上界のドジっ子女神の生まれ変わりで、あまりにドジっ子が過ぎるので天帝お父様の勅命で下界に修行に来てるらしい。何回ドジっ子って言うんだろう。

 ちゃんと人間界に戸籍があるのを運営わたしは知ってるんだけど、なんか、親御さんはイエスにとってのヨセフのポジションとか何とか。まあアイドルとしてキャラ徹底できてるなら何でもいいんだけど。


「違うんだなー、あくまで見せパンは見せパンってのがポイントなの。本物の下着じゃないんだけど、日ごと、メンバーごとに色や柄を変えることで、お客さんはまるでホントの下着が見えちゃったみたいで嬉しいし、こっちは見せパンだからノーダメージだし、っていう……。風凛プリンはどう、同じJKなら分かるでしょ?」


 最後の一人に水を向けると、「あはは……」と困ったような作り笑いが返ってきた。


「なんてゆーか、『同じJK』からその発想が出てくるの普通に怖いっていうか……。百歩譲ってキモいオジサンが言うならまだ分かるんですけど」

「キモいオジサン!?」


 プロデューサーのセンスをさらっとディスってくれたのは、黒髪ボブヘアーを可哀想なくらい外ハネさせた、振り回され担当の鳳橋とりはし風凛プリン。三人の中では最年長の高校一年生で、なんでも鳳凰族と人間のハーフらしい。いかにも巻き込まれ型です~みたいな顔して、たまに翼が生えた写真をSNSに上げたりしてるから、キャラ作りには余念がないんだろう。

 どう、なんでもありでしょ、このユニット。一周回って将棋の神童が一番現実的なの狂ってるでしょ。

 そのメスガキ……じゃない、神童ガールが、スマホから顔も上げずに言ってくる。


「やりたいならアンタが自分のグループでやったらいいじゃない。私は悪手あくしゅだと思うけどー」

「アイドルだけに?」

「ダジャレ大会やってんじゃないわよ!」


 うぐっとなった私に、風凛プリンがちょっと頬を赤らめながら追撃。


「てかっ、何穿いてたって恥ずかしいものは恥ずかしいですよ? ねーエレたん」

「ですぅ……今だって、ステージで転んで黒パン見えちゃうだけでも昇天しちゃいそうになりますしぃ……」


 うぅーん、みんなショウビジネスをわかってないなぁ。アイドルの「スカートひらり」なんて商売道具じゃないの。そりゃー本物の下着が見えちゃったらダメだけど、その点への配慮も踏まえた完全無欠のプランだと思ったんだけどなー。


「宜しいですか、お嬢様」


 と、そこで、部屋の隅で静かに控えていた執事服の男性が、銀縁眼鏡をクイッと上げて話に入ってきた。

 アイドル業は色々物騒だからって、社長叔父さんが顧問探偵のツテで先日契約してきたボディガード。本名は確か加賀かがさん、でも自称は執事のセバスチャン。このヒトが一番キャラぶっ飛んでない?


「いいけど、お嬢様じゃ……」

「男のわたくしから見ましても、お嬢様の案はいささか危なっかしいかと思います。それなら本物の下着と思われる方がまだマシかと」

「お嬢様じゃないって。……どういうこと?」

「考えてもみて下さいませ。スカートの中を周目に晒してしまうのは、女性レディにとって恥ずべきうっかりミスでございます。見せパンなり黒パンなりというのは、本人は元より運営側が、その危険性からしっかりメンバーを守ろうとしていることの現れではありませんか」

「……うん」

「そこへ、本物と見紛う見せパンをわざと見せつけるなどしてごらんなさい。本人のうっかりと思われるならまだマシでございますが、運営が率先して未成年にそんなことをさせていると勘付かれた日には……」

「むむっ……」


 セバスチャン、もとい加賀さんの言いたいことは私にもわかった。メンバー達もウンウンと頷きながら、「事前に考えなかったんですか?」と言いたげなジト目を揃って向けてくる。


「炎上不可避って言うんでしょ? しょぼん、わかったよぉ……」


 メンバー個人が炎上キャラで売るのはいいけど、運営ごと炎上するのは普通にヤバイもんね。いよいよプロデューサー権限を取り上げられかねないし。


「じゃあ、またいい案考えておくからっ。さぁっ、切り替えて、健康診断にレッツゴーだよ」

「はいはい。今度はもっとマトモな話持ってきなさいよね」

「ふぇぇ、お天道様に顔向けできるやつでお願いしますぅ……」

「うー、それより病院で正体バレちゃわないか不安だなぁ……」


 鳳凰バレにビクつく風凛プリンの背中をぽんっと叩いて、プロデューサー直々に病院に同伴するべく皆を連れ出す私。ウチの事務所は福利厚生ちゃんとしてるのだ。見直したでしょ?



 ◆ ◆ ◆



 芸能人御用達ごようたしの総合病院に三人を送り届けた私は、待ち時間で近くのファッションビルをぶらついていた。ビビっと来る店員さんやお客さんがいたら声かけてアイドルにしちゃおう、なんて下心も抱いたりしつつ。


「あーあ。さっきの案、天啓だと思ったんだけどなー」

「お嬢様、ご存知ですか。誰もやっていない斬新なアイデアと申しますのは……」

「先人が思いついても敢えてやらなかったことだ、っていうんでしょ? わかってるわよぉ、私だってこの業界長いんだからっ」


 せっかく帽子キャップとグラサンで変装してるのに、一歩後ろを執事服が付いてくるものだから周りの視線が気になってしょうがないんだけど。

 と、その時、業務用のスマホに病院の番号から着信。はて、何か問題でもあったかな、と思って出てみると、


『健康診断のご予約を頂いておりましたが、お見えにならないので……』


 そんなっ、確かに病院の受付まで送っていったのに。


「まさかっ!?」


 嫌な予感が脳裏をよぎって、私は気付けば脱兎のごとく駆け出していた。

 商業施設を出て人混みをかき分け、スマホのGPSを頼りに病院の裏手へ回ってみると、そこには献血バスに似た怪しげな車両が停まっていて、


「ミスター加賀美、この三人で間違いないですか」


 いかにも怪しさ満点の人達が、意識を失ったウチのアイドル達を連れ去ろうとしているところだったわけで。


「ちょっと、何してるのっ!」


 叫びながら駆け寄る私に、鷹揚とした仕草で振り向いたのは、白衣を纏った眼鏡の男だった。


「その子達に何したの!? 悪の組織の研究者のテンプレみたいな格好してっ……!」

「おや、バレてしまったなら仕方がない。その通り、悪の組織の研究者ですよ。君は?」


 私は変装グラサンを取り去り、後先なんて考えず啖呵を切った。


「その子達のプロデューサーよ。皆を解放しなさい!」

「くっくっ、手放すことは出来ませんね。天才少女に自称神の子に自称鳳凰族のハーフ。どれも素晴らしい実験サンプルになりそうだ」


 白衣男が顎で指示すると、下っ端らしい男達が私を囲むように距離を詰めてきた。

 襲ってくる男達を前に身構える私。これでもアイドルの端くれ、護身術のたしなみくらい――。


(あっミニスカっ……ええい、防御してるからいいかっ!)


 見せパンなんかコイツらに見せても減るもんじゃない。一瞬で割り切って、前に探偵さんから教わった前蹴りをえいやっと繰り出す私だったが、


「効かねーなぁ、嬢ちゃん!」


 嗜み程度の護身術でどうにかなるなら、警察もボディガードも要らないわけで。


「うぅっ……。わ、私を代わりに連れてっていいからっ、その子達は放してっ……!」


 呆気なく組み据えられた私に男達の魔の手が迫る。直後の展開はもう、ファンの皆様の予想通りってやつで、


「お嬢様っ!」


 疾風かぜを纏う勢いでその場に突進してきた執事服のボディガードが、涙に滲んだ私の視線の先で、瞬く間に男達をなぎ倒してしまったわけで。


「主犯の貴方、神妙にお縄についた方が身のためですよ」


 遠くから近付いてくるパトカーのサイレン音。加賀さんセバスチャンの鋭い眼光に見据えられ、白衣男はふっと諦めるような笑いを見せた。


「なるほど、今回は相手が悪かったようだ。まあいい、サンプルはいくらでもいます」


 きびすを返して裏路地に消えていく男。メンバー達の安否を確かめにかかる加賀さんセバスチャンに、私はその場にへたり込んだまま声を上げる。


「なんで捕まえないのっ!?」

わたくしは警察ではありません。あなた様の執事でボディガードです、お嬢様」


 優雅な動きで振り向いた彼が、そっと私に近付き、僅かに目をそらしたまま手を差し出してくる。

 ミニスカートが捲れ上がったままだったことにハッと気付いて、私は反射的に足を閉じて――そして。


(……あれっ、私、なんで……)


 中には二重に防御を敷いていて、生の下着なんてカケラも見えるわけないのに。

 それでもなぜか――瞬間的に恥ずかしいと感じた自分に、私は気付いてしまっていた。


「そ、その……見た!?」

わたくしは何も見てはおりません。さあ、人が来る前に身だしなみをお直しになって」


 優しく差し出されるその手を、私は握り返して――


(……もしかして、これが……)


 自分の顔をかぁっと熱くさせるその気持ちに、どう名前を付けたらいいのか分からず、


「どうされました、お嬢様?」

「……なんでも、ないっ」


 ニコリと向けられる彼の笑顔から、思わず目を背けてしまった。



 ◆ ◆ ◆



 あの事件から少しして、私はこの日も慌ただしいアイドル業の渦中にあった。

 今日は自分のグループのミニアルバム発売記念の握手会。アイドル兼プロデューサーは忙しくって仕方ない。


「来てくれてありがとっ、雷香らいかさんっ。そうだ私っ、こないだ護身術を実践してみたんだけど……」

「実践!? 何があったのモカさん、大丈夫?」

「大丈夫だよー、ピンピンしてるでしょっ。でも、やっぱり素人には難しいねー。ねえ、逆に雷香さんがアイドルやらないっ?」

「何が『逆に』か知らないけど、私は探偵の本業があるから……」


 作り笑いで私のスカウトを固辞する探偵さん。むぅっ、美人さんだし売れると思うんだけどなー。

 私はアイドルスマイルを保ったまま、同伴の彼氏さんにも目を向ける。


「じゃあ、ブレードさんは? 歌って踊って戦える外国人アイドルとかバズ案件じゃない?」

「いや、俺は歌はともかく踊りは……。もとい、俺には彼女を守る使命があるからな」


 表情ひとつ変えないままキリっと言い切る自称騎士さん。このヒトもキャラ濃いんだよなぁ。隣の雷香さんは顔真っ赤にしてるけど。


「お時間です」


 次のお客さんは顔馴染みのお兄さん。でも、今日は初めて女性を連れていた。


「わぁっ、シックル君っ。今日も来てくれたんだっ。そちらはカノジョさん?」

「まあ……。新曲よかったよ、モカちゃん」


 彼がちょっと照れくさそうに隣の女性に視線をやると、彼女はどこか私に似た瞳をキラッとさせて。


「シックル君の魂の伴侶のノゾミちゃんでーすっ。モカちゃんの書いた新曲、私も感動しちゃった。『見せたくない』は恋の始まり、うーん、いいフレーズだよねっ」


 やっぱりどこかアイドルモードの私に似た喋り方で、楽しそうに手を握ってくる。


「これってモカちゃんの実体験? ねぇねぇ、何を見せたくないの?」

「それはー……うんっ、秘密っ」


 えぇー、と口をとがらせる彼女に、ぺろっと舌を出して、


「お時間です」


 私は剥がし役の加賀さんセバスチャンの長身を見上げ、ちょっぴり頬を熱くしたのだった。



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【本文の文字数:5,000字】

【板野作品からの登場キャラクター】

・「匿名短文元神童企画」参加作『弟子入り志願』より、少女

https://kakuyomu.jp/works/16816700428555431158/episodes/16818093084373966770

・「ミケ猫さんを超えてゆけ杯」参加作『天帝の顔もN度まで ―ドジっ子アイドル爆誕秘話―』より、エレア

https://kakuyomu.jp/works/16816700428555431158/episodes/16818093085517306931

・「匿名キャラ設定企画」より、鳳橋とりはし風凛プリン

https://kakuyomu.jp/works/16816700428555431158/episodes/16818093085904336589

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