9月29日 公開分

【No.020】シルバー&タイガー+リトルクイーン!

【メインCP:男8. ユキトラ カドザキ、女3. 銀音シロガネ 雷香ライカ

【サブキャラクター:男4. 夜鳥ヤトリ 繰流衛門クルエモン、男13. 花澤ハナザワ 風太フウタ、女14. 流山ながれやま みな】

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 銀音雷香しろがねらいかは私立探偵である。

 若いながらも優秀な捜査技術と依頼人に寄り添う方針から評判は良く、忙しい日々を送っている。



 この日も単純な素行調査。そのはずだった。


「なにあれ……」


 結果、調査自体は問題なく終えられた。

 しかし調査対象の隣を歩くのは幼い少女だった。

 不倫相手との子供かとも思ったが、それにしては様子がおかしい。


 違和感を覚えて追加調査をしたところ、とんでもない事実が発覚する。


 流山みなという例の少女は、実の父親に客とのデート行為をさせられていたのだ。しかもその稼ぎは父親の遊興費に消えており、生活は真っ当なものではない。

 一応倫理を逸脱した行為は禁止しているようだが、それとて娘を守る為というより自らの保身、発覚した際言い逃れ出来るようにしているだけだろう。

 酷いネグレクトだ。


 発見した以上、見過ごせない。

 児童相談所に通報しても、保護されるまで時間がかかる。彼女の為にも一刻も早く解決したい。それに本人の意思も確認しておきたい。


 そこで雷香は潜入を決意。

 変装して客として接触する事にした。




「みなちゃん?」

「うん、今日はよろしくね」


 待ち合わせ場所にいたみなはピンクのリボンとツインテールが似合っていて、確かによからぬ人物を引き寄せてしまいそうな美少女だった。

 男性のような低い声色を使えば、可愛らしい笑顔が弾ける。どうやら怪しまれなかったようだ。


 しばらくはそのままデート。

 その中で監視の父親を確認しつつ、みなの様子を観察していく。


 移動型の何でも屋を見つけて玩具を買う。夜鳥繰流衛門という店主が玩具について熱く早口で語り、みなも喜んで聞いていたのが印象的。その彼が雷香へ妙に意味有りげな目配せをしてきたのが気になったが、今は無視するしかなかった。

 公園で行われていた風間花野井というジャグラーの芸も見た。見事な腕前に目を輝かせ「のいのい!」という彼の挨拶を真似するみなは非常に可愛らしい。


 ただ、やはりどれも本気で楽しんでいるようには見えなかった。

 客が喜ぶように意識した言動。その手慣れている様子が、大人として心苦しい。

 あまりにも悲しい演技が、雷香の決断を早めさせた。


 居ても立ってもいられず、目立たない公園の隅にあったベンチで切り出す。


「いつもこんな事をしてるの?」


 みなは不機嫌そうにツンと答える。


「みなは可愛いから皆デートしたがるの。しょうがないから忙しいけどガマンしてあげてる」

「嫌じゃないの?」

「なに、説教? おじさんもその一人でしょ。文句言わないでよね」

「本音を言って」


 コッソリ変装を解いて地声で問いかけた。心配が伝わるように優しく。


 驚き、戸惑うみな。雷香の思惑を正しく察したのだろう。

 しばらく合わせていた視線は次第に落ち、黙りこんでしまう。


「答えてくれる?」

「……だって、しょうがないんだもん……! ママとパパが別れてから、お金がないんだもん……!」


 可愛らしい顔が酷く歪んだ。

 雷香は怒りからグッと拳を握り締め、しかし優しい声音を心がけて問いを重ねる。


「ずっと頑張ってたんだね。でも、本当にこんな事を続けたいの?」

「だって、お金がないと……」

「そうじゃない。あなたの気持ちが大事なの。こんな事してて、嫌じゃないの?」


 じわっと瞳が潤み、そして、遂に決壊する。


「気持ち悪いよ……気持ち悪い気持ち悪い……! こんなの、やだよ……っ……みなばっかりこんなで、皆ズルいよ……」


 吐き出したのは演技のない本音。痛々しい嘆き。


 強く感情が渦巻く中、雷香はあえて微笑んだ。


「じゃあ逃げちゃおうか」

「え?」

「私は探偵。事件解決はお手の物。依頼してくれるなら、私が助けるわ。絶対に」


 台詞を決めつつ手を差し出せば、みなはギュッと手を掴んでくれた。


「おねがい、助けて……!」

「任されました!」


 立ち上がって胸を叩く。みなも涙を振り払って並ぶ。


 が、こんな目立つ話をしていれば、当然、監視していた父親が肩を怒らせてやって来る。


「待て! 何する気だ! 俺の娘だぞ!」

「よくも堂々と言えるわね。調査したけど父親らしい事なんて全然してないじゃない」

「最近嗅ぎ回ってた奴はお前か!」

「ええ。証拠は集まったわ。これだけあれば児童相談所も迅速に動いてくれるでしょう」

「そうはいくかよ!」


 怒り心頭で掴みかかってくるのを雷香はひらりとかわし、すれ違い様に足を引っかけて転ばせる。

 探偵たるもの軽い護身術程度は習得していた。


「行くわよ!」


 みなの手を引いて颯爽と走り出す。


 が、ズラッといかつい男達が前方に並んだ。逃げ場がなく後退り。

 後ろから父親のいやらしい笑いが届く。


「お得意さんにはVIPもいてな。世間に流されちゃ困るのよ」


 護身術だけでは流石に厳しいか。予想が甘かった。調査に気付かれ警戒されていたようだ。


 それでも雷香はみなを安心させるべく強気に振る舞う。


「大丈夫! みなちゃんは守るから!」

「観念して渡せ!」


 男達の暴力が迫る。

 必死に逃げる二人を徐々に追いつめていき、遂には手をかけた──



「いいえ、観念するのは貴方達の方です」


 男がくるくると面白いように吹き飛んだ。

 場に衝撃が走り、一斉に振り向く。


 現れたのは筋骨隆々の大男。


「もう大丈夫です、雷香さん!」

「ユキトラ!」


 彼の名はユキトラカドザキ。

 記憶喪失となっていた彼の記憶の手がかりがほしいと、保護した夫婦に依頼され、その縁で知り合った。

 なりゆきで数々の事件を共にし、今では相棒とも言えた。


「どうしてここに……」

「ここ最近愛しの貴女が熱心に調査していたので、お手伝いしようかと思いましてね。その勇ましい姿! 惚れ直しましたよ!」


 そして恋仲でもある。

 どうも探偵としての在り方に惚れ込まれたようなのだ。

 雷香も彼の真っ直ぐで熱い言動は好ましく、荒事となれば頼もしさにドキドキする事もしばしば。

 思えば幼少の頃の初恋も父に協力していた遥か年上の男性だった。好みは変わっていなかったのだろう。


 そんな彼のおかげで、あっという間に制圧は完了したのだった。




 デート行為はともかく暴力は言い逃れできない。

 警察に連行されていく父親を見るみなは無言で、寂しげだった。複雑だろう心境は分かるとは言えない。


 それでも雷香は未来が明るく思えるように祈る。


「これからは楽しい事をしていいんだよ」

「うん……ねえ、探偵さんとは、もうお別れ?」

「ううん。みなちゃんがいたいなら一緒にいるよ」


 探偵として仕事をしてきて、警察や役所にはある程度伝手がある。

 本来なら施設で一時保護されるのだが、雷香自身が保護できるように交渉するつもりだ。


「じゃあ……新しいママと、パパ?」

「ええ。これからは三人で家族に…………違う!!」


 流れを断ち切るように叫んでしまった。

 真っ赤になって否定する。


「私達はまだそんな関係じゃないの! ね、ユキトラからも言ってよ!」

「おや残念。故郷から帰還したあの時、想いが通じ合えたと思っていたのですが」

「いや、その……確かに私も好きだけど……でも、ママとパパだなんてのはまだ……早いでしょ……」

「ええ、確かに。人生を左右する重要な選択です。焦ってはいけませんね!」

「そうやって簡単に引き下がられるのも、それはそれで嫌なんだけど……!」


 痴話喧嘩のようなやりとりを、みなはじっと交互に見ていた。

 そして急に二人の服を引っ張って間に入る。


「お似合いだと思うな! ね、ママとパパ!」

「ちょっと、みなちゃん……っ」


 照れて戸惑う雷香。タジタジで何も言えなくなる。


 一方冷静なままのユキトラはしゃがんで、みなと目線を合わせて言う。


「ありがとうございます。実に嬉しい応援です」


 その途中、フッと真剣な色を帯びた。


「ですが。無理に大人の役に立とうとしなくていいんですよ。私も雷香さんも、その程度で切り捨てなどしません。その聡明さは貴女自身の幸せの為に活用してください」


 演技を続けてきたみなにこそかける、優しい言葉。

 彼はこういう所がズルいのだ。


「そうね。もうみなちゃんは頑張らなくていいのよ」


 雷香も優しく抱きしめる。しっかり思いが伝わるように。


「うん……! じゃあいいでしょ、みなを甘やかして!」


 泣き笑いの強気な発言が微笑ましい。

 全力で甘やかそうと大人達は決めた。


「さ。危ない目に遭いましたし、お疲れでしょう。今夜はごちそうにしましょうか。とびきりのケーキも用意しましょう!」

「え、ホント!? やった!」


 ケーキ好きな雷香はピョンと飛び跳ねる。

 それをユキトラは生温かい目で見ており、みなは「まさか今のあざとさが天然!?」とでも言いたそうな顔をしていた。


 気付けば即座に照れ、それを隠す為に先頭を行く雷香。残る二人はのんびりとついてきた。




 こんな空気も悪くないと思った、三人の始まりの日である。



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【本文の文字数:3,495字】

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