【No.009】CPしないと出られないお見合いサバイバル
【メインCP:男5. ブレード・グランドゥール、女3.
【サブキャラクター:男2.
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夜闇を裂いて彼は
「きゃあっ! 春樹君っ、男の子でしょ、ちゃんとみなのこと守りなさいよっ!」
「あっ当たり前だっ! 俺はっ……」
『ガルルルッ!!』
少年少女の声をかき消す山犬どもの咆哮。震える二人に爪と牙が迫る、その刹那――
「ハッ!」
疾風を纏って滑り込んだ彼の剣閃が、血に飢えた獣どもを肉塊へと変えていた。
「間に合ってよかった。怪我はないか」
「あ、あんたは……?」
「俺はブレード。君達が言う『異世界』の騎士だ」
「異世界!?」
「た、助けてくれてありがと……」
驚きながらも礼を述べる少女と、「なんだよっ」と口を尖らせる少年。
「あんたが来なくても、この子は俺が守るつもりだったしっ」
「くすっ。春樹君、可愛い」
「可愛くねーよっ!」
「でもぉ……頑張って格好良くなろうとする春樹君のこと、みなは好きかも」
命の恩人への感謝も早々に、少年少女はいまや完全に二人の世界に入っていた。
「戻れたら、みなとタダでデートしてくれる?」
「デ、デートっ!? そんな恥ずかしいことっ……。ど、どーしてもって言うなら、しなくもねーけど……」
「約束ねっ!」
二人が心を通じ合わせたと思われた瞬間――
青白い光に包まれ、少年少女の体はこの世界から溶けるように消えていった。立ち尽くす騎士の姿を顧みもせず。
【
どこからともなく響くのは、緊迫した状況にまるでそぐわない、弾むような女の声。
振り仰いだ夜空には、少年少女が
「天地に響き渡る
彼の故郷の
彼がそう結論付けようとしたとき、木々の奥から歩み出てくる小柄な人影があった。
「現実世界にこんな技術ないわよ。少なくともユーチューブじゃない」
白い髪をポニーテールに括り、トレンチコートの丈を余らせた美女だった。コートの袖を捲ったその細腕には、黒
「君は?」
「
「タンテイ。ドラマで見たな。官憲に知恵を貸し
「そういう探偵は創作の中にしか居ないんだけど……まあいいわ。それより貴方は? その格好コスプレ?」
「俺はブレード・グランドゥール。よく聞かれるのだが――」
と、自己紹介などしている余裕はなさそうだった。ゴオッという轟音と共に、炎の尾を引いて隕石が降ってくる。ブレードは空いた片手で咄嗟に女――雷香の腕を掴み、その場から駆け出していた。
「きゃっ!?」
「とにかく逃げるぞ!」
隕石の直撃に大地が鳴動し、たちまち森一帯が炎に包まれる。木々の
「逃げるだけでは事態は解決せんぞ、
「驚いたな。日本にも喋る猫がいるのか」
「吾輩は特殊な
この世界の謎――
ブレードは思い返す。異郷の地である日本から、更に別世界と思われるこの大地へ飛ばされた直後の記憶を。
【おめでとうございます、皆様は選ばれました。生死を懸けたお見合いパーティのメンバーに♪】
どことも知れぬ大地に突如召喚された、男女合わせて三十名ほどの人間達。戸惑う彼らに突きつけられたのは、無茶振りの
【皆様は
そんな馬鹿な、どうして自分達が殺し合いなんか――と、異口同音の苦情もじきに収まり。
火災に猛獣、地震に洪水。襲い来る様々な危難から逃げ惑いながら、彼らは一組また一組と
【
【
ある者達は燃え盛る塔の上で。ある者達は沈みゆく小舟の上で――。
【
【
【
【
恋に落ち、愛に目覚める人間達の姿が、夜空に映し出されては消えてゆく。現実世界への解放を意味するのであろう、彼ら自身のこの世界からの消失と共に。
【
【
【
【
【――
「だが不可思議ではないか。みな生き急ぐように
炎の中を駆ける
ブレードにも心当たりはあった。ここに飛ばされて間もなく、地雷系とかいう服装の女性を助けた時のこと。
『おおきに。貴方も相手探し頑張ってね』
誰も彼もが惚れやすくなっているこの状況で、彼女は自分に何の興味も示さなかった。好かれたくて助けた訳ではないが、気にならないといえば嘘になる。
自分に魅力がないのかと落ち込みもしたが、他に何か、自分が色恋の対象外となる理由があるのだとしたら。
一緒に小さな地割れを跳び越えながら、雷香が問うてきた。
「猫ちゃんは猫だから別としても。貴方は誰かに恋をした?」
「俺は……」
したかと問われれば、きっとまだ――
その答えを待つまでもなく、女探偵は続ける。
「この世界で
「洗脳……!」
瞬間、至近距離に隕石が着弾し、地を割る爆裂の衝撃で二人と一匹は嵐の浜辺に投げ出された。
雷香を庇いながらブレードが顔を上げると、荒れ狂う海上には流木にしがみつく二つの人影。
『こんな時に何だが。守護霊が見えないってのも、案外悪くねえもんだ』
『では、私と恋愛関係になって頂けますか?』
『……ああ、人間じゃないくらいの方が俺にはいいのかもって、ずっと思ってた気がする』
肉声では届かないその会話の中継と共に、例の女の声が響く――
【
しかし、青い光に包まれこの世界から解放されたのは、椿樹と呼ばれた青年の方だけだった。
「どういうことだ……?」
雷雲の合間から瞬時に伸ばされた触手状の何かが、彼女の胸を串刺しにした。
「なっ!?」
胸部からバチバチと火花を上げ、その体が力なく
「ロボット……!」
傍らの雷香が驚愕に目を見張った時には、既にブレードは立ち上がり、彼女を庇って剣を振り抜いていた。
間一髪、音の速さで伸びてきた触手を彼の剣が寸断する。次の半秒で敵は眼前まで距離を詰め、残った指を彼の首筋に巻き付けてきた。
「お察し通り。この惑星の
「くっ……お前は!?」
茶色の肌に灰色の目。どちらの世界の人間とも違う瞳に宿った、鋭い殺意。
「永遠にこの世界から出られないのは困る。私には果たさねばならない任務がある」
触手を振り払い、ブレードが剣を構えた時、
「だから、もう一つの方法で帰還を果たす!
「危ないっ!」
背後から響く雷香の声。思考より早く体を振り向かせ、飛来する手裏剣を
「っ!」
剣で受け止め
女相手といえど、二対一では――
「ユーも見たでショウ? ハッキングと記憶改竄でムリヤリ恋愛させても、
忍者装束の片言女が
(命に替えても、彼女だけは……!)
猫を抱いて身を震わせる雷香を視界の端に見やり、ブレードが思ったとき、
「
天上から降り注ぐ
「魔法……!?」
見れば、
「さっきの恩返しだよ。今の内にその子らを連れて早く!」
「あ、ああ、すまない!」
再び雷香の手を取り、ブレードは嵐の中を走り出す。背後から色々な声が聞こえた。
「愚かな、光は我ら∫$??г§人のエネルギー源――」
「だったらこれでどうっ、
「ヤァ、素晴らしい威力だ。だが女児向け玩具として商品化するなら技名は今少し子供向けに変えないと……」
【
そして、あの彼女が最後にどんな魔法を使ったのか、敵がそれ以上ブレード達を追いかけてくることはなく。
それに代わって、大火山の爆発と共に、世界が崩壊に飲まれ始めるのがわかった。
「これ程の災厄は関東大震災、いや東京大空襲以来か……」と猫。
業火の波に包まれた世界の中心で、ブレードは雷香と向き合う。
改めて見下ろすその体は、思っていたよりずっと華奢で儚く見えた。
「これ以上留まるのは危険だ。君は誰かと形だけでも
「イヤよ! 最後まで残って一緒に謎を――」
破れた騎士服の
ハッとしたような目で彼を見上げ、微かに頬を赤らめた。
「……今気付いたわ。きっと私も恋に落ちてたの。危険を顧みず人を助ける貴方の横顔に」
「俺は洗脳の対象外だったんじゃ……」
「察しが悪いわね。だからこそよ。……そう、この想いはきっと……」
どこか幼さを残したその瞳に、光る涙を彼は見た。
「元の世界に戻れたら、事務所に遊びに来てね。約束よ、私の
ああ、きっと、これが――。
己の胸に走る一条の稲妻。それを彼が自覚したとき、青白い光に包まれて雷香の体は眼前から消えていった。少し不器用な微笑みを残して。
「おめでとうございます、ブレード・グランドゥール様」
今にも焼け落ちそうな世界の中、一つの影が炎の中を悠然と歩み出てくる。
「貴方が最後の一人です。
「君は?」
「
全身から発する微かな駆動音、作り物の生気を宿した瞳。科学を解さない異世界の騎士にも、彼女が命を持たない
彼の足元で、猫が静かに口を開く。
「最初から自分の相手としてただ一人を残すのが目的だったのか。残ったのが婦人だったらどうしていたのだ?」
「変わらず愛し合うだけですよ? 私は相手を選びませんから」
「悪いが俺は、君と
剣の柄に手を掛け、彼は機械仕掛けの瞳を見据える。
「どうしてもと言うなら、君を叩き斬ってでも」
「……熱いねー。ショートしちゃいそう」
僅かに血の通ったような一言を漏らしてから、彼女は諦めるようにふっと笑った。
「パーティは終わりです、ブレード様。おかげで貴重な学習データを収集できました。あなた方の物語の続きは、現実世界で見せてください」
いよいよ世界が足元から崩れてゆく。猫を抱いて果てしなく落ちていく中、彼の脳裏には別れ際の雷香の笑みが浮かんで離れなかった。
「会えるだろうか。俺は彼女に」
「会えるさ。でなければ話が落ちんだろう」
戻った先で待ち受けている物語に、どくんと心が弾んだ。
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【本文の文字数:5,000字】
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