【No.009】CPしないと出られないお見合いサバイバル

【メインCP:男5. ブレード・グランドゥール、女3. 銀音シロガネ 雷香ライカ

【サブキャラクター:男2. 九条くじょう 春樹はるき、男4. 夜鳥ヤトリ 繰流衛門クルエモン、男11. 間田まだ 名威ない、男15. 都築つづき 椿樹つばき、女6. 藤ヶ谷ふじがや 文香ふみか、女9. 神崎かんざき こころ、女13. ユーエリ・ケプラー、女14. 流山ながれやま みな、女15. 天萬木あまゆるぎ 那樹なじゅ、女16. 天文あまふみ 宇美うみ、ほか(名前のみの登場は記述割愛)】

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 夜闇を裂いて彼は疾走はしる。を思わせる漆黒の森を駆け抜け、助けを呼ぶ声の元へ。


「きゃあっ! 春樹君っ、男の子でしょ、ちゃんとみなのこと守りなさいよっ!」

「あっ当たり前だっ! 俺はっ……」

『ガルルルッ!!』


 少年少女の声をかき消す山犬どもの咆哮。震える二人に爪と牙が迫る、その刹那――


「ハッ!」


 疾風を纏って滑り込んだ彼の剣閃が、血に飢えた獣どもを肉塊へと変えていた。


「間に合ってよかった。怪我はないか」

「あ、あんたは……?」


 やいばに月明かりを照り返し、騎士服姿の彼が幼い二人を見下ろす。


「俺はブレード。君達が言う『異世界』の騎士だ」

「異世界!?」

「た、助けてくれてありがと……」


 驚きながらも礼を述べる少女と、「なんだよっ」と口を尖らせる少年。


「あんたが来なくても、この子は俺が守るつもりだったしっ」

「くすっ。春樹君、可愛い」

「可愛くねーよっ!」

「でもぉ……頑張って格好良くなろうとする春樹君のこと、みなは好きかも」


 命の恩人への感謝も早々に、少年少女はいまや完全に二人の世界に入っていた。


「戻れたら、みなとタダでデートしてくれる?」

「デ、デートっ!? そんな恥ずかしいことっ……。ど、どーしてもって言うなら、しなくもねーけど……」

「約束ねっ!」


 二人が心を通じ合わせたと思われた瞬間――

 青白い光に包まれ、少年少女の体はこの世界から溶けるように消えていった。立ち尽くす騎士の姿を顧みもせず。


流山ながれやまみな様、九条くじょう春樹はるき様。CPカップリング成立おめでとうございます♪】


 どこからともなく響くのは、緊迫した状況にまるでそぐわない、弾むような女の声。

 振り仰いだ夜空には、少年少女が逢引デートの約束を交わす先程の情景シーンが紙吹雪と共に映し出されている。


「天地に響き渡る大音声アナウンスに、夜空を画布キャンバスに見立てた動画ゆうちゅうぶ……。やはり、は日本の延長なのか……」


 彼の故郷の魔学まがく体系では説明がつきそうにない事象。こんなことが出来るのは「21世紀」の科学技術でしか有り得ない。

 彼がそう結論付けようとしたとき、木々の奥から歩み出てくる小柄な人影があった。


「現実世界にこんな技術ないわよ。少なくともユーチューブじゃない」


 白い髪をポニーテールに括り、トレンチコートの丈を余らせた美女だった。コートの袖を捲ったその細腕には、黒ぶちの虎猫を抱いている。


「君は?」

銀音しろがね雷香らいか。探偵よ」

「タンテイ。ドラマで見たな。官憲に知恵を貸し下手人げしゅにんを暴く仕事だったか」

「そういう探偵は創作の中にしか居ないんだけど……まあいいわ。それより貴方は? その格好コスプレ?」

「俺はブレード・グランドゥール。よく聞かれるのだが――」


 と、自己紹介などしている余裕はなさそうだった。ゴオッという轟音と共に、炎の尾を引いて隕石が降ってくる。ブレードは空いた片手で咄嗟に女――雷香の腕を掴み、その場から駆け出していた。


「きゃっ!?」

「とにかく逃げるぞ!」


 隕石の直撃に大地が鳴動し、たちまち森一帯が炎に包まれる。木々のつたを切り払って道を空け、雷香の手を引いて走っていると、彼女の腕に抱かれた猫が青年のような声を発してきた。


「逃げるだけでは事態は解決せんぞ、騎士殿サー・ブレード

「驚いたな。日本にも喋る猫がいるのか」

「吾輩は特殊な事例ケースに過ぎんよ。先程このお嬢さんに拾われてな。共にこの世界の謎を解こうとしているところだ」


 この世界の謎――

 ブレードは思い返す。異郷の地である日本から、更に別世界と思われるこの大地へ飛ばされた直後の記憶を。



  * * * * *  * * * * *  * * * * * 



【おめでとうございます、皆様は選ばれました。生死を懸けたお見合いパーティのメンバーに♪】


 どことも知れぬ大地に突如召喚された、男女合わせて三十名ほどの人間達。戸惑う彼らに突きつけられたのは、無茶振りのお見合いサバイバル遊戯ゲーム


【皆様はCPカップリングが成立するか、殺し合って最後の一人になるまでこの世界から出られません。無事にCPカップリングが成立した方は、現実に戻って素敵な恋人ライフのスタートです♪】


 そんな馬鹿な、どうして自分達が殺し合いなんか――と、異口同音の苦情もじきに収まり。

 火災に猛獣、地震に洪水。襲い来る様々な危難から逃げ惑いながら、彼らは一組また一組とCPカップリングを成立させていった。殺し合うくらいなら恋人を作る方がいいに決まっている――年代も来歴もそれぞれながら、ただ一つ、その認識だけを無言の内に共有するように。


小清水こしみず真理子まりこ様、佐伯さえきつよし様。CPカップリング成立おめでとうございます♪】


三嶋みしまアリス様、京極きょうごく奏介そうすけ様。CPカップリング成立おめでとうございます♪】


 ある者達は燃え盛る塔の上で。ある者達は沈みゆく小舟の上で――。


弱竹なよたけ輝夜かぐや様、ユキトラ カドザキ様】


鳥井とりい深月みづき様、市村いちむら洸太こうた様】


車田くるまだあざみ様、東海林しょうじ悠也ゆうや様】


東海林しょうじ愛梨あいり様、辻浦つじうら優真ゆうま様】


 恋に落ち、愛に目覚める人間達の姿が、夜空に映し出されては消えてゆく。現実世界への解放を意味するのであろう、彼ら自身のこの世界からの消失と共に。


如月きさらぎ華子かこ様、加賀かが可惜あたら様】


川崎かわさき奈都美なつみ様、一ノ瀬いちのせ隆俊たかとし様】


佐藤さとう彩夏あやか様、花澤はなざわ風太ふうた様】


藤澤ふじさわ佳織かおり様、ジョナサン・マレー・りく様】


【――CPカップリング成立おめでとうございます♪ あなた方を祝福致します♥】



  * * * * *  * * * * *  * * * * * 



「だが不可思議ではないか。みな生き急ぐようにつがい探しに熱を上げているというのに。この可憐なレディの腕に抱かれながら、吾輩、劣情の一つももよおさぬのだ」


 炎の中を駆ける最中さなか、女探偵の腕の中から猫が真剣な声で言ってくる。

 ブレードにも心当たりはあった。ここに飛ばされて間もなく、地雷系とかいう服装の女性を助けた時のこと。


『おおきに。貴方も相手探し頑張ってね』


 誰も彼もが惚れやすくなっているこの状況で、彼女は自分に何の興味も示さなかった。好かれたくて助けた訳ではないが、気にならないといえば嘘になる。

 自分に魅力がないのかと落ち込みもしたが、他に何か、があるのだとしたら。

 一緒に小さな地割れを跳び越えながら、雷香が問うてきた。


「猫ちゃんは猫だから別としても。貴方は誰かに恋をした?」

「俺は……」


 したかと問われれば、きっとまだ――

 その答えを待つまでもなく、女探偵は続ける。


「この世界でCPカップリングができない人間には条件がある。貴方に出会って確信したわ。のよ」

「洗脳……!」


 瞬間、至近距離に隕石が着弾し、地を割る爆裂の衝撃で二人と一匹は嵐の浜辺に投げ出された。

 雷香を庇いながらブレードが顔を上げると、荒れ狂う海上には流木にしがみつく二つの人影。


『こんな時に何だが。守護霊が見えないってのも、案外悪くねえもんだ』

『では、私と恋愛関係になって頂けますか?』

『……ああ、人間じゃないくらいの方が俺にはいいのかもって、ずっと思ってた気がする』


 肉声では届かないその会話の中継と共に、例の女の声が響く――


天文あまふみ宇美うみ様、都築つづき椿樹つばき様。CPカップリング成立おめでとうございます♪】


 しかし、青い光に包まれこの世界から解放されたのは、椿樹と呼ばれた青年の方だけだった。


「どういうことだ……?」


 いぶかしむ一同の視界の先で、海上に独り取り残された美女が、悲しそうな仕草で天を仰いだ、その時。

 雷雲の合間から瞬時に伸ばされたが、彼女の胸を串刺しにした。


「なっ!?」


 胸部からバチバチと火花を上げ、その体が力なく崩折くずおれる。


「ロボット……!」


 傍らの雷香が驚愕に目を見張った時には、既にブレードは立ち上がり、彼女を庇って剣を振り抜いていた。

 間一髪、音の速さで伸びてきた触手を彼の剣が寸断する。次の半秒で敵は眼前まで距離を詰め、残った指を彼の首筋に巻き付けてきた。


「お察し通り。この惑星の人類ホモ・サピエンスではない個体には、この閉鎖空間のルールが適用されていないようだ」

「くっ……お前は!?」


 茶色の肌に灰色の目。どちらの世界の人間とも違う瞳に宿った、鋭い殺意。


「永遠にこの世界から出られないのは困る。私には果たさねばならない任務がある」


 触手を振り払い、ブレードが剣を構えた時、


「だから、で帰還を果たす! れ、ケプラー!」

「危ないっ!」


 背後から響く雷香の声。思考より早く体を振り向かせ、飛来する手裏剣をかわした時には、刀を握った新たな影が彼に襲いかかっていた。


「っ!」


 剣で受け止めつばり合えば、背後からはもう一人の触手が再び首を締め付けてくる。

 女相手といえど、二対一では――


「ユーも見たでショウ? ハッキングと記憶改竄でムリヤリ恋愛させても、天文宇美アンドロイドはこの世界から解放されなかった。ワタシ達が帰還ゴーホームするには、コレしかナイんです!」


 忍者装束の片言女が黒眼鏡サングラス越しに彼を見据える。られる――!


(命に替えても、彼女だけは……!)


 猫を抱いて身を震わせる雷香を視界の端に見やり、ブレードが思ったとき、


楽・園・光・壁シャンパン・タワー!」


 天上から降り注ぐ黄金こがね色の光の波が、彼の身に食い込む触手と刀を弾き返し、敵の目をくらませていた。


「魔法……!?」


 見れば、作務衣さむえ姿の男を伴って空を飛ぶ、黒地にピンクの派手な衣装を纏った女性の姿。ハートの付いた魔法杖ワンドを回してウインクしてくるその顔は、先程ブレードが助けた彼女に他ならなかった。


「さっきの恩返しだよ。今の内にその子らを連れて早く!」

「あ、ああ、すまない!」


 再び雷香の手を取り、ブレードは嵐の中を走り出す。背後から色々な声が聞こえた。


「愚かな、光は我ら∫$??г§人のエネルギー源――」

「だったらこれでどうっ、闇・系・虚・影メンヘラ・メイクっ!」

「ヤァ、素晴らしい威力だ。だが女児向け玩具として商品化するなら技名は今少し子供向けに変えないと……」


藤ヶ谷ふじがや文香ふみか様、夜鳥やとり繰流衛門くるえもん様。CPカップリング成立おめでとうございます♪】


 そして、あの彼女が最後にどんな魔法を使ったのか、敵がそれ以上ブレード達を追いかけてくることはなく。


 それに代わって、大火山の爆発と共に、世界が崩壊に飲まれ始めるのがわかった。


「これ程の災厄は関東大震災、いや東京大空襲以来か……」と猫。


 業火の波に包まれた世界の中心で、ブレードは雷香と向き合う。

 改めて見下ろすその体は、思っていたよりずっと華奢で儚く見えた。


「これ以上留まるのは危険だ。君は誰かと形だけでもCPつれあいになって、元の世界に帰るべきだ」

「イヤよ! 最後まで残って一緒に謎を――」


 破れた騎士服のえりに掴みかかり、雷香は言いかけて――そして。

 ハッとしたような目で彼を見上げ、微かに頬を赤らめた。


「……今気付いたわ。きっと私も恋に落ちてたの。危険を顧みず人を助ける貴方の横顔に」

「俺は洗脳の対象外だったんじゃ……」

「察しが悪いわね。だからこそよ。……そう、この想いはきっと……」


 どこか幼さを残したその瞳に、光る涙を彼は見た。


「元の世界に戻れたら、事務所に遊びに来てね。約束よ、私の騎士ナイトさん」


 ああ、きっと、これが――。

 己の胸に走る一条の稲妻。それを彼が自覚したとき、青白い光に包まれて雷香の体は眼前から消えていった。少し不器用な微笑みを残して。


「おめでとうございます、ブレード・グランドゥール様」


 今にも焼け落ちそうな世界の中、一つの影が炎の中を悠然と歩み出てくる。


「貴方が最後の一人です。間田名威その猫さんは別として」

「君は?」

神崎かんざきこころと申します」


 全身から発する微かな駆動音、作り物の生気を宿した瞳。科学を解さない異世界の騎士にも、彼女が命を持たない機械人形アンドロイドであることは本能で察せられた。

 彼の足元で、猫が静かに口を開く。


「最初から自分の相手としてただ一人を残すのが目的だったのか。残ったのが婦人だったらどうしていたのだ?」

「変わらず愛し合うだけですよ? 私は相手を選びませんから」


 お見合いデスゲームの仕掛け人から貼り付けたような笑顔を向けられ、ブレードは静かに首を横に振った。


「悪いが俺は、君とCPつれあいにはなれない。たった今、帰るべき場所が出来たからな」


 剣の柄に手を掛け、彼は機械仕掛けの瞳を見据える。


「どうしてもと言うなら、君を叩き斬ってでも」

「……熱いねー。ショートしちゃいそう」


 僅かに血の通ったような一言を漏らしてから、彼女は諦めるようにふっと笑った。


「パーティは終わりです、ブレード様。おかげで貴重な学習データを収集できました。あなた方の物語の続きは、現実世界で見せてください」


 いよいよ世界が足元から崩れてゆく。猫を抱いて果てしなく落ちていく中、彼の脳裏には別れ際の雷香の笑みが浮かんで離れなかった。


「会えるだろうか。俺は彼女に」

「会えるさ。でなければ話が落ちんだろう」


 戻った先で待ち受けている物語に、どくんと心が弾んだ。



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【本文の文字数:5,000字】

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