第17話 佐渡国主長尾景虎
河原田本間家の本間貞兼を従えたことで佐渡の情勢は急速に沈静化していく。
沢知本間・新穂本間は、河原田本間への援軍が途中で柿崎景家率いる軍勢と戦ったことで、多くの者が深傷を負い戦えないとして全面降伏した。
佐渡北部は河原田本間の影響力が大きいことと、景虎の率いる軍勢の多さに圧倒され、次々に景虎に従うことを表明。
佐渡南部一帯に睨みを聞かせるために、羽茂城には五百の守備兵を入れていた。
景虎は佐渡国衆に対して雑太城に集まるように召集をかけた。
そして、雑太城の広間には多くの国衆が来ている。
広間奥中央の上座に長尾景虎が座り、景虎の手前横に佐渡守護である本間有泰が座った。
これは、長尾景虎の権威が本間有泰よりも上であると示すためである。
長尾景虎の背後には、毘の旗印と龍の旗印が置かれていた。
「長尾景虎である。儂の呼びかけに応えてくれて大儀である。此度の沙汰を言い渡す。まずは河原田本間家についてである。河原田城は破却して領地半減。その代わり儂の家臣として銭雇いとする。沢知本間・新穂本間も同様の沙汰とする。削減された領地は雑太本間家が管理せよ。羽茂本間の所領は、全て長尾景虎の管理下に置くこととする。なお、佐渡国内の鉱山の管理権は全て長尾景虎の下に置かれ、この先発見される鉱山も同様である。勝手な鉱山採掘は処罰の対象である。新しい鉱山を発見しておきながら報告をしなことも処罰の対象である。さらに、本日この場にて本間有泰殿より佐渡国主を引き継ぐこととなる。これに伴い国府川下流に佐渡全体の政を管理するための城を築くものとする」
「異論ございません」
領地を大幅に減らされる本間貞兼の言葉に他の佐渡国衆が驚く。
「貞兼殿、本気か」
「景虎様にご再考を願うべきだ」
「貞兼、よく考えろ」
「貞兼、早まるな」
驚く国衆が本間貞兼を思いとどまらせようと声をかける。
しかし、本間貞兼は憂いを絶ったすっきりした表情で、他の国衆からの申し出を断る。
「これはもはや決まった話だ。景虎様に刃を向けた以上は当然であろう。儂はこれを受け入れる。これより景虎様の下で粉骨砕身お仕えするつもりだ」
「儂も貞兼殿同様に異論ございません」
「儂も同様、異論はございません」
沢知本間家・新穂本間家も景虎からの沙汰を受け入れると表明した。
「河原田・沢知・新穂の覚悟はしかと受けた。これより、我が家臣として奮起して欲しい」
「「「承知いたしました」」」
景虎は、これから佐渡の金銀採掘を本格化させるための準備に入り、佐渡治安維持のため常備兵千人を交代で常駐させることにした。
佐渡島から出羽国へと逃亡した羽茂本間家・本間高信は、船が北からの風に押し戻され越後の海岸に漂着したところを捕らえられ死罪となった。
ーーーーー
景虎は、佐渡平定を終えて春日山城に戻った。
そして、兄である守護代長尾晴景に報告をするために晴景のいる部屋にやってきた。
「兄上。景虎、佐渡より戻りま・・」
部屋に入ると苦しそうに咳き込む晴景を正室の志乃が背中を手のひらでさすっていた。
「兄上」
「さ・・わぐな・・・ゴホッ・・大丈夫だ。段々・・落ち着いてきた。も・もう大丈夫だ。だから騒ぐな」
「すぐに医師を呼びます」
「呼ばなくていい・・・騒ぐな。大丈夫だ」
正室の志乃に支えられているが、顔色が悪いことをうっすらと化粧をして誤魔化しているように見える。
「休んでください。政務は後でもできます」
「そんな訳にはいかん。・・・弱みを見せれば平気で足を引っ張るのが越後の国衆達であり上杉家の重臣達だ。少なくとも景虎が守護代を継ぐまでは弱みを見せる訳にはいかんのだ」
「兄上、景虎が不甲斐ないばかりに申し訳ありません。ですがまずはご自分の体を労ってください」
「景虎の所為では無い。景虎。ご苦労であった。佐渡平定、見ごとであったぞ」
「ですが、仕置きに関しては少々甘い判断を下してしまいました」
「問題無い。景虎が判断したことだ、将来を考えての事であろう。単に情に絆されてでは無く、佐渡国主としてしっかり考えての事であれば良い」
長尾晴景は、苦しく顔色が悪いにも関わらずにこやかに微笑む。
「佐渡の金銀の関しては、景虎の判断で使用せよ」
「良いのですか」
「まずは、国衆の顔色を窺う必要が無いところまで軍勢を整備するのであろう」
「はい」
「できるだけ急いだほうがよかろう。それともしも将来上洛する時があれば、石山本願寺を訪れて関係を強化した方がいい」
「石山本願寺でございますか」
「一向一揆対策だ。父が無碍光衆禁止令(無碍光衆とは浄土真宗の俗称)を出しているが、知らず知らずのうちに信徒は増えているものだ。早いうちに手を打ち逆に味方につけたほうがいい」
「敵も味方につけるのですか」
「敵はできるだけ少ない方がいい。その分、本当の敵に力を回せる。石山本願寺には定期的に銭を与えて、良好な関係を結ぶのだ。金銀や銭で敵が減るなら楽であろう」
「承知しました」
「それと、佐渡国内をよく調べてみてもいいかもしれん。あの狭い島の中に西三川の砂金山、鶴子銀山、新穂銀山と三つもあるのだ。他にもある可能性がある」
「なるほど、言われてみればそうですね。ならば至急調べるように手配いたします」
「それがいいだろう。打てる手立ては全て打つぐらいで良いのだ」
「兄上、それと佐渡の金銀の一部で、越後の領内で新田開発と河川改修を積極的に行いたいと思っております」
「重臣達には景虎の指示は、儂の指示であると言ってある。自由に行え」
「ありがとうございます」
「景虎の顔を見たら安心した。少し休むことにする。後は頼むぞ」
長尾晴景は景虎に政務をしばらく任せることにして、奥へと下がっていく。
景虎はそんな兄の後ろ姿を見て、ぜひ名医を呼ぼうと考えるのであった。
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