第14話 景虎!佐渡上陸

柿崎景家と宇佐美定満がそれぞれ八百騎を率いて、周辺の敵勢力の掃討を始めて1刻(2時間)ほどすると、景虎率いる本隊五千が乗る船団が佐渡の沖合に到着した。

波が穏やかなためか、船は予想よりもかなり早く佐渡に到着。

次々に船は海岸に近づき、本体の兵たちが次々に海岸に上陸してくる。

斎藤朝信の指揮のもと,海岸周辺に兵を展開していく。

「急げ,周囲の警戒を怠るな。急げ急げ」

斎藤朝信の声が佐渡の海岸に響き渡る。

本体の兵たちが展開を終えると総大将である長尾景虎が佐渡に上陸した。

長尾景虎は初めて佐渡の土を踏み締めゆっくりと砂浜を歩く。

佐渡の土を踏みしめながら波の音を聞いていると感慨深い気持ちが湧いてくる。

父・長尾為景が手に入れることを断念した佐渡国。

その佐渡国に軍勢を率いて自分が上陸して佐渡の土を踏みしめている。

そして、順調にいけば本間有泰から佐渡国主を譲られることになる。

父が生きていたら、そんな自分になんと言ってくれただろうか。

そんなことを考えながらゆっくりと進む。

穏やかな潮風が景虎の頬を撫でる。

仮設の本陣が見えてくるとそこに宇佐美定勝と本間有泰が待っていた。

「景虎様。お待ちしておりました」

宇佐美定勝が長尾景虎を迎え入れる。

「出迎えご苦労」

景虎は、仮設本陣に入ると奥の床几に座り辺りを見渡す。

「定勝。お主の父定満と柿崎景家はどうした」

「父定満と柿崎殿でしたら、それぞれ八百騎を率いて周辺の敵を掃討しております。柿崎殿は河原田城方面。父は羽茂城方面に向かいました」

「やれやれ、気の早いことだ。あの二人のことだ一気に攻め落とすかもしれんぞ」

「二人とも異様に張り切っておりましたから、その可能性はあるかと」

宇佐美定勝の後ろに控えていた本間有泰が前に出てきて景虎に挨拶をする。

「佐渡国本間惣領家・本間有泰と申します。此度は、お助けいただきありがとうございます。我ら雑太本間家は景虎様に従い忠節を尽くします。その証として、佐渡国主を景虎様にお譲りいたします」

「承知した。約束通り雑太本間家の所領は安堵とする。佐渡の安寧は我らが実現しよう」

「よろしくお願いいたします」

そこに、柿崎景家と宇佐美定満からそれぞれ伝令がやってきた。

「景虎様。柿崎景家様より報告でございます。敵の小勢を蹴散らしそのまま河原田城を包囲しております。明日、総攻撃をかけるとのこと」

「河原田のことは承知した。次の報告を聞こう」

「宇佐美定満様よりのご報告でございます。宇佐美定満様率いる軍勢八百が羽茂城に到着すると既に城には誰もおらず、羽茂本間家本間高信らは、既に羽茂城を捨て逃亡したものと思われます。現在周辺を捜索中とのことですがまだ行方を掴めておりません」

「何、逃亡しただと。戦わずして逃げたのか」

「周辺の領民らに問いただしておりますが、先発隊が佐渡に到着する頃と同じ頃に多くの荷物を持ち城を慌てて出て行ったとのこと。なお、西三川の砂金の確保のため手勢二百を向かわせ確保してございます」

「有泰殿。この佐渡の中では隠れることはできないだろう。戦わずに逃げるとしたら島の外。羽茂城から我らの軍勢に会わずに島外に逃げるとしたら何処から逃げるのが早い」

「羽茂城を南に向かうとすぐに湊がございます。そこから逃げる可能性が高いかと思われます。もしくは、そこから少し北に本間高信の弟が城主である赤泊城があります。そこの湊から一緒に逃げたかもしれません。船で逃げるとしたら潮の流れなども考え、長尾家の勢力が及ばない出羽国あたりを目指すと思います」

景虎は伝令の方を向いた。

「宇佐美定満に伝えよ。羽茂本間家の本間高信らは、船を使い島外に逃亡するつもりだ。海沿いを捜索せよと伝えよ」

「承知しました」

「定勝。手勢千名を預ける。定満の支援にあたれ、佐渡南部の掌握と本間高信の捜索を行え。従わない土豪は討伐して良い」

「承知しました」

宇佐美定勝は千名の軍勢とともに羽茂城に向かった。

「羽茂本間は戦わずに逃げ出すくらいなら、すぐに儂に降伏すればいいものを・・・・・」

景虎は大きくため息をついてから本間有泰の方を向く。

「有泰殿。佐渡国内の勢力関係を聞きたい」

「承知しました。佐渡勢力は北部を河原田本間。南部を羽茂本間が支配しております。さらにその中にいくつもの本間の分家がございます。本来惣領家である我ら雑太本間は、佐渡国主・守護であったため多くの領地を持っておりましたが、その多くを河原田と羽茂に奪われ、雑太城周辺のわずかな領地のみとなるまで勢力を減らしております。さらに佐渡北部の者達と羽茂本間の本間高信は、どうやら会津の蘆名氏と話をしていると噂に聞いております」

「会津の蘆名だと、どの様な話だ」

会津の蘆名の名前が出て来て景虎は驚いた。

「我ら雑太本間家は、正論ばかり抜かす面倒な相手と思われているため、その話からは弾かれており詳細は分かりませぬ。ですが漏れ伝えきくところでは、蘆名氏が越後を攻めた場合に手を貸す算段かと思われます」

「蘆名め小賢しい真似を」

「皆島外の情勢に疎い者達ばかりでございます。何卒寛大な処置をお願いいたします」

「事前勧告に従わない者がほとんどだ。戦いが始まる前に従うならば多少は考えよう。しかし、戦いが始まった後であれば容赦はせんぞ」

「分かっております。それを承知でお願いしております」

本間有泰は、分家や国衆・土豪に下される裁きを最小限にとどめるために、必死に頭を下げていた。

「分かった。その願いは心に留めておこう。ただし、あくまでも相手次第であると思って欲しい」

「承知いたしました」

景虎は立ち上がると全軍に命令を下す。

「これより、河原田城に向かう」

景虎は全軍を率いて柿崎景家が包囲する河原田城に向かった。

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