120 占有契約



 ダンジョン攻略会社は、ダンジョンを攻略するための会社だ。

 それは、社員などで契約している覚醒者のダンジョンでの活動をサポートし、最大限に、そして効率的に魔石などの利益を上げることを目的としている。

 社員の覚醒者同士で適切なパーティを組んだり、彼らの装備を用意したり、ダンジョンの情報を収集して、どこに向かうのがいいのかを指示したり、そういうことをする会社だ。


「占有契約を一つ取ってきたわ」


 日本で活動するのだからとクレアは流暢な日本語でそう言った。

 あの短期間で日本語を物にしたのだという。

 金持ちで、才能も豊富。


「私がいまの状態でなければ、嫉妬しすぎて絶対にあなたに従いたくないですね」

「なんでそうなるの⁉︎」


 リアル才色兼備は、眩しすぎて側にいるのが辛い。

 ヒー子ももうかなり日本語を扱えるようになっているし、才能というのは本当に恐ろしいものだ。

 私はいまだに英語を使えないというのに。


「それで、占有契約というのはどこで?」

「ああ、それは……」


 気を取り直してクレアが言った地名は、かつては有名だった温泉地だ。

 大きな温泉宿が大量に立ち並んでいたのだが、景気の後退とともに客足が減り、団体客を相手にすることを前提としていたそれらの温泉宿は次々と倒産。

 いまでは有名な廃墟群となっている。

 それらの温泉宿の一つにダンジョンの入り口ができているらしい。


「場所が場所だから人も寄りつかないし、とはいえ放置しておくと暴走の危険や後ろ暗い連中が魔石を不正に集めたりするかもしれないからね」

「では、すぐに攻略を?」

「いいえ、三年契約にしてきたわ。その間に稼げるだけ稼いで」

「三年も?」

「そう。三年の占有契約で土地所有者に契約金を支払っているわ。そしてその契約金は廃墟となったその建物を撤去費用とすることを、自治体と組んで約束させたから。なので、三年間しっかり稼いでちょうだい」

「なるほど」


 その温泉地だけではないが、閉鎖した巨大施設の撤去問題というのはどこにでもある。

 ダンジョンが生み出す利益の一端が、それらの解決に役立っているようにすることで、会社のイメージを良くしようという魂胆もあるのか。


「いろいろ考えますね」

「それが社長の役目よ」

「では、下見ついでで行ってみるとしましょう」


 というわけで、その温泉地へさっそく向かって見ることにする。


 下見なので一人だ。

 美生の予定は決まっているし、ピロアーネは即時攻略ダンジョンで呼ばれている。

 移動は車だ。

 社用車も購入し、専門の運転手も雇った。

 車は、いずれパーティを運ぶ可能性を考えてワゴン車となった。

 私やピロアーネ、美生のマネージメントだけではすぐにクレアのやることは無くなってしまう。

 使えそうな覚醒者を集めてパーティを育成してみるのもいいかもしれない。


 運転手の秋山さんは四十五歳の元タクシー運転手だ。

 目的地に着くまでの間、秋山さんの話し相手になる。

 彼は妻に病気で先立たれ、いろんな職業を転々としながら一人で息子を大学までいかせたという苦労人だ。

 その息子とは今年で大学を卒業し無事に就職したとのこと。

 一区切りついたことで、仕事の頻度を落としたくて転職先を探していたら、運よくゴッデスの運転手の仕事を見つけて応募してみたら受かったのだという。

 クレアがどういう基準で選んだのかはわからないが、実直で感じの良い方なので、このまま問題なく続けてほしいと思う。


 三時間ほどで目的地に到着する。

 六時間ほど潜るので、どこかでちゃんと休んでいて欲しいと告げる。

 クレアからも長時間待機の場合の宿泊費は出るし、それ用のクレジットカードも用意されているので問題ないと言われた。

 さすがだと感心し、並ぶ廃墟群の中から目的の場所を探し出し、入り口に向かう。

 そういえば、島津藤吾と一緒に攻略したダンジョンも温泉宿ではなかっただろうか?

 観光業界の興亡になんとく思いを馳せながら、余計な侵入者が入れないようにされた建物の入り口で覚醒者登録証を使って中に入る。

 情報通りの場所で見つけたポータルに足を踏み入れると、新たに広がった景色は……海だった。


「……ならばせめて温泉にするべきでしょうに」


 ダンジョンにとって、『どこに出現したのか』にどこまで意味があるのかわからないが、そう言わずにはいられない。


 宝石のように太陽の光を照り返す砂浜。

 底を見透かすことのできる海。

 穏やかな波。

 わずかに汗ばむ程度の程よい陽光。

 泳げと言わんばかりの環境だ。

 これがピロアーネなら瞬く間に騙されて海に飛び込むことになるのかもしれないが、私までそんなことをするわけにはいかない。

 まだ、魔物は出てきていない。


「お仕事ですよ」


【モンスターマスター』のスキルを使い、支配下に置いた魔物たちを召喚する。

 レッサーフェンリルとフェオレッタだ。


「魔物と、魔石、それからボスがいる場所を捜索していきます。レッサーフェンリルは地上を。フェオレッタたちは海上を調査してください」


 私の指示で動き出す。

【モンスターマスター】で使役した魔物ならば、ダンジョンで戦って魔石を手に入れることができるとわかった。

 これからのダンジョンでの私の攻略スタイルはこれで決まった。

 というか、手下に能力強化のバフを撒き、その成果を待つだけというのは、ラスボスとして君臨していた頃とあまり変わらない。

 攻守の立場が変わっただけだ。

 

「それはそれで面白みはないけれど、まぁ、これからの私には必要なことかもしれませんね」


 ダンジョン攻略会社というものを立ち上げ、私自身の露出も増えている。

 補助能力特化と謳っているとはいえ、これからも魔物を倒す姿を見せないままというわけにはいかないかもしれない。

 ようつべなどにも出演するし、どこで記録を撮られているかわからない。

 そこで【モンスターマスター】だ。

 魔物に戦わせていれば、私自身が戦う必要はない。


「そうなると、もう少し手駒が欲しいですね」


 フェオレッタは数がいるので戦闘面での苦労はないかもしれないが、それでもさすがに全状況に対応できるとは言い難い。

 例えば今回のダンジョンが、先に進むには海に潜らなければならないし、潜っている最中にも襲撃を受けるというものだった場合、レッサーフェンリルもフェオレッタも役に立たない。


「水中戦用のユニットが欲しいところですが……さて」


 砂浜を踏んでのんびりと進みながら、成果を待つ。

 見つけたのはレッサーフェンリルだった。

 砂浜をしばらく進んだ先にある崖で、大きな魔石鉱脈を発見した。

 次に、フェオレッタが沖合いの海中に沈んでいる石造の建物を見つけたと連絡してきた。


 まずは魔石鉱脈を確認する。

 かなり育っている。

 これは美生に掘らせるといい動画が撮れるかもしれない。

 さてでは、次は海中の建物とやらを調べてみるとしよう。

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