119 会社名は



 迂闊にも世間に私のモンスターの姿が見られてそろそろ一ヶ月。

 世間はいまだにドラゴンの話題で盛り上がっていた。

 ドラゴンのファンアートをSNSに発表する者。

 ダンジョンの危険を声高に訴える者。

 出現した周辺でドラゴン饅頭などのお土産品を売り出す者。

 ドラゴン擬人化ファンアートをSNSに放出する者。

 ドラゴン日本を守ったと熱く語り、神社を作ろうと言い出す者。

 ドラゴン擬人化で魔法少女系美少女派とお姉さん系美女派で議論する者たち。


 本当に、色々といる。


「みんな、暇ですね」


 近所の定食屋のテレビから流れる、ドラゴン神社建立への情熱を語る人物のインタビューを見ている私は、そう感想を漏らした。


 今日の昼食は煮鯖定食だ。


「いっそ、正体を明かしたら?」


 対面でカツ丼を食べるピロアーネがそんなことを言う。


「そして私があなたの主人。ふふふ、これはまたバズるわね」

「そんな理由で迂闊なことを言うなら、月に置いて行きますからね」

「や、やだなぁ。冗談だって。女神ジョーク」

「あ、この擬人化ドラゴンは次郎さんっぽくないですか?」


 と、隣にいた美生がスマホを見せる。

 美生は三つ目のチキン南蛮定食の到着を待っているところだ。

 スマホの画面にはメガネをかけた理知的な女性をベースに角や尻尾などのドラゴン要素を加味した絵がある。


「いや、これは女性ですが?」

「次郎さんが女装したらこんな風になりませんかね?」

「……なんでそんな目で見るんですか?」


 すごく興味がある目をされても困るのだけれど?


「ジロウさんは、男のままで、いいです」


 右斜め、ピロアーネの隣に座るヒー子が片言の日本語で言う。


「男のままの、ジロウさんが、いいです!」


 そしてその圧はなんなのか?

 わからない方がいいのでわからない。


「あ、次郎さんのニュースです」


 そんなヒー子の圧にみんなが負けていると、美生がテレビの新しい話題に食いついた。

 テレビでは私とクレア、そしてピロアーネが並んでいる。

 クレアを社長として、ダンジョン攻略会社を立ち上げたのだ。

 別に派手にやる必要もないと思っていたのだけど、クレアは諸々の立ち上げ手続きを終えると、テレビを呼んで大々的に発表したのだ。

 派手なことが好きなピロアーネはご満悦だったが、私は正直、疲れた。


 クレアが社長。

 社員は私とピロアーネ、そして美生の三人が覚醒者として所属し、事務員としてさらに何人か雇用する予定となっている。


 そして。


 会社名は『ゴッデス』

 女神だ。


 会社名を決める会議をした時に、いつまで経ってもまったく決まらなかったので、最終的に一人一案出し、その後にサイコロで一番大きな値を出した者のそれで決めるとしたのだけど……。


 ……まさか、ピロアーネが勝つとは。


『ゴッデス……女神ですが、社名をこのようにした理由は?』

『そうですね。女性は皆、女神だからです』


 このインタビュアーも、なぜこの質問で私にマイクを向けたのか。

 目が完全に死んでいるじゃないか。


「この時の次郎さん、かっこいいですねぇ」

「え?」


 なぜ、美生はそんなこと言うのか?

 あのテレビの私を見てそんなことを思う?

 大丈夫か?

 ちゃんと見えているのか?


「美生、悪い男に騙されたりとかしないでくださいよ?」

「え? ええ⁉︎ なんでそんな心配を⁉︎」

「心配です。内緒で契約書にサインとかしたらダメですからね?」

「しませんから!」


 美生は必死に否定しているが、心配だ。

 心配といえば、クレアの勘当の件だ。

 サルーン一族という大富豪の父から勘当されたとはいえ、それでもすでにクレアには個人の資産がある。

 その総額はクレアが人生を三周しても問題ないぐらいにあるというのだから、さすがとしか言いようがない。

 とはいえ、サルーン一族という看板によって使えていたコネなどを失ってしまった。

 いままでの活動ではその部分に頼っていたことは否定できないので、今後の活動は取りづらくなる。

 そして、勘当の話を信じずに彼女を営利誘拐などの犯罪目的で狙う輩はこれからも絶えないだろうとのことだ。


 そんな状態のクレアを放置するというのは……友人としては放置できない。

 友人……まぁ、顔見知りよりは上の関係であろうとは思っている。


 社長という地位。

 それもS級覚醒者を抱えた会社の社長という地位は、それだけで抑止力として働くだろう。


 まぁ、仕事の成果そのものは、あまり期待していない。

 というか、あまり好成績に業績を拡大されても、忙しくなりすぎるので、熱心になりすぎるのはやめてもらいたいものだ。


 そう思うのだけれど。


「それは無理ですよ」


 と先に食事を終えたヒー子が言う。


「クレアはなんにでも全力がモットーだから、きっと敏腕社長として活躍してくれます」


 さすがに日本語だけでは無理だったのか、母国語を交えてヒー子が親友を語る。

 それは、勘弁してほしい。






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ロボ×宇宙冒険物がやりたいと思ってやった。反省は(略

新作です。よろしくお願いします。

「冤罪魔王と悪役令嬢ロボの銀河騒動記」

https://kakuyomu.jp/works/16818792437442499468

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