ダンジョンラスボス、上司の女神に放逐された先が地球だったので昔の人生の続きをします
ぎあまん
01 左遷からの追放
私はドラジロウ。
前世の記憶を持つダンジョンモンスターである。
どうやら私はある日突然に死んでしまった。死んだ瞬間のことは覚えていないが、事故ではないはずだ。最後の記憶が自室だったのだから、おそらくはそのはず。
そして、次に気が付くと、私はダンジョンモンスターとなっていた。
緑の肌のゴブリンと呼ばれる種族だ。
なんてこった。
思考停止状態で仕事に身を尽くした人生の結果がこれなのかと嘆いていると、そこに女神が現れた。
薄い、下の肌が透けて見えるほどに薄い服を着た女神だった。
下着をつけていないこともはっきりとわかり、なんというか目のやり場に困る。
女性であることはともかくとして、どうしてそれが神であると断言できるのかといえば、そうとしか思えないほどの力を感じたからだとしか言えない。
女神は言った。
「魂を流用して使うとモンスターの進化率がいいらしいのよね。というわけで、がんばって〜」
それだけである。
なんという雑な説明だと唖然としていると、私はダンジョンに移された。
その後、ダンジョンに配置されたモンスターとして、死に覚えを強要された。
体で覚えろというブラック企業的教育方針も、神の世界ともなればレベルが違う。
まさしく何度も死んだ。
ダンジョンの攻略を目指す者たちの前に立ち塞がり、そして殺され続けた。
その内、戦い方を覚えていき、勝利することもあった。
そして、勝利を繰り返すうちに、体内に力が溜まり、進化することができた。
ゴブリン→ゴブリンリーダー→ゴブリンジェネラル→ゴブリンキング……と続けていく内に、ついに種族の壁を超えることができ、最後にはドラゴンとなることができた。
「やっぱり進化で作ると維持コストが段違いで違うねぇ」
再び私の前で現れた女神はとても満足そうだった。
「新しいダンジョンを作ることになったから、今度はそこでラスボス役よろしくね」
そう言われたのは、ドラゴンの上位種であるゴールドドラゴンになったところでだった。
その頃の私は、かなりダンジョンのことを理解していた。
どうしてダンジョンが存在しているのかという根源的な部分はわからないが、どうすれば進化できるのか、ということは理解していた。
ダンジョンのラスボスというのは、ダンジョン内のある程度の管理権を有する。
そのダンジョンを何階層にするか、どこにどのモンスターを配置するか。用意された罠をどこに配置するか、などだ。
なんの駒が用意されるかは女神に権限があるが、女神はダンジョン内部のことはラスボスに任せていた。
なので私は、自分の進化のため、そして絶対に敗北しない鉄壁のダンジョンを目指した。
ダンジョンモンスターとして過ごすうちに、何度もダンジョンの崩壊を体験した。
あれはけっこう辛い。
崩壊に巻き込まれる感覚は、ダンジョンの挑戦者たちに剣で斬られたり、魔法で焼かれたりするよりも辛い。
あんなのは、もうごめんだった。
そして、それは成功し、百年間そのダンジョンを守り通した。
だというのに。
「あんた、クビ」
久しぶりに現れた女神に、いきなりそんな宣告を受けた。
「なぜですか?」
「だって、あんたこの百年、ずっとこの部屋に引きこもってただけじゃない」
戸惑う私に、女神は冷たい目で言い放つ。
「それなのに、あんたはどんどん進化してコストを上げてく。このダンジョンの維持コストの五割があんたなのよね。なのに戦わない、それって無駄じゃない?」
私はなにも言えなかった。
その言葉だけで、この人は現場のことはなにも見ていないのだなと分かったからだ。
反論は無意味だ。
どれだけ意味があることを言ったとしても、こういう性格の人間にはなにも響かない。
自分の間違いを認めることはない。
ただ腹が立ったから腹が立ったと喋っているだけで、そこにある真実を見る気は最初からないのだ。
真実などどうでもいいのだ。
思い出したくもない前世の会社勤めの記憶が頭から無限に湧き出てきて泣きそうになったが、グッと堪えた。
「ラスボスは、あんたに代わってブラックミノタウロスに任せるわ。あんたと違ってこのダンジョンでの勝率百%の猛者だから」
そして、私の前のフロアを守っていたブラックミノタウロスを召喚する。
彼は事前に知らされていたのだろう。
私を見てニヤニヤと笑っている。
ああ、実際に戦っていたこいつでさえも、私の仕事を理解していなかったのか。
まぁそれも仕方ない。新人教育をしていないため、皆が皆、自分なりの流儀で戦っていくしかなかった。
力任せの戦いをやり続けただろうブラックミノタウロスには、私のやっていることは理解できなかったのだ。
なにを言っても無駄なら、時間をかける必要はない。
この女神に仕えるダンジョンモンスターという立場を克服する手段は、いまだに見つかっていないのだから。
「わかりました。では、私は次になにを?」
「ちょうど、別の世界へ進出しようと思っていたから、あなたをそこに配置する。ラスボスじゃないけどね」
「わかりました」
完全消滅を言い渡されるよりはマシだ。
そんな処置ができるのかどうかもわからないが、相手は神なのだから慎重に対処しなければ。
私は長く維持し続けていたダンジョンを去り、新たなダンジョンに配置された。
だが、そのダンジョンに私がいられたのは、一瞬だった。
《契約解除》
《まだ解放されていないダンジョンです。ダンジョンマスターの管理下にない存在の居留は許可されていません》
《外部に排除します》
唐突にその言葉が頭の中で響き、私の視界はさらに暗転し……。
気が付けば、私は星空の下にいた。
さすがに混乱した。
ダンジョンに長くいた。
いろんなダンジョンがあった。
迷宮型、城塞型、地上型、空中型などなど。
しかし、ここにはそれとははっきりと違う雰囲気がある。
魔素が薄い。
空気が汚い。
下にあるビル群、ネオンの光、道路を走る車の列。
私を見上げる人々の悲鳴。
ここは、ダンジョンではない。
そして、ビルに据えられた巨大モニターに映された映像。
音声。
使われている文字。
ここは、日本か?
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