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乙瀬りぼん
1話 「自白」
その時、少女は渦中にいた。
空はどこまでも生憎の曇天で、だというのに少女は傘一つささずに立ち尽くしている。
ひたすら髪から落ちてくる憂鬱感という雫に嫌気がさし、目を瞑る少女。
湿った服は体温も感情も思考も奪い去る。
少女はやがて、人間としてここに立つのをやめた。
人間としての尊厳なんて捨てて、今すぐ無機物と化してしまいたい。
思考を、やめたい。
(――そうだ、思考を諦めればいい。)
脳への一切を遮断して、このまま雨に流されてしまえば。
そうしたら、どれほど気持ちが晴れやかになることか。
ニュースでいつか見た殺人犯のように、“自分はやっていない”と、自己暗示を重ね罪を偽り。
潔白な人間として、今日から生きていこう。
その時、少女は渦中にいた。
少女は水滴で重くなった瞼を開ける。
重力に従い地面へと引かれていく水の粒たちが、実にゆっくり少女の目前を通る度、少女は再び暗闇に戻りたくなった。
その時、少女は渦中にいた。
そう、渦中に。理由なんて、もちろん一つに決まってる。
少女は自由落下していく雨粒に導かれるまま、視線を地面に落とす。
「あ〜あ、やっちゃったなぁ・・・」
アスファルトの上、水の膜が張られた地面の上、少女同様傘もささずに横たわる“少女”が一人。
彼女を目にした瞬間、少女の灰色だった視界に赤がさした。
今にも水に埋もれてしまいそうな、水死体。
その時、少女は渦中にいた。
友人の死体を見下ろしながら呟いたのは、罪悪感でも焦燥でもなく、ただ自分の作り出した渦に対する嘲笑と――ほんの少しの、後悔だった。
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