第43話 七人の大義

   直訴状『七人の大義』


 ドアーを激しく叩く音が続く。

周明氏の少し甲高い声が司令官室に響き渡る。

周明氏はマッカーサー連合軍最高司令官(元帥)に、敗者の直訴状『七人の大義』を読み始める。


周明氏、

 「Please ask me MacArthur commander in chief.」


元帥は拘束された身体の動きを止め、周明氏を睨む。


周明氏、

 「When I'm quiet, I don't harm.」


首をゆっくり縦に振る元帥。

周明氏は肥田氏に眼で合図する。

肥田氏は司令官の顔から「猿ぐつわ」を外す。

元帥は顎を引いて胸を張る。


マッカーサー元帥が、

 「What is it to want to say ?」


周明氏、

 「The Japanese future .」


マッカーサー元帥、

 「Future ? ・・・OK . I'll hear .」


周明氏は直立不動で皇居を拝謁(ハイエツ)、深々と一礼する。

すると周明氏に倣(ナラ)って、肥田氏、岡田氏、杉浦氏、堀田氏、山田氏がソファーを立ち、直立不動で皇居に向かい深々と拝礼する。

首藤氏も司令官の机の前から不動の姿勢で拝礼する。


周明氏はおもむろに、テーブルに並べられた七通の封書の「一通」を取り上げる。

封を切り元帥を睨(ニラ)み、深々と一礼する。


元帥は頷(ウナズ)く。


周明氏は、取り出したザラ紙をおもむろに広げ、読み挙(ア)げる?


 「1。首藤操六! 日本の大義」


首藤氏が、司令官の机の前からマッカーサー元帥の傍に歩み寄り、不動の挙手する。

元帥は首藤氏の全身を静に見る。


周明氏がゆっくりと、気合いの入った声で読み上げる。

 「一ッ。日本の米国植民地化に反対する。No, Colonization !」

 「一ッ。日本古来の伝統を変えてしまう事に反対する。No, Tradition is changed !」

 「一ッ。日本の教育を根本的に変えてしまう事に反対する。No, Educationis changed !」


元帥はうなずきながら首藤氏を見る。

周明氏は広げたザラ紙をたたみ、静かに封筒に仕舞う。


そして、

 「2。岡田 滋! 日本の大義」


周明氏は元帥を見る。

岡田氏が元帥の前に歩み寄り、不動の挙手をする。


岡田氏の皮靴の踵のあたる音が。

 「カッ!」


元帥が岡田氏を見て、頷(ウナズ)く。


周明氏が、

 「1, Do not colonize Japan.」

 「2, The deram and hope are given to the young person.」

 「3, Do not use the atomic bomb to fight.」


マッカーサー元帥は深く眼を瞑り、天井を見てため息を吐き、

 「・・・Yes・・・」


杉浦氏は元帥の前に一歩、歩み寄り深々と頭を下げる。

元帥は痩せた杉浦氏を見る。


そして周明氏が、

 「一ッ。日本の伝統的教育を変えない事ッ!No, Education is changed ! 」

 「一ッ。日本人を洗脳しない事ッ!No, brainwashed !」

 「一ッ。頼母子講(保険)を続ける事。No, Insurance system is changed !」


不動の姿勢で司令官を見詰める杉浦氏。

鉛筆を握りしめた手が震えている。


元帥が、

 「? Insurance system・・・?」


周明氏を見る元帥。


周明氏、

 「・・・Yes !」


元帥、

 「・・・OK !」


周明氏は肥田氏に目配せをする。

肥田氏は元帥の後ろ手の緊縛(キンバク)を解く。

元帥は解かれた手首を擦り、周明氏を見る。


 「4。堀田善衛! 日本の大義」


堀田氏は元帥の前に歩み寄り、胸を張ってジッと元帥の眼を見る。

元帥が腕を組み、堀田氏を見る。


周明氏が読み上げる。

 「一ッ。言論の自由。Freedom of speech !」

 「 一ッ。思想の自由。 Freedom of a thought !」

 「 一ッ。行動の自由。 Freedom of behavior !」


元帥は堀田氏を見て、納得した様に二度うなずき、

 「Yes, OK !」


堀田氏はマッカーサー元帥を見詰めたまま微動だにしない。


周明氏は更に、

 「5。肥田春充! 日本の大義」


肥田氏が堂々と元帥の前に歩み寄り、睨む。

元帥は肥田氏を睨み、拘束された腕を擦(サス)る。


周明氏、

 「一ッ。体操の充実。Exercise !」


元帥、

 「Exercice ?」


周明氏が元帥に向かって一括する。

 「静かにッ!」


周明氏は更に続ける。

 「一ッ。教育を受ける権利。The right to get education. 」

 「一ッ。病院を沢山建てる事。Many hospitals are built !」


元帥は肥田氏にウインクして、

 「Yes !」


肥田氏は呆気にとられ、睨んだ顔が緩(ユル)む。


突然、司令官の机の上の電話が鳴る。

 「リリリリーン」


首藤氏が急いで司令官の机に戻り、電話のコードを抜く。


周明氏は続ける。

 「6。山田欣五郎! 日本の大義」


山田氏が元帥に熱い視線を送り前に進み寄る。

元帥は奇妙な視線で山田氏を見詰める。

そしてじっと周明氏の言葉に耳を傾ける。


周明氏、

 「一ッ。女性の人権の取得。The female rights !」

 「一ッ。オカマの人権の取得。The homosexual rights !」

 「一ッ。戦争はやらない事。Abandonment of a war !」


元帥は山田氏の全身を見て、


 『Homosexual ? Gender?・・・ Oh.」


元帥は頭を抱える。


山田氏が、

 「何よ。文句(モンク)あるの?」

 「・・・ NO, OK,Ok.」


山田氏、

 「・・・だいじょぶ? この人」


元帥は全員の顔をゆっくり凝視して行く。


そして、

 「キミタチハ、ナニモノダ?」


周明氏が、

 「・・・日本国民の代表だッ!」


元帥は全員を見回し、


 「・・・キミタチハ、ヒーローダ。ヨク、ココマデキタ」


元帥はもう一度、周明氏を見て、

 「OK ! Everything will grant your request .」


周明氏が六人に向かってこの言葉を大声で「訳す」。

 「マッカーサー元帥は、すべての・・・要望を叶えると言っている」


六人は顔を見合わせて、

 「勝ったッ! 勝ったぞ。俺達は連合軍に勝った。マッカーサーに勝ったんだ!」


六人の眼から涙が溢れ出る。

元帥がソファーから立ち上がる。


六人が俯いて泣いている。


司令官室のドアーの鍵を開ける音が。

 「カチャ・・・」


ドアーが開く。


『MPの将校スミス』達、八人が銃を構えて部屋に入って来る。

ナンシーは開いたドアーの向こうから、茫然と『この光景』を見詰めている。


スミスが大声で、

 「フリーズッ!」


MP(A)、

 「ハンド アップッ!」


MP(B)、

 「ドン フリーズッ! ハリー、ハリー!」


MPの一人が拳銃を構え、全員を壁の前に集めて立たせる。

 「バックッ! ノウ! バックッ! ハリー! ハリー!」


七人全員は後ろを向いて、壁に向かって薄笑いを浮かべている。


 「参 考」

スミス(連合軍最高司令官付け・MP将校)

                          つづく

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