星の数ほど笑いたい
平井海人
プロローグ
花は、ドライフラワーになる前に『マルーンフラワー』という状態になるそうだ。昔はそれを薬にして摂取すると、どんな病気でも治ると言い伝えられていた。しかし、その瞬間を見極め、乾燥の進行を止めて薬に変えるのは難しく、現代の科学では不可能と言われている。
《プロローグ》
「笑い方を忘れた……」
宇辻宙は、彼女からのメールを見て、飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。宇宙船の中にお茶の気泡がたくさん浮いている。
「え?どういうこと?ww」
宇辻が笑ったとたんに、会議のチャイムがなった。なにか緊急の会議が行われるようだ。宇辻は急いで向かった。
会議室につくと、星熊隊長が険しい顔をしていた。どうやら重大な事らしい。メンバー全員がそう察したとき、星熊は思いもよらぬ言葉を発した。
「今日を持って、火星探査を終了することとなった」
「ええ?」
「まじすか?隊長!」
「努力の結晶がぁ……」
様々な驚きの矢が星熊に突き刺さった。今までの研究の成果が台無しになるという状況を信じられないようだ。だが、星熊は表情一つ変えない。
少しの沈黙のあと、モニターにキング長官が映った。
「突然だが、今、地球は深刻な状態だ。パンデミックが起こっている」
キング長官の説明で、会議室にいたメンバーは息を呑んだ。
「スマイルクラッシュというウイルスが蔓延している。スマイルクラッシュにかかった者は副作用として、笑えなくなるのだ。私も、笑えなくなってしまった」
「……!」
宇辻は目を丸くした。
(さっきのメールはそういうことだったのか。)笑ってしまった自分を後悔した。そして同時に彼女や地球の人々を助けたいと思った。
「スマイルクラッシュは治っても、笑えないという副作用はずっと残り続ける。」
助からないのか……一生笑えないのか……そう、絶望を抱いた瞬間、キング長官が希望の光を見出した。
「だが、一つだけ可能性が残っている。それが、マルーンフラワーの存在だ。」
「マルーンフラワー……ですか?」
と、星熊が慣れない単語を聞き返した。
「そうだ。マルーンフラワーだ。昔はそれを薬にして飲むと治ると言われていた。しかし、現代の科学ではそれは不可能だと言われている」
「じゃあ、無理じゃないすか?」
食原夏樹が聞くと、キング長官は首を振って否定した。
「いや、無理と決めつけてはいけない。希望の光が見えるうちは研究をしてほしい」
キング長官がそう願うと、メンバー全員は「火星探査をやめ、地球にマルーンフラワーを届けること」に賛成の意味を込めて、力強く返事をした。
「そうと決まれば、早速プランについて話そうか。まず、花を調達しなくては何も始まらない。そうするには、まず花を探す役目が必要だ。」
キング長官がそう聞くと、月村晴人は質問した。
「花を探す人にはロケットで行ってもらうんですか?」
「いや、ロケットは目的の場所に行くのには適しているが、花を探すのには適していないだろう。だから、宇宙服で花を探してもらって、見つけたらそこへロケットが向かう」
「ええ?それは何が何でも危険すぎますよ!」
灯田愛瑠は、手を広げて語った。
すると、長い間考え込んでいた宇辻が言った。
「僕が行きます!」
「おお!」
「すげーな!宇辻」
「本当に行って、くれるのか?」
驚きの声を背に、キング長官は疑い深く聞いた。
「はい!」
宇辻は拳を固めた。宇辻は(自分がこのまま逃げて、彼女が笑えなくて、それでいいのか?)と深く考えていたのだ。
「宇辻、準備はいいか?」
「はい!」
星熊隊長の問いに対して、宇辻宙は力強く返事をした。
宇辻は小さな窓から広大な宇宙を見つめる。あの頃に夜空を見て感動させられた星が今、目の前に並んでいる。
宇辻にとって遠い存在だった星が今にも、さわれそうだ。
「宇辻さーん!無事に帰ってきてください!」
月村の震える声で、宇辻の意識は宇宙船内に戻される。
「彼女が心配してたぞ!頑張れよ!」
「……!」
食原がからかうと、宇辻は顔を赤くした。宇宙船内に笑い声が響く。
「発射準備OK!」と月村が言うと、一気に緊張が走った。宇辻は(何がOKだよ!)というツッコミを心の中にとどめた。
一段階目の扉が開き、合図で宇宙服のヘルメットを装着すると、立っていた台が前進する。それからは、あっという間だった。
「3・2・1テイクオフ!」
官制室の合図で宇辻は飛んだ。
「!!」
宇辻は間近に見える星に感動して言葉も何も出ない。暗闇に反して光り輝く星。光と影のコントラストが宇辻の胸を打った。
しかし、飛んでいるうちに視界が薄れていく。意識も朦朧としているようだ。
「こちら星熊。宇辻、応答せよ。応答せよ……」
宇辻は環境の変化に耐えきれず、暗く沈んでいった。
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