第2話 海を越えた悪魔
仲間が次々と殺されていく。
悪魔は強力な武器を手にし、数を頼りに我々に襲いかかってきた。
我々は先祖からの伝統と誇りを守り、正々堂々と戦いに挑んできたつもりであった。
相手の力量に合わせた戦士を送り出し、戦いを受けてきた。
子供には子供で当たり、力を持つ者にはそれなりのものを当ててきた。
勝ったり負けたりしていたが、最後にはお互いに認め合い、悲劇を起こさず終結させることが出来ていた。
我々は戦いにおいて、強者への助力は極力求めてはいなかった。
また、相手が弱いものであるときは無益な流血を避けるためにあえて姿を隠した。
それが、先祖から受け継ぐ英雄の血であり、強者の誇りでもあった。
奴らはそれに奢り平和を覆した。
強力な武器を手にし、数を頼りに自分たちよりも弱い我々の仲間たちを、いたぶり殺す惨劇にでた。
一対一ならば負けるはずのない戦いだが、相手への尊敬と礼儀を知らぬ悪魔たちが、集団で襲ってくる。
あの馬車の中には、一体何人の悪魔が控えているのだろう。
奴らと同じような悪魔のグループが何組も現れ、我々の町を焼き尽くし、わずかばかりの蓄えと命をも奪い取っていった。
女も子供も、奴らには関係がなかった。
町を復興させる為に、偉大なる神官様を中心に一丸となって働いた。
年月が経ち町にようやく復興の兆しが見えた時に、奴らが再び神殿に乗り込みあの理知的で優しい神官様をなぶり殺しにした。
神官様は強かったが、それでも一人を大勢で叩くことが神に許される行為なのであろうか。
なぜ我々がこんな目に合わなければならないのだろうか。
奴らは神官様の偉大なる角を切り取り、数名で高らかに掲げて強さを誇示する。
悪魔たちは悪びれることもなく、我々の必死で蓄えた復興の財源を根こそぎ持ち去っていく。
驚いたことに奴らの最前線で酷使されているのは、我々の仲間ではないのか。
可哀想に最前線でひどい傷を受けていた。
喜ぶ悪魔の中で顔をしかめて何をしているのだ!
彼らは皆、薬物か何かを与えられ洗脳を受けているようであった。
仲間に仲間を殺させる。
そして、今回仲間が殺した神官様は、我々のすべての者が、かつてすべてを教わった親とも言える存在だった。
非常識な悪魔にしか考えられない罪深い行為だ。
我々は暮らすべき町を失った。
今回の事件を踏まえて、もう二度と奴らに出会わぬようにひっそりと暮らしていく事を決めた。
森の中、海の中、こんな所にまで奴らは何かを求めてやって来て、我々の偉大な先生たちを殺めていく。
先祖から受け継いだたかが鏡を求めるために、何人が犠牲になったのであろうか。
素直に欲しいと言えば何も隠すようなものでもないし、それで侵略を止めてくれるなら安いものだった。
奴らはいつものように大勢で押し寄せて、負けても負けても何らかの手段で蘇り、その度により強力な武器を我々に向けてきた。
いつしか我々をも超える強大な武力と人数で、先生方1人1人を相手に狡猾に押し迫った。
伝統を重んじ、戦いの誇りを守る事を最善と信じてきたが、この結果は進化を拒んできた我々に対する報いなのかもしれない。
尊敬する指導者にも、ついに魔の手がすり抜けてきた。
もうすっかり取り囲まれた彼であったが、最後の平和的な解決案を提示する。
「我々の世界を、半分お前たちにやろう。今後は半分ずつ世界を守っていこうではないか。」
あの時に、指導者が庇護した遠い海から流れ着いた数人が、今では我々を脅かす存在になっていた。
最後の交渉をせせら笑い、奴らは武器を取った。
指導者の強大な力は奴らを叩きのめしたが、また別の者達が城に押し寄せてきた。
我々の指導者は根気強く彼らに提案を続けて、共存の道を模索してきた。
何度も何度も、新しい悪魔の力が指導者に襲いかかり、人数が増え、彼はついに倒れた。
悪魔たちから咆哮が上がり、我々は城を捨てて逃げた。
涙を流しながら山の奥地へと逃げ込む。
なぜ我々は迫害を受けなければならないのか。
武器を手に執拗に追いかけられる恐怖が、生活の片隅にへばりついていた。
「坊や、あなたは一人では強いけど、決して人間に近づいちゃダメよ。」
「どんなに小さく弱い人間であっても見かけたらすぐに逃げなさい。」
「うん。僕はそうするよ。弱いものいじめはしないんだ。僕はドラゴンだからね。」
「同じぐらい強い者としか戦わないよ。」
目をキラキラとして話す子供を母親がたしなめる。
「絶対に逃げなさい。」
「人間は戦いに誇りも持たないし礼儀も知らない、悪魔なのよ。」
「弱くても数を頼みにやって来て、より強い我々を見つけると喜んで殺そうとしてくるのよ。」
「そして、殺した相手を食べもせずに私達の血で濡らした身体を見せつけて喜び合うの。」
「ただ、腕試しがしたいだけ。」
平和な昔に戻りたい・・・。
あの数人を助けたばかりに先生も指導者もみんな殺されてしまった。
悪魔に優しさはいらなかったのよ。
今日もまた何十人もの仲間の命が人間によって奪われていった。
世界は人間に覆い尽くされるのであろう。
我々の仲間はずいぶん少なくなってしまった。
仲間を見つけた時に、人間はどのような顔でやってくるのであろうか。
期待を胸に、自分の強さを誇示するために笑みをたたえた悪魔が、慎ましやかに暮らす我々を殺しにくるのだろう。
毎日が死の恐怖でいっぱいだった。
息を潜めて木陰に隠れて、恐ろしい人間達に神罰が下ることを祈ることが生きていく日課であった。
世界は広いが、あと何十年暮らせるだろうか。
せめて坊やが天寿を全うする500年の間だけでも、平穏な暮らしができる場所を探さなければ・・・。
「神よ、どうか平穏な日々をお与えください。」
神も悪魔に殺されてしまったのか、
とても叶わぬ儚い夢のように思えた。
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