第11話

「ここだよ。さぁ入って。」


女性に連れられてきたのは年季の入った建物だった。

見上げると看板には「三日月亭」と書かれている

女性と共に中へと入った



「あんた、今帰ったよ。」


「あぁ。」


女性は、奥に呼びかけていた。


「荷物はその辺りに置いとくれ。

あんたはここに座って、ちょっと怪我をみせてもらうね」


『…』


私は言われるがまま椅子に腰掛ける。

女性は奥からタオルなどを持って戻ってきた。


「頬はこれを当てて冷やした方がいい。

他は…」


『あのっ。大丈夫です』


私は腕を見られたくなくて隠す。

服の破れた箇所から、肌が見えていて痣が露わになっている部分があった。


「でも、怪我してるなら…」


『これは違います。たいしたことないから… 』



私は肌が露出している部分に手を当てて隠した。


「あんた…」


女性は何か言いかけて、また奥の部屋に入っていった。


どうしたらよいのか分からず、そのままじっと座っていた。


話し声が近づいてくる。


見上げると女性は中年の男性を伴っていた。


「ちょっといいかい?」


二人は私の向かい側に腰掛ける。


「こっちはあたしの亭主のダン。

私はルイーザ。ここで宿屋を営んでる。


『私は…ソフィアです』



「ソフィア。いい名前だね。


ソフィア、あんたどこか行くとこはあるのかい?」


柔和な笑顔を浮かべるルイーザさんに尋ねられて、思わず助けを求めそうになった。


これ以上迷惑はかけられない。

何か言ってこの場をごまかそうと思ったけれど、適当な答えがみつからなかった。

私は、黙って首を左右に振った。


「やっぱり…」


すると、ダンさんが一言


「ならここで働いたらいい」



そう言い残してダンさんは奥の部屋に戻っていった。


『え…』

自分に都合の良い幻聴が聞こえたのかと思い戸惑った


「ソフィア、私達にはあんたぐらいの娘がいたんだけどね

ちょっと前に亡くなってね…

お互い働くことで娘のことはなるべく考えないようにしてきたんだ。


娘の部屋は手付かずでまだそのままの状態だしね…

あんたからしたら、ちょっと気分悪いかもしれないが、良ければ娘の服など使っておくれ。部屋も自由に使ってくれていい。まぁちょっと掃除が必要かもしれないがね」


『気分悪いだなんて、そんなことありません。あの、いいんですか?私なんかが…』


「あぁ。気にすることはないよ。みんな、何かしら生きてれば色々とあるもんさ。あんたも…何があったか知らないけど、これから、ここでやり直せばいい」


『ありがとう…ござ…います』


二人の優しさが、渇ききった私の心に沁み入る。

感極まり涙があふれ出て、信じられない幸運に感謝するばかりだった。




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