第7話

「ねぇ。ちょっと」


はぁと思わずため息がでそうになるのをぐっと堪える

少しでも嫌な顔をすれば義姉の機嫌を損ねるので、平静を装い返答する



『何か御用でしょうか。お嬢様』



「うふふ。や~ね。他人行儀で。お義姉様でしょ。」


『えっ…』



いったいどうしたというのだろうか


義姉のことはお嬢様と呼ぶように強要されている


義理でも姉妹なのが許せないし認めたくないからと。決して人前では呼ばないようにときつく言われている



「うふふ。いいのよ。 

予想外にお父様がうるさいから、いいこと?明日あなたは具合が悪くて寝込んだことにしなさいら、

部屋には外から鍵をかけておくから。後は侍女のアンの指示に従いなさい。私の言うことは絶対よ!わかったわね?」



『…』


義姉は私の返答を聞くことなく去って行った


どういうことだろう


嫌な予感がして、胸がざわついた。何か良からぬことを企んでいるとしか思えず、

その夜はなかなか寝付けなかった


次の日はいつも通り朝から仕事をするつもりが、待ち構えていたアンさんに義姉の部屋まで連れて行かれた

義姉の部屋に入るのは初めてだった。

 

義姉の部屋は様々な装飾品や家具が置いてあり、一目で高価なものだと分かる。


室内が珍しくて見回していると、アンさん含め数人の侍女達に囲まれた。

身構えていると抵抗するまもなく浴室へと連れていかれ、あれよあれよというまに服をぬがされた。


バスタブに促されて、丁寧に洗われていく


戸惑っていたけれど、石鹸のいい匂いや温かいお湯が心地よい。まるでお嬢様にでもなったようでなんだかくすぐったい


のんびりするまもなく、洗い終わると急かされるように連れていかれて、タオルで拭かれる。


そして手際よく夜会用のドレスを着せられた


『あ、あの…』


「時間がありませんのでお静かに。

私共の口からは何も申し上げられません」


侍女達はそれ以上何も話すことなく淡々と仕事をこなしていく


義姉の気まぐれだろうが、分からないから不安ばかりが膨らんでいく


体のあちこちには打ち身の跡や、痣があるので肌の露出のない首元まで覆われた地味な紺色のドレスを着せられた


それでも嬉しいと思ってしまった

普段は所々破れたみすぼらしい服を着ているから。


着替え終わったのを見計らったように義姉が颯爽と現れた。

側まで近づいてくると上から下まで視線を動かしていく


「ふ~ん、まぁ見れないことはないわね。化粧はしなくていいわ」



「ですがお嬢様。ご一緒に参加されるのであれば最低限は必要かと思います。お嬢様の顔に泥をぬることになりかねないかと……」



「はぁ……それもそうね。それなら適当にね。任せるわ。そろそろ出ないとお父様に見つかるわ。会場に着いてお父様と別行動になった時に合図するから、分かったわね?アン」



「かしこまりましたお嬢様」



私は訳も分からずこっそりと裏口から馬車に押し込めるように乗せられた。

そして、停車した馬車の中にしばらく閉じ込められていた。




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