第4話
「無理してそうだった。きつかったんでしょ?わたしも、どうすれば良いか分からなくて。泣きそうな顔しながら吐き捨てていたの、気付いてた?」
雪乃の表情が弱々しく歪む。あぁ、そんな風にさせたのは私だ。自己嫌悪で吐きそうなんだ。
気付けば、私はしがみついていた。君にしがみつくなんて自己中が過ぎるんだろうが、とにかく泣いた。泣きじゃくった。
「ゔぁぁぁぁぁぁ、うっぐ、ぁ」
涙で、ぼんやりと色だけが見える。
春のような、暖かさを感じた。頬は、ひやりと冷たく、冬のようだった。
抱きしめられていた。やさしく、心強く。丁度光が彼女の真後ろから差した。奇跡を感じた。
「つらかったよ…」
奇跡に、すがった。
淡色でシワの無い雪乃のカーディガンに顔をうずめた。ほのかに、柔軟剤の香りがした。
ようやく少し、落ち着いてきた私は、言わなければならないことがもう一つあった。気は重い。何をしようとしているか、バレるから。向こうが拒むなら、無理強いはしたくない。
「実は、明日からやってほしいことが、あって」
ごめん。私は君を傷つけるかもしれない。君はどうしようもないくらいに、やさしいから。
私は今から、そこにつけ込む。
「私のあいさつに、笑顔で応えてほしいの」
そして私は、とにかく冷静に説明した。
雪乃の表情は、万華鏡のように雰囲気を変える。目を瞬く様子はあどけなく、素朴な疑問に小首をかしげた。そして、それをすることの意味・影響をゆっくりと咀嚼し、気付いていく。
見ていられなかった。私が云ったのに。自分のしたことから逃げたくなり、一度視線をそらした。
もう一度、意志で無理矢理自分の顔を向けて、後悔した。あるいは、後悔する為に目を合わせたのだろうか。
彼女からは、感情が、そっくりそのまま抜けていた。比喩とかじゃなくて、本当に落ちているんじゃないかって気がした。探せば、公園のボールみたいに地面にあるように思えた。無いけど。
これでもう、戻れない。
私は明日から。クラスの皆の敵、否、泥虫に成り済ます。
なるべきは、完璧なる「自業自得の被害者」。
全力で茶番を遂行してみせる。
白い暴力 いずの @OnlyNoisy
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