第85話

「真守おかえり!」


「ただいま。……今日ハンバーグ?」


「せーかい!匂いでわかったの?」


「肉の匂い。と、ゆる味見したろ」


「? うん」


「ソースついてる」


「!?」




やだな恥ずかしい、これじゃあ本物の幼児だよ。


真守を玄関に置いて、ティッシュを求めに急いでリビングへ戻ろうと、背を向けたその時。




「は……?」




温度を下げる、冷え切った声に思わず足を止めて振り返った。



「どうした」の、――と。


おしりの文字だけ声に変換することができなかった。真守の表情を見て喉を詰まらせてしまったからだ。


ほんの数秒前までにこやかに口角を上げていたというのに、ひきつらせている。



真守は鞄を廊下に置いた。手を上げ自分の首裏へ持っていき、そこを指さす。ピンとこないその動きを真似てみても、首裏にはなにもない。



けれど、そこで唐突に記憶が再生された。




〝まあ、お詫びと思ってもらえたらそれで〟




ま、さか。

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