第84話
「はい」
「……なんか分厚いよ。多く入れてない?」
「真面目だね。気付かないふりしてたらいいのに。でも間違いじゃないよ」
「……でも今日は1回なのに」
「うん。まあ、お詫びと思ってもらえたらそれで」
薄暗い部屋に、窓からこぼれる褐色が僅かに明るさをもたらしていた。
服を着て外へ出ると、絵の具で描いたようなグラデーションの空を見た。
鞄に入った封筒は、たしかに分厚かった。おそらく2、3枚。
それだけを聞くと誤差程度の枚数ではあるが、金額にすれば結構なもの。誤差なんて言えばばちが当たる。
水夢が呼んでくれたタクシーに乗り込み、真守のアパート、ではなくバイト先の最寄駅を伝える。
そこからは、バイト帰りと同じ経路を辿るだけ。我ながらいやらしい女だと思う。
真守にもらった合鍵を使って部屋に入る。17時過ぎ。真守が帰ってくるのはまだ数時間後。
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