第82話

なんとなく、……なんて嘘。


さっきペットショップで感じたそれとは違う。でもまたさっきと同じように、心臓が苦しくて痛い。


その苦しいというのも、悲しい手に握りつぶされる苦しさではない。


心臓が熱を持って胸いっぱいいっぱいに膨らむような、苦しさ。どうしよう、弾けてしまったら。




「ふふん、ふん〜……」




これはなんの歌でもない。


適当に鼻を鳴らして振り返るふりをして、真守がどんな顔をしているのか、チラ見をするための余興だ。


真守はわたしみたいによそ見をせず、ちゃんと前を向いて歩いている。



そんな真守の顔を、下から見てもかっこいいなーとか、睫毛が綺麗にセパレートされてるなーとか。結局、ちら見するだけのはずが、がん見してしまった。


真守は気まずそうに、わたしに視線を落とす。




「そんな見られたら気になんだけど。まじで前見て歩いてね?」


「、はい」




あれ、わたしって、どうやって歩いていたっけ。


歩く時は手を振ってた?勝手に揺れる?ってことは真守と繋がるこの手は、どうしたらいい?



途端にぎこちなくなる自分の動き。


普段頭を使わずにできていた動きがまるでできなくて。


駐車場へ繋がるエレベーターに乗り込むまで、わたしは真守に、「ちゃんと歩いて」や「今日歩きかたおかしくね?」と何度か突っ込まれたのだった。

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