第73話

「さっきの、本当に全然関係ないかもしれないけど。やっぱりわたしは真守の優しさをひとりじめしようとは思えないよ」


「……」


「だってそんな優しい真守が大好きなんだもん」




これは本当。ていうか、こうしてそばにいてくれるだけでもわたしにとってはじゅうぶんすぎるのに、さらに真守に他を求めてしまえば、わたしはきっと、どんどんと欲深くなるからそんなことはしないし言わない。


だって、真守の優しさをひとりじめするくらいじゃ足りない。それならわたしは、真守の全てをひとりじめしたい、って思うから。



床を拭き終えた真守は、今吐ける全ての息を吐くように、時間をかけて部屋の二酸化炭素の量を増やし、ゆらりと頭を上げた。




「俺はこれでもゆるにだけ優しくしてるつもりなんだけど」


「そうなの?それはそれで嬉しいよ」


「嬉しいの?」


「嬉しいよ」


「どんくらい?」


「すっごく」


「どんな風に?」


「、どんな風に……?」




なんだか今日の真守はおかしいな。面倒臭い彼女みたいなことを言う。


まあ、面倒臭い彼女がどんな生態なのかは知らないけれど。

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