執着は、意図せずに

第44話

「あれ、ここ電子マネー使えないの?」


「申し訳ございません。当店のお支払い方法は現金のみとなっております」


「いま万札しかないわ、ごめんね」


「恐れ入ります。一万円お預かりいたします」




ビルの隙間に埋もれるように佇む小さなうどん屋。


新しいお店がどんどんと増えていくこの地で数十年経営を守り続けているというこのお店に、先日アルバイトとして雇ってもらった。


本当はアルバイトではなく正社員として新たな会社に勤めるはずだったけれど、今のところ不採用ばかり。



けれどこのまま無収入で生きるわけにもいかず、なんとか就職活動をしながらひとときの間でも雇ってくれるお店はないかと、アルバイトの面接も並行して受けていると、3軒目でこのお店を切り盛りする心優しい老夫婦がわたしを受け入れてくれた。

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