おっさん化炭素

加賀倉 創作【書く精】

一発目『太郎・プー. (3333). なぜ、おっさんは屁をこくのか. おなら学雑誌, 33(3), 33-33.』

——屁。


 それは、主成分に二硫化炭素(CS2)、インドール(C8H7N)、スカトール(C9H9N)、メタン(CH4)などの、炭素(C)化合物のガスを含有する、非常にくさーいもの。誰だって毎日これをするが、中でもおっさんの放つそれは特に臭い、気がする。あくまで、気がするだけの、はずだった……



=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3=3



 どうも、科学好きの諸君。


 私は稀代きだいの天才おなら博士『ドクター・プー』だ。私は、自身の研究論文『なぜ、おっさんは屁をこくのか』の中で、『屁中へちゅうの炭素は全て炭素10ヘビウムである』という革新的な主張をした。


「だから何なんだ?」 


 と、大勢から突っ込まれてしまいそうなところだが、実はこの事実が、に繋がっているのだから、決して馬鹿にはできない。その神秘というものが何なのかは…………私の話を最後まで聞いてもらってからのお楽しみだ。


 ちなみにこの『炭素10』、国際純正・応用化学連合アイユーパックからは、『ビウム』などというなんとも堅苦しい名前をつけられてしまったが、裏で私は、こう呼んでいる。



 ————おっさん化炭素。



 『ヘビウム』か『おっさん化炭素』、どちらの名で呼ぶかは、各人が自由に決めてくれたまえ。


 で、肝心の論文の内容は、こうだ。


 原子には様々な種類『元素』に分けられるが、各元素にも種類がある。例えば原子番号一番の元素である水素には、水素、二重水素デューテリウム三重水素トリチウムという三種類がある。それと同じようにして、炭素にも、十五の種類が存在する。それらが本来、自然界に存在している比率というのは、約九八・九パーセントが『炭素12』で約一パーセントが『炭素11』のはずなのだが、屁中ではどういうわけか、そのいずれでもなく自然界にもごくわずかしか存在しないはずの『炭素10』が、一〇〇パーセントを占めていると判明した。


 『炭素10』についての発見はこれだけにとどまらない。この『炭素10』、従来の科学においては、非常に不安定な物質であり、生成からわずか一九・三秒ほどの間にその半分量を全く別の元素、『ホウ素10』に姿を変えてしまうとされていた。しかし実際には、その半分量が『ホウ素10 』に変わるのにかかる期間は、『一九・三秒』ではなく、『八〇年』だと判明した。この数字は、男性の平均寿命にも肉薄し、かなり長い期間だと言える。


 ちなみに、敢えて『男性』の平均寿命をあげたのには、大きな理由がある。


 呼吸や食事により体内に取り込まれた『炭素10』は、生物学的の場合、各種の代謝と排泄によりどんどん排出される。しかし一方で、どういうわけか生物学的においては、『炭素10』は全くと言っていいほど排出されずに、前立腺(膀胱の下、恥骨と直腸の間に位置する男性特有の器官)に蓄積していく。おまけに前立腺は、体内の『炭素10』ではない他の炭素を、『炭素10』へと作り変えてしまうと判明し、『炭素10』は溜まっていくばかり。繰り返しになるが、ここで最も強調したいのは、10、ということだ。そして、勘の良い人は、お察しかもしれないが……

 

 この『炭素10』、臭いのだ。


 とても、臭い。


 『炭素10』は、生物学的女性の場合、多くの方法で、かつこまめに排出されるので、臭いが気になるほどの量が一度に排出されることはない。


 しかし生物学的男性の場合、前立腺以外の『炭素10』の排出方法がないことに加え、『炭素10』が『ホウ素10』に変わる期間がものすごく長いということも相まって、超濃厚な臭い物質が、前立腺に溜められていくわけだ。


 生物学的男性がおならを出す時というのは、その少し前に前立腺が、多量の、だが排出し切るほどの量には決して満たない『炭素10』を、直腸に向かって送り込む工程が存在する。


 この時、前立腺はポンプのように働くので、直腸には空気も溜まる。


 そして肛門括約筋こうもんかつやくきんが我慢の限界に達した時点で、屁が放たれるというわけだ。


 当然、年を重ねれば重ねるほど『炭素10』は前立腺に溜まっていくだろうから、おっさんになればなるほど、屁の回数は増えるし、臭くなる。


 だからこそ、私は『炭素10』を『ヘビウム』ではなく『おっさん化炭素』と呼ぶことを好むのだ。


 なお、前立腺の働きについては謎が非常に多いのだが、その謎の一つを、私は解明したことになるな。


 そうだ、諸君の中に、ここまでの話を聞いて、私の研究がどういうふうになされたのか、気になったという人がいるかもしれない。だが研究の手法と経過を逐一伝えると、それはそれは極めて汚い話になってしまうので、割愛させてもらう。残念だが、トラブル回避のためでもある、許してくれ。


 ……。


 ……。


 ……。


 えっ?


 「というのは、その程度のものなのか」、だって?

 

 まだだ! まだ終わらんよ!

 (引用元)機動戦士Zガンダム: 第50話『宇宙を駆ける』. 名古屋テレビ, 1986-2-22. 創通エージェンシー. 日本サンライズ.


 最後に、SFドラマ『宇宙の果てまでイッテぷぅ』をご覧いただきたい。


 これは、人類の宇宙進出の物語だ。


 私の研究論文『なぜ、おっさんは屁をこくのか』は、これをもって完成するのだ。


 そして、を、刮目かつもくせよ!


 では……


 宇宙の果てまでイッテぷぅ!!



〈二発目『宇宙の果てまでイッテぷぅ【第一部】ネオ・カーボン・ニュートラル』続ぷぅ〉

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