幻想登山口

オッケーいなお

第1話 白の始まり

自然が好き。

山登りが好き。


そういう人は少なくはない。

この男もそういう1人である。


35歳独身、会社員、趣味は山登り。

たま さぶろう

身近な人からは「たまサブ」と呼ばれてる。

170cmの身長で細身。

見た目の特徴はあまりなく、仕事以外はいつも山登りをする山好きである。


8月も終わろうとする日曜日の早朝。

近場でよく登る山の登山口にいる。


この山は標高は約1000m。

登山口から登る標高は900m、山頂までの距離は約10km。 

険しい道はなく、登山道もしっかりしてる。

日帰り登山がメインの山。

ただ中間地点に山小屋がある。


通称【ヒラメ山】

山頂近くの岩場の形が、下から見るとヒラメに見えるから。

などという簡単な理由で昔からそう呼ばれているらしい。

海と山のコラボ!?的な変わった名前。


そんなヒラメ山の登山口で車から外を眺めているたまサブ。

何かを考えながら。


「登ろうか?帰ろうか?」


それもそのはず。

外は霧で真っ白なのである。


「今日はやめようかな?どうしようかな?」

そうつぶやきながらも、一応準備をして登山口まで行ってみる。


普段なら帰るくらいの白さ。

いくら慣れてる山でも白すぎる。


っと、その時


霧の中で一瞬何かが光る。


「えっ!?」


たまサブの声が響く。


その次の瞬間、自然に入山届を書いてるたまサブがいた。


朝の5時。

自分でもよくわからないまま歩き出す。


「俺、なんでこんな白い中歩いてるんだ?」


そう自分に問いかけながら歩いていく。

慣れた道なので迷うことはない。

3合目を過ぎた頃には霧は更にひどくなり、流石にヤバそうな感じに。


やっと4合目まで来た。

「引き返そうか?いや、5合目の山小屋まで行こう。」


天気予報は昼前から晴れ。

今は6時過ぎくらい。

晴れる予報まで少し時間があるが、この白い中引き返すのも大変だ。

たまサブは山小屋まで行って待機する事に。


5合目標識。


「もうすぐか〜」


5合目標識のすぐ奥に山小屋がある。

山小屋に無事到着。 


登山口にはたまサブの車1台。

山小屋は誰もいないはず。


ガチャ


「おはようございます。」


!?


中から声が!?


たまサブは驚いた。

山小屋には既に3名の登山者が。


たまサブ「…おはようございます。」


驚いた顔のたまサブに、


女「私たちこの霧だからこれ以上進めなくてここで待機してるの。」


たまサブ「あ、僕も同じで。」


中に入ると自分と似たような年齢の女性2人と、男性が1人。


女「さっ、あなたもこっちに来て一緒に休みましょう。」


たまサブ「ありがとうございます。それでは。」


この小屋はそんなに広くはなく、テーブルを囲むイスは4人分、端の方に3人掛けの長椅子が置いてあるだけである。

呼ばれたのはテーブルを囲む椅子。


たまサブ「お邪魔しまーす。」


グループの中に一緒に座るので、と思っての挨拶だったが意外な言葉が。


女「そんな緊張しないで!私たちみんなソロで、たまたまこの小屋で会ったの。」


たまサブ「えっ!?」


たまサブが驚くのも不思議ではない。

このヒラメ山は最近では登山客も減り、晴れた日曜日でも昼間に数名登るくらい。

スライド0人の日もよくある。

それがこんな真っ白の日に、しかも早朝に、しかもソロで3人も。


女「こんな早朝に、こんな霧の日に、しかも3人も?って思ってるでしょ?」


!?


頭の中を覗き見されてる気分である。


男「いやー、俺達もさっきまでその事話してたからさ。こんな日に3人もって。」


たまサブ「やっぱりそう思いますよね。」 


女2「この山って天気良くてもこんな朝からは誰も登ってないじゃない。」


女「天気予報じゃ昼くらいには晴れるらしいからさ、それまで時間あるし、みんなでのんびりしてよう!」


?は色々あるが、なんか気さくな人達でちょっと安心。


女「私リコ。」


男「俺ナッツ。あだ名だけどね。」


女2「私はみっち。ニックネーム的な?」


リコ「あなたは?なんて呼べばいい?あだ名やニックネームみたいなので全然構わないからさー。」


たまサブ「たまサブです。」


ナッツ「おー!インパクトたっぷり!」


たまサブ「昔からすぐ覚えてもらえます。」

 

ナッツ「じゃあ晴れるまでみんなでゆっくりしますかー!」


なんか気さくな人達。

歳も近いし。

こんな霧の日に来たことを後悔してたが、そんなのもいつの間にか楽しい気持ちに。

 

そう、外はこんなに真っ白なのに…


      第2話へ続く

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