かくれがとマドレーヌ
おるか。
エッセイ
特に理由はない。私がこれを書こうと思った理由。
日本史の授業中に、先頭であるにも関わらず後ろに控えるクラスメイトたちの目を気にしながら、理由もなく書いている。そしておまけに、何を書くかも決めていない。
嗚呼、書きたいと思った理由は分かった。星野源さんのエッセイ「いのちの車窓から」を読んで、「エッセイ」というものにちょっとどころでなく興味を持ったからだ。
このところ本当に心がやられている。「なんで」と聞かれると要因が多すぎて「わからない」と答えてしまえるくらい、いろんなことで心をやられている。
この日は部室でギターを弾こうと思い顧問に鍵を借りに行った。こてんぱんにされた。去り際の顧問の空っぽの笑顔と「ごめんね」は、しばらく脳裏から消えてなどくれないだろう。
その後すぐ立ち寄った図書室の一角のテーブルに突っ伏し、静かに泣いた。持っていたパソコンとイヤホンで、Mrs.GREEN APPLEの「Forktale」を流しながら。
気づいたら突っ伏したところはびしょびしょで、私のことなど気にしていない先輩が赤本の背を見て立っていた。
途端にここに居てはいけない気がして、いつも着替えに立ち寄っているレストルームに引きこもった。そこでもまた泣いた。(ずっと何を書いているんだと思われても仕方がないが、一応経緯説明のつもりだ。)
ややあって涙を引っ込めたあと、またかの図書室に戻った。さっきまで私の涙で水たまりができていたあの席の隣には、誰かもわからない男子生徒が座っていた。もちろん立ち去る前に水たまりは排除している。
なんとなくで現代日本の文章の棚の前にしゃがみこんだ。その眼の前に丁度「いのちの車窓から」が少し斜めって収まっていた。
昔、まだ入学して間もない頃に一度だけ借りたことがあった。そのときは失礼な話だがあまり星野源さんという人に興味を深くは持っておらず、パラッと見ただけで結局返してしまった。改めて文字にするとひどいものである。
しゃがみこんでいた私はその本を手に取り、あのときのようにパラッと流れるようにページを捲る。(ちなみに現在の私はあるドラマがきっかけで星野さんのにわかファンになっている。)するとはじめの方で流れが止まった。見覚えのある栞が挟まっていた。凪良ゆう著「汝、星のごとく」の広告の栞。まさしく、私の私物だったものだ。
確かに挟んでいた。パラッと見ただけと思いこんでいたが確かに。はじめの方だけ読んで、挟んでいた。丁度貰ってきたばかりですぐ傍にあったそれを。
困った。このまま栞だけ抜き取って戻したら盗人のように思われるかもしれない。それだけは避けたかった。
そんな最低な理由と、あの頃より好きになった星野源という人のエッセイがどんなものだったんだろうという興味が湧き、栞が挟まれたままの本を、貸出カウンターに持っていった。
五限は古典、自習だった。監督としてきた先生は特に目を光らせていなかったので、借りたばかりの本から栞を引き抜いて、またはじめから読み始めた。
そこから五十分、気がつけば半分近くを読み終え、私に新しい欲が生まれた。
そんなこんな、勢いで書き始めた六限もあと二分で終わる。日本史の先生には何も授業を聞いた素振りを見せなかったので申し訳ないが。
文字で吐き出して楽になれるとは微塵も思っていなかったが、案外楽になれるものである。もっとも、吐き出して楽になっているというよりは文字を書くたのしさに現実を忘れることで楽になっている、という感じがするが。
また少しエッセイを読み進めたところで胸筋のせいでシャツの前がパツッとしている担任がやってきた。風貌はもはやヤクザのそれだと思った。
正直続くとは思っていないが、また辛くなったらこの隠れ家がある、そんな心持ちでいようと思う。先生お願いだから今トランプ引かせないでよ3引いちゃったじゃん。(私のクラスは帰りのHR前に各掃除班代表者がトランプを引き数の小さかった二班がその日の掃除を担うことになっている。)
因みに題名の「マドレーヌ」は、最近の私のブームお菓子だから適当にくっつけただけだ。語呂良かったから良し。
1を引いた班がいたので掃除回避、この後は散髪に行く。
「さようなら」
かくれがとマドレーヌ おるか。 @orca-love
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