Red Silent

電さん

サイレント日常編

第1話 みんなもチュロス好きだよね?

「寝過ぎた………」


 ベットの上で目を覚ました時にはもう十七時だった。少し寝るつもりが四時間も眠ってしまっていた。パジャマを脱ぎ捨て急いでベットから降りて顔を洗う。約束の時間まであと一時間半だ。


「どうしよ……」


 私はクローゼットの前であたふたし出した。どんな服にするか迷う。頭の中で考えつく組み合わせを片っ端から試してようやく決まった。そして鏡の前で整えた。


 全身が黒基調で胸元には金の刺繍が入っている。肩出しで首にはチョーカーをして十字架がぶら下がっている。少し短めスカートでニーハイソックスにレッグリングを付けたら完成だ。腰まであるストレートの白髪が服装の色と対比で可愛いと思う。気づけば約束の時間まで三十分になっていた。


「大変だ……急がなきゃ」


 アパートの扉を凄い勢いで開けて私はバス停まで走り出した。



 約束の場所のファミレス。私は約束相手に目を合わせられないでいた。時刻は十九時、三十分の遅刻だ。


「サキ、良い度胸してますね? どうして遅れたのですか?」


「服……選んでたら思いの外時間が経ってて」


 私は少し冷や汗を背中に流しながら上司的な存在のミカさんの目を見た。冷たく呆れる様な目をしていて更に縮こまる。


私は少しでも気分を和らげるためにボタンを押してディップチュロスを注文した。


「………………」


それを無言で見ていたミカさんに店員が去った後で頭を結構な強さで叩かれた。


「痛い……何で? 注文しただけなのに。あっ、もしかしてミカさんも欲しい?」


「はぁ……今回は頼む相手を間違えました」


一つため息をついて席から立とうとするミカさんを「ちょっと待って」と必死に宥めて落ち着かせる。今月は服を買いすぎてピンチだから仕事が無いとやっていけない。


「今回はどういう依頼なの? 報酬は?」


 持ってこられたチュロスをズモモッと口の中に入れながら聞く。なかなか美味しい。強いて言うならチョコとホイップだけで無くメープルも欲しい。今度アンケートに書いておこう。


「今回はただの犯罪者ですね……能力持ちで殺人二件、窃盗三件、暴行八件。言わずとも分かる屑です。殺してください。あなたの能力は暗殺向きですからね」


 能力……世界には能力者がいる。五千人に一人程が能力者だ。

特徴は二つ。固有の能力を持っている事。そしてを張れる事だ。この気と言うものは一種のバリアみたいなもので拳銃弾を数発防げる。また強化も出来るために個人差もある。


固有能力は時を止めたり瞬間移動みたいなド派手な能力では無く。空気を冷やしたり着火したりと小さなものである。何なら体力の微増や静電気の意図的な発動など気付かないレベルのものもある。そんな漫画みたいな世界でも無い。


「報酬は? 報酬は?」


「十五万……程ですかね。大した野郎でも無いですし」


きっと私の顔には不満が浮かんでいたのだろう。誰だってたかが十五万で人を殺せだなんて絶対に嫌だ。そこで私はもう少し給料を上げる様に頼んだ。


「せめて二十万くらいは頂戴……生活ピンチだから」


二十万なら人を殺せるか? 解答……そんなの単純、殺せる!


「高校生に渡すには高すぎる金額ですよ?」


「高校生にはキツすぎる仕事です。どうですか?」


 私は可愛らしく上目遣いでミカさんを見つめる。殺しを高校生にやらせるなんてとんでも無い世界線だ。でも何と言われようと私はこの仕事を辞める気はない。

 ミカさんはため息を吐いて言った。


「口元にチョコ付いてますよ?」


私はおしぼりでパッと口を拭いて再び同じ体勢になった。ミカさんはフッと口元を緩めた。この人のナチュラルな笑みは初めて見た。いつも不思議な表情をしているから。


「じゃあ、二十万ですね。失敗しないでくださいよ? レッドアイ……いや、サイレント」


「分かってる。失敗しない」


私はミカさんに微笑んでチュロスを差し出した。

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2024年9月21日 18:00 隔週 火・土 17:00

Red Silent 電さん @tatibana1945

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