11年目 第一次モンスターハザード

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ヴァール(???)




 ソフィアや国連の危惧の通りに勃発した、能力者を軍事投入しての世界規模の大戦。

 後の世においては能力者大戦とも呼ばれるこの戦乱期にあたり、WSOの前身組織であった能力者同盟は初手から世界各国の能力者の保護と亡命を手助けしていた。

 

 社会的な孤立や差別、はたまた経済的な事情などから仕方なく軍事に関与している──

 そのような能力者に対して国連が支援する形で衣食住を保証した地域をスイスに設け、そこにソフィアやヴァールが主導して逃亡を促したのである。

 

 なんとしても能力者を国のために使いたい各国は国連をあらゆる方法で非難するものの、マスコミを使っての人道的見地を説くことで世界的な反戦の機運を高めることに成功したソフィアとグラールの前には次第にその鼻息も弱らざるを得なかった。

 加えてこの時期、どうしたことか世界各地でモンスターがダンジョンから地上に出て、人々を襲う災害が多発していたことも大きく影響した。


 モンスターに対処できる能力者が軒並みそちらに対応したため、彼らの地位や評価が見直されていたのも戦争終結へのきっかけとなっていたのだ。

 今度こそ国連がソフィアを中心に強く主張し、能力者を既存の社会とうまく共存させるための社会の構築を世界的に行うよう、呼びかけるに至ったのである。

 

 だが、それとは裏腹にこの時、先述のモンスターの地上進出に関して大きな問題が発生していた。

 各地で頻発していたそれら現象が、人為的なものであることが発覚したのだ。

 

 第一次モンスターハザード。

 大戦最終盤において引き起こされ、解決にあたったソフィア・チェーホワの名声を極限まで高めた事件。

 そして同時に能力者を、ダンジョンに潜りモンスターと戦うことが主たる目的の存在である"探査者"へと至らしめる決定的な戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

「《鎖法》! 鉄鎖乱舞────鉄鎖収束!!」

 

 放たれた無数の鎖がモンスター複数体を貫き、そのままとある地点めがけて収束するように着弾した。

 ヴァールのスキル《鎖法》による攻撃だ。広範囲を巻き込みつつ一点突破を試みるこの戦法は、彼女の十八番と言っていい。

 現にモンスターはそのほとんどが息絶え光の粒子となり、さらにはその先にいた、此度の犯人らしき女に向けて襲いかかっていた。

 

 そう、犯人。

 今いるこの地、中国は上海近郊の荒野にてモンスターを扇動しているのはこの女だった。

 操っているわけではない……ダンジョン内にて怪物達をけしかけて、都市部に誘導しているらしかった。

 

 戦火も次第に収まってきた矢先に、世界中で頻発しているモンスターによる市町村襲撃。その異様な多さから人為的なものを疑っていたヴァールだったが、この時ついに"敵"の尻尾を掴んだ形になる。

 《鎖法》による爆撃を寸前で回避した女──中年で小太りのアジア系女性が、汗を垂らしてヴァールに叫んだ。

 

「ソフィア・チェーホワッ!! ついにここまで来たのね、国連の犬が!!」

「ついに、はこちらのセリフだ……とうとう見つけたぞ。貴様が各地でモンスターをダンジョンから引きずり出し、あまつさえ人々にけしかけている者どもの一人だな」

「まったくの来歴不明……! けれど能力者発生からこの10年で瞬く間に勢力を拡大し、今では国連が新設した能力者関連機関の統括理事に就任!! 恐ろしい手際の、女狐ェェェッ!!」

 

 冷静と激情と。互いに向ける態度は正反対でも敵対心と警戒心だけは一致している。

 ヴァールは眼の前の、モンスターハザードとでも言うべき災害を引き起こした一味の仲間らしき女に対し。そして女は不倶戴天の、能力者達を団結させて自分達の邪魔をする謎の女へと。

 互いに許すまじと戦意を向けて、今、2人は対峙していた。

 

「何者だ。何を企み、そしてどうやってモンスターをここまで恣意的な形でけしかけている。答えろ!」

「だぁーれが教えるもんですかッ、小生意気な小娘だか若作りだかがッ! アンタはここでモンスターに囲まれて死ぬんだよ、チェーホワッ!!」

「答えなければ無理矢理にでも聞き出そう……! 我々国際能力者連携機構は、こと今回に限っては何一つ手段を選ぶことはない!!」


 完全に殺意を剥き出しにする女に、ヴァールは《鎖法》によって顕現させた鎖を巻き付かせた右手を向けた。

 本来、スキルは対人用のものではない……あくまでもそれはモンスターとの戦いのために使われるべき能力だ。だがそれをあえて今、人に向けて放つ。

 

 二年に亘る世界大戦に終わりの兆しが見えてきた中、こうして起きたモンスターハザード。

 その対応の中で全世界的に、能力者達の存在意義をモンスターと紐づけすることに成功したのを考えると怪我の功名というべきものではあった。


 だがそれはそれとして、モンスターを悪意をもって他者にけしかけるなどというのは断じて認められない。

 戦争の中、新たに創設された国連機関・国際能力者連携機構の統括理事として。また"盟約"を果たすべく大ダンジョン時代を導く役割を担うモノとして。

 今ここでこの女を倒し、その背後にいるナニモノかの組織を暴き立て粉砕する!

 

「罪の鎖を受けるが良い────! 《鎖法》、ギルティチェイン!!」

 

 使命感と責任感を乗せて。

 ヴァールは、己のスキルを駆使した最強技を放ち戦闘を再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る