第51話
「くっ!」
反射的に俺は後方へ飛び退いたが、振り下ろされた腕が地面に激しく叩きつけられ、その一撃で周囲の地面が崩れた。衝撃で土埃が舞い上がり、一瞬視界が遮られる。
地響きを伴うその一撃一撃は、山をも砕くような威力があり、もし直撃すればひとたまりもないだろう。
掠るだけでも、今の俺にとっては致命傷だ。いたぶるように連続で拳を振り抜いてくるボスに、俺はなんとか回避し続けるが、体力は急速に削られていく。
回避した後で、どうする?
あの鱗をどうにかしないと、まともに攻撃も通らない。
俺は距離を取りながら考えを巡らせた。拳や蹴りでは、ボスの防御を突破することができない。
限界が近づいていることは、自分の体が一番わかっていた。
ボスは俺の焦りを感じ取っているのか、余裕のある動きで再び迫ってくる。
周囲を囲む虚獣たちも、不気味な笑みを浮かべながら俺たちの戦いを見守っているのが憎たらしい。
「どうした? もう終わりか?」
ボスの冷たい声が耳を打つ。だが、ここで終わらせるわけにはいかない。俺は苦しみを押し殺し、再び拳を握りしめた。
……終わるつもりはない。
次の瞬間、ボスが再び大きな腕を振り下ろす。それを何とか横に飛んで避け、俺は一か八かの賭けに出た。蹴りで足元を狙い、体勢を崩すことができれば隙ができるはずだ。
「……ッ!」
低い位置から力を込めた蹴りを放ち、ボスの足を狙う。狙いどおり
ボスの足に直撃し、その巨体が一瞬揺らぐ。
今だッ!
俺は全力で拳を叩き込む。狙いは鱗の間のわずかな隙間。そこならば……!
拳がボスの体に食い込み、手応えを感じた。だが——
「ふん、これで終わりか?」
ボスは俺の攻撃を受けたにもかかわらず、まるで痛みを感じていないかのようにぎらりとこちらに冷笑を浮かべていた。
次の瞬間、ボスの腕が再び振り上げられ、俺の体に迫る。
「っ……!」
避けきれない。瞬間的に腕を交差させ、ガードするが——耐えきれない。
強烈な衝撃が全身を襲い、俺は地面に叩きつけられた。
視界が揺れ、頭の中が真っ赤に染まる。
それでも、俺はなんとか立ち上がる。
ボスは冷ややかな目で俺を見下ろし、巨大な腕をゆっくりと振りかざす。
トドメをさすつもりだろう。
その動きが遅く見えるのは、俺の感覚が麻痺しているからか、それとも限界に達しているからか。頭の中がぼんやりと霞む中でも、紙一重でその攻撃をかわし、拳を繰り出す。
「ハァッ……!」
俺の拳はボスの胴体に直撃したが、硬い鱗がそれを受け止め、まるで何もなかったかのように弾き返された。
手がじんじんと痛む。拳がまともに機能していないのは自分でもわかっていたが、立ち止まれば終わる。
「どうした、これが貴様の限界か?」
ボスの声が響き渡る。だが、その声すらもう遠く感じる。全身が痛みに包まれ、視界がぼやけていく。もう何度も膝が折れかけている。それでも、俺はまだ拳を握りしめる。
死ぬ覚悟はとっくに決めた。
……一か八かだ。
ボスが拳を振り上げるより先に、俺は地面を蹴り付ける。
それまでミサンガに溜めていた全ての魔力を体へと戻し、同時にグローブに魔力を込める。
「……いくぞッ!」
全身の痛みを無視し、身体中から力を振り絞る。俺の気迫にボスは何かを察したのか警戒するように拳を構える。
だが、俺は地面を攻撃するように、ブーツに魔力を込めて蹴り出す。
放たれた弾丸のように真っ直ぐに飛び出した俺は、ボスが拳を振り抜くより先に動いた。
特攻のような加速に、俺の体にも強い負荷がかかる。
それでも、ボスの懐へと入った俺は、左の拳を叩きつける。
その一撃で、鱗が吹き飛ぶ。
「……がっ!? な、なにっ……!?」
ボスが驚愕の声を上げる。俺は息を荒げながらも、もう片方――本命の魔力を込めた右の拳を握りしめる。
「――そこだッ!」
右の拳を思い切り振り抜く。
だが、ボスの拳が同時に俺の腹に食い込む。最速で放たれたそれを回避する余裕など俺にはない。
お互いの攻撃が同時に炸裂する――まさにクロスカウンター。
衝撃が周囲へと抜け、俺とボスは互いに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
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