第36話
「……あぁ……っ!」
俺が回避したことを、霧崎は恍惚な表情で叫んでいた。
……そこまで俺がやってくれたことを、心の底から喜んでいる様子だ。
だが、こっちはただ回避するだけじゃない。
霧崎が魔法と剣による攻撃を繰り返していく。……熱が入ってきたのか、最初よりも加速した連撃ではあるが、俺は紙一重でかわしていく。
……片手剣のコンボの最後。
跳躍を合わせた飛びかかるような一撃が、霧崎から放たれる。
その瞬間に、俺は回避ではなく……踏み込んだ。
霧崎の振りぬいた剣を、魔力を込めたグローブの左手で薙ぎ払うようにして捌く。
パリィだ。相手の攻撃にうまくタイミングを合わせることで発動する回避技の一つ。それによって、霧崎の体勢が崩れる。
「やる……っ!」
体勢を崩され、絶体絶命のピンチだというのに……霧崎の目は輝きを増していく。
……そんな彼女に俺は、右拳に込めた一撃を放つ。
「くらえ!」
振りぬいた拳に、霧崎は身を捻ってかわす。
それから、崩れた体勢を戻すように水魔法を放ち、その衝撃を利用して上体を戻す。
……さすがに、動きに無駄がない。一気に体勢を直した彼女は、満面の笑みとともに突っ込んでくる。
霧崎が剣を振り上げ、再び斬りかかってくる。
コンボの初動の動き。最小で、無駄のない剣。
……だが、俺はその瞬間を待っていた。
横にステップを踏んで回避し、そのまま彼女の懐に飛び込む。
「……ハァッ!」
魔力をグローブに込め、一撃を放つ。
完璧に捉えたと思ったが、寸前で霧崎の片手剣が割り込まれる。
……マジかっ。
すかさず水魔法を展開し、俺の動きを封じ込めようとする。
だが、その水魔法に俺は氷魔法を当て、凍らせる。さらに雷魔法を放つと、霧崎は大きく跳躍して俺から距離を取った。
「……凄い……っ。凄い……っ!」
嬉しそうに無邪気な声をあげた霧崎に、俺は軽く息を吐いた。
「……霧崎、さすがにこれ以上やるとお互い怪我するんじゃないか?」
「大丈夫、私の事、たくさん怪我させていいから。私は、絶対怪我させないから……っ! 気にしないで……!」
「俺にそんな特殊性癖ねぇから……。今日のところは、このくらいでいいんじゃないか? また明日の楽しみにとっておいてくれないか?」
ていうか、俺はさっきの連続攻撃で……息を整えるのがやっとだ。
霧崎はまるで疲れていないが、俺はさっきの動きをほぼ呼吸なしで行っていた。
……それで、ようやく霧崎に何とかくらいつくことができたわけで……正直、これ以上続けたら負ける可能性があった。
負けるのは……ゲーマーとして嫌だ。なので、今日は引き分けとして終わらせたいのだ。
「…………確かに。今日だけで、滝川の全部を堪能するのは……もったいない……また、明日」
霧崎は今日一番のなまめかしい舌なめずりを行い、片手剣を鞘へと戻してくれた。
……とりあえず、彼女の欲望も発散したし、一件落着だな。
ダンジョンでの戦いを終え、俺たちは宿へと戻ってきた。
戻ってきてすぐ、芳子さんが笑顔とともに声をかけてきた。
「お帰りなさいませ。お疲れでしょう? ちょうど夕食ができましたので、準備が整いましたら食堂へどうぞ」
「ありがとうございます。このまま食事に行きますね」
「分かりました」
体を動かして少し汚れなどはあるかもしれないが、せっかく食事が用意されているのなら出来立てを頂きたい。
芳子さんの温かい声に感謝しつつ、俺たちはすぐに食堂へと向かった。
ちょうどセラフとルミナスも食堂へと向かってきていたようで、廊下で合流した。
「滝川……良かった、元気そうね」
ほっとした様子でルミナスが声をあげる。……まあ初めての戦闘だったわけで、心配していたようだな。
ダンジョン内でも、何度かメッセージも来ていたしな。
「まあな。二人も問題なかったか?」
「ええ、特にはね」
「滝川さんはどうでした? ダンジョンでの戦闘は問題ありませんでしたか?」
「こっちも大丈夫だったな」
「うん……滝川、凄い強かった」
まだ興奮しているようで、霧崎が鼻息荒く答える。
「……しばらく滝川は一人になっちゃうけど、なんとかなりそう?」
セラフとルミナスがまだ上級天使、上級悪魔の力を身に着けていないため、メンバーを増やすのは絶望的だ。
だからこそのルミナスの心配なんだろう。
「なんとかやれてるから大丈夫だ。万が一の場合は、霧崎も手伝ってくれるみたいだしな」
「うん、戦闘訓練は任せて」
そこじゃない。
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