ベッド会議
けろよん
第1話
そこそこ名前の知られた企業の会議室。そこで俺は集まったみんなの前で第一声を放った。
「ベッドの会議を始める」
「……うん?」
「なんで?」
「最近大手メーカーでベッドにこだわった会議をやったと話題になってからな。俺達も乗っかることにした」
「なるほど納得」
「勝ち馬に乗ろうというわけか。お前らしいな」
「まずこの会社にふさわしいベッドを考えよう。みんなの意見を聞かせてくれ」
「ふむ、そうじゃのう……」
俺がそう言うと、全員が腕組みして考え込んだ。
ベッドは大事だからな。この会社から売りに出すのだしみんな真剣だ。
社長は面白ければ何でもやってみろという方針だが、だからこそ半端な物を出すのは許されない。
「私は天蓋付きの豪華なやつがいいと思う!」
真っ先に意見を上げたのはミリアだった。
彼女はお金持ちのお嬢様なので、そういう貴族的なのが好きなんだろう。
「いやいや、それはやりすぎだろ! もっとシンプルで庶民的なやつでいいんだよ!」
「そうかな? 地味だと目立たないと思うけど」
「そりゃそうだが……とにかくもっと普通のでいいんだ普通で」
「う~ん、わかったよ」
ミリアは少し残念そうな顔をしたが、なんとか納得してくれたようだ。彼女の金銭感覚に合わせていたらお金が持たない。
しかし他の面々からは不満の声が上がった。
「えぇー!? せっかくの新企画のベッドなんだから、もっと贅沢しようよー!!」
「賛成です。会社のお金で行うのですしこれはベッドに投資する良い機会ですよ」
「私も賛成だ。我が社から出すなら最高のものにしたいしな」
「ぐぬぅ……みんな強欲だな……」
俺はもっと現実的な案を出して欲しかったのだが、ミリアを始め多くの出席者が賛成票を入れたことで、多数決では負けてしまった。
しかし俺は諦めないぞ。ここからいい落としどころを探っていこう。
「よしわかった。じゃあ折衷案として、シンプルなデザインの中にちょっとだけ高級感を入れるというのはどうだろうか?」
「まぁ妥協点としてはそんなところかのう」
「そうだね。けち臭いとは思うけど庶民のお金を意識するなら私もそれでいいと思うよ」
「私もさんせーい!」
「賛成です」
よしよし、全員の同意が取れたな。
これでこの話は終わりだ――と思ったその時、一人反対意見を言う者がいた。
「待て、それはダメだ」
「えっ? どうしてだいシャル?」
「シンプルすぎるのはよくない。ここは一つ、思い切ったことをやって欲しい」
「どういうことですかシャル姉様?」
「たとえば天蓋付きにしてみるとか……」
「それさっき却下されたよね!?」
ミリアと同じ事を言い出したシャルに対し、思わずツッコミを入れてしまう。
すると彼女は恥ずかしくなったのか、頬を赤く染めながらそっぽを向いてしまった。
「そ、そういうわけではないのだ。ただその方が面白みがあると思ってな……」
「面白さ優先なのかよ……。まあいいか、じゃあシンプルだけど高級感のあるデザインということでいいかい?」
「うむ、もうそれで構わないか」
こうして会議の結果が出たので、それを社長に伝えに行くことにした。
「というわけで、これがうちからのベッドの提案書になります」
「なるほど、なかなか面白いじゃないか」
社長は美少女で俺より年下に見えるが、俺は彼女の前に出ると緊張してしまう。何でも会社を興す前から海外で様々な活動を行ってきたやり手らしい。
ひとまず好評を得られたようで俺はほっと安堵した。
「気に入って頂けましたでしょうか?」
「ああ、素晴らしい出来だと思うぞ。これなら株主達も納得するだろう」
「ありがとうございます!」
やったぜ! これで俺の仕事は一段落だ。
あとはベッドのデザインが決まるまで待つだけだな。
そう思っていた時、社長が目線を上げてきた。その綺麗だが鋭さを感じる目に俺は息を飲み込んでしまう。
「ところでアルヴィン君。君はこの意見に納得しているのだろうか?」
「あっ、すみません。僕はもっと地味な感じがいいなと思いまして……」
「そうか。確かに君は地味目の方が好みだったな」
「はい、でも、みんなは高級で派手な方がいいというので……」
「確かに我が社にはそういう輩が多いからね」
社長は優しく微笑んでくれた。どうやら怒られることはないようだ。
ホッと胸を撫で下ろしていると、今度は社長が提案をしてきた。
「しかしせっかくだから、試してみるというのはどうかな?」
「えっ、試すって何をですか?」
「もちろんベッドを使って寝ることだよ。もし良ければ君の家で使ってみてくれないかね?」
「布団でしか寝た事がない僕がですか!?」
「そうだよ。せっかくだから我が社のベッドの良さを体験して欲しいんだ」
「そ、それは嬉しいんですけど、いきなり言われても困るというか……」
「大丈夫だよ。ベッドはこちらで用意しておくから」
「えっと……じゃあお願いします」
社長の圧に押されてしまい、つい了承してしまった。
しかしこれはチャンスかもしれない。これを機にベッドの良さを知れば仕事の役に立つ! そうして俺は家に帰ると、早速社長から送られてきたベッドを組み立てることにした。
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