第36話 竜神の羽ばたき ⑤
ゴウン・・・ッ!
地中から地響きと轟音が上がり、女神を囲む清水の泉に亀裂がはしった。
女神を囲む清水が亀裂に流れ込んで消えていく、代わりに地中から黒雲のもやが溢れ出し、女神の姿を包み込んでいった。
黒雲の中で稲妻が光った。
シュゴン!
ピシュウッ!
黒雲が輝くと同時に高音が響く。
ブグーン!!
若干遅れた和音が重なるように低音が轟く。
近距離に落ちた雷のようで恐怖に立ちすくんだ。
黒雲が薄まるにつれて、女神のいた場所に、顔を歪めて正気を失った表情の制服の女の子の姿が現れた。
口から蟹のように泡を吹き、常に快感を受け続けているように、目が上下に揺れていた。
苦痛と快感が交互に襲いかかる状態に身を委ねているように見えた。
彼女は四肢をビクビクと痙攣させ、泡を吹きながら口元を歪めて果てていた。
「を、おぉを、をぉ〜ッ!」
苦痛に歪められた表情から、一気開放されるように口元に泡が溢れ、夢の中で少女は再び果てていた。
中毒患者が苦痛から逃れるために快楽を貪るように、果てしない繰り返しの中で、少女の目が開いた。
血走っていた。
グルンと瞳が上部に捲れ上がり、再び彼女は果てていた。
「ゴアアアアァ〜!ッ〜 、私を殺しに来たのか〜!!」
口に溜まった泡が、叫びと共に辺りに飛び散った。
「フッ、フゥ、ヴゥ〜ッ!」
「ヴワ、私はこの場所を、絶対に手放さない〜 !」
「 誰であっても、私が一番なんだッ!」
波動で彼女の周りの小石が周辺に吹き飛び散り、筋肉のない僕のむき出しのぷよりとした身体に突き刺さった。
「ハァ〜ッ!!」
快楽に呑まれる彼女の掛け声と共に、ステントグラスが割れもせずに大量の水がいつもここで浴びている勢いで落ちて僕を押しつぶしていた。
「ぐあ〜っ!」
とても立っていられなかったが、気を失うわけにはいかなかった。
僕は相手の目を凝視して意識が飛ぶのを耐えたが、すでにこの一撃で体力が削げ落ちていた。
彼女の持った女神の錫杖から巨大な火球が躍り出た。
地獄の業火で炙られた苦しみが、僕の全身を焦がした。
先ほどの水気が身体に付着していなかったならば、跡形もなくなっていたかもしれない。
しかし、皮膚は火傷でベロリと剥がれ落ちていた。
ビリビリと痺れる痛みが僕の体の表面を包んでいた。
「ブゥーッ〜!」
彼女は口角から溢れ出る泡を僕に向かって吹き出してきた。
火傷によって開いた傷口から、毒が浸透していく。
幻覚の中で彼女の姿が、憧れてやまない女神のように見えてきていた。
僕はフラフラと彼女に近づき、引き寄せていく。
彼女の指先が快感を熟知しているように、聖剣をなで上げると同時に快感が突き抜けてきた。
これが、彼女を虜にしている快楽の正体なのであろうか?
快感にのたうち回る僕に向けて、水路の亀裂からボコボコと汚水が溢れ出し、傷だらけの僕を漬け込んでいく。
『痛い。』
毒と汚水が僕の傷口から苦痛を体中に注ぎ込んでいく。
僕には、ヘドロの沼で泳ぐ体力はもうなかった。
そんな僕の身体をヘドロの中から髪の毛をつかんで、彼女は左で1本で持ち上げる。
そして、楽しそうに笑いながら僕の傷口をさらに広げるように錫杖を持ち替えたムチでしたたかに打ちつけた。
血まみれの状態にした僕を、再度ヘドロの中へと突き落とした。
もがき苦しむ僕の顔に、明かり取り用の油がグラグラと煮えたぎったものを容赦なく垂らした。
明らかに目玉に入れようとしていた。
必死で閉じたまぶたがジューッと音を立てた。
「ギャーッ!」
僕は叫びながら熱さのあまり自らヘドロの中に顔をうずめていた。
「ぎゃははは〜! うッ ゔ〜ッ。」
笑いながら彼女は快感に果てていた。
僕の身体から、ギューッと映像が取り出された。
彼女が映像を見ている時を逃さずに、僕は何とかヘドロの中から這い出し、彼女に挑みかかった。
しかし、彼女は片手だけにも関わらず、ものすごい力で僕の顔面を掴み、持ち上げながら僕に問うた。
僕は自重で首が抜けそうになりながら叫んでいた。
「そうだ!!」
「〇〇のクラスの人間、あいつの後の人間なのか?」
「そうだ! 彼女は僕の友達だ!!」
「ぐぅっ〜!ならば、ならば、お前の精神ごと飛ばしてやる。死っねーッ!」
「ここは私の居場所なのだ!」
彼女は自分の制服を破り捨てて、柔らかい素肌の中に僕を包み込んでいった。
彼女の赤く上気した肌は、今この瞬間でも快楽に果て、苦痛に耐えてまた果てるを繰り返し、小刻みに、そして時折大きく弾けるように揺れ動いていた。
僕を包み込んだ彼女の腕と身体から、想像を絶する快楽を越えた苦悩が、あるがままの感覚で僕の中に直接伝わってくる。
硬度を増し続けている聖剣を、彼女の聖剣が包み込んだ。
僕の聖剣を通して、彼女の快楽が僕に同期していく。
「グックア、があああああっ!!」
耐えられないほどの快感と苦痛が、僕から生気を奪い取っていくようであった。
僕の身体はガクガクと震え、瞳が上方にえぐりかえった。
白目を向いた僕を、彼女は再びヘドロの中にベシャリと投げ捨てた。
浮力で仰向けに浮いている僕は、まだ彼女の中の快感の余韻で、果てるものがなくなった後にも関わらず透明な液体をにじませながら、しゃっくりをするようにビクビクと空砲のままで果て続けていた。
つづく
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