第25話 爽やかな君の潮味 ⑥
「この街は私の物!」
ゴーレムが地鳴りを思わせる足音を響かせて、僕めがけてゆっくりと歩いてきた。
目が離せなかった。
目を離してしまえば、その瞬間の命がなくなる気がしていた。
ゆっくりと近づいてくるゴーレムから逃れるために、 裏門の方向にじりじりと逃げているつもりであったが、身体が全く言うことを聞かなかった。
「ここに何しに来た!」
胸ぐらを掴むように学生服をねじ上げられた。
腹をいじるために開いていた学生服を、ワイシャツごと上に持ち上げられた為に、バリッと音を立てて学生服ボタンが弾け飛んだ。
驚いて叫び声をあげる僕を弄ぶように、ゴーレムはズボンに手をかけてきた。
勢いよく引き寄せられ、ズボンが音を立てた。
破かれたパンツと飛び散ったボタン、ズボンのチャックは開けてもいないのに無残に左右に分かれていた。
『早く、早く逃げないと。』
心で放つ絶叫の声が届かないのか、自分の足腰が全く反応してくれない。
腰を抜かしながらも、後ろへと這いずっていく。
僕は逃げながら少し漏らした。
それでも生に執着し、這いずりながら少しでも離れようとしていた。
足元に破れたズボンを引きずりながら逃れようとする僕を、ゴーレムが無惨なズボンを踏みながら凝視していた。
後ろに下がるにつれて、ズボンが脱皮をするように脱げていった。
もはや何も守るべき装備がなくなった、貧弱な僕の身体がそこにあった。
それを見つめていたゴーレムが、不意に笑い出した。
あまりの貧弱ぶりを笑うのか、少し漏らしている僕を笑っているのか、漏らした部分が縮み上がっていることを笑うのか。
ゴーレムは愉快そうに笑っていた。
そして突然、僕の髪の毛を掴み上げて、僕を無理やり引きずり上げた。
あまりの痛みに、僕は必死で立ち上がった。
僕の腹が、ゴーレムの前に露わになっていた。
「うんっ!?」
「お前は、鳥の化け物と会った事があるのか?」
レンガの口を上下に動かしながら、大きな声で僕に問いかけてきた。
あまりの恐怖に声が出なかったため、顔を上下に振って答えた。
「そうかでは持っているのか?」
そう言いながら、僕の腹の中に野太い腕を、ズッポリと差し込んできた。
「ぐへっ〜!!」
痛みは無いが、内臓をかき回されるような苦しさと不快感があった。
「・・・?、何も無いではないか!!」
僕の腹から強引に腕を引き抜いて、僕を突き飛ばした。
軽く突き飛ばしたようであったが、僕は後方へ吹っ飛んでいた。
後ろ向きにバク転するように跳ね飛ばされた後で、衛兵の小屋の壁にぶつかって止まった。
『死』という言葉しか浮かんでこなかった。
僕はゴーレムの前で、全裸の姿で地面に顔をこすりつけながら、謝り、懇願した。
「静寂を乱してしまい申し訳ありませんでした!」
「すぐに出て行くので、命だけは助けてください!!」
「お願いします!!!」
恐怖のあまり、心の底からガクガクと震えだしていた。
心臓がギューッと縮み上がり、喉からこみ上げてくるような感覚がある。
まるで震えが止まらなくなっていた。
そんな地面に這いつくばる僕を、ゴーレムはサッカーボールのように蹴り上げて、壁に叩きつけた。
ゴーレムは壁から落ちていく僕の顎を掴んで、板壁に張り付かせた。
地面に倒れ込むまでの時間すらも、休む事を許してはくれない。
「私は飽きているんだよ。」
「誰もいなくなっちまったら、こんな街は、無いのと一緒だろう?」
女性のような話し方だった。
「この私を、満足させてみろよ。」
「もし、その貧弱な体で私を満足させられたなら、お前を生かしておいてやるよ。」
「お前の下に付いてやっても良い。」
「この街の支配者にしてやるよ。」
「さあ、どうする?」
「できんのか?あぁ?」
ゴーレムのレンガで覆われた顔の下から、黒い瞳が僕の目を、じっと値踏みをするように見つめていた。
・・・やるしかなかった。
覚悟を決めると、胸の奥からの高揚感が溢れ出し、先程の恐怖とは違う感覚が心臓から耳の後ろを走り抜け、全身を駆け巡った。
頬が紅潮してくる。
恐怖の震えは止まり、手の指先が鼓動に合わせて小刻みに揺れていた。
アドレナリンが全身を包み込む高揚感がある。
女の子の鬼と分かった瞬間から、僕は恐怖よりも、必ず助け出すという使命感の方が強くなっていた。
冷静に相手を見れば、僕と同じぐらいの大きさしかない。
恐怖よりも正義が勝った今となっては、強大な相手であっても、その姿を冷静に判断することができた。
「 約束、だからな・・・!」
僕はゴーレムの漆黒の瞳を、正面から見つめて確認をとった。
『・・・?・・・?。』
どこかで見たことがある、つぶらな瞳だった。
確かにずっと僕を見詰めていた瞳 だった・・・。
『・・・〇〇さん?』
そう考えると聖剣が勢いを増して、ゴーレムの下腹部にその切っ先を当てた。
僕は目を開いたまま、ゴーレムのレンガの口唇に、自分の口唇をあてがった。
ゴーレムはその容姿に似合わず、乙女のようにつぶらな瞳を閉じ、レンガの口唇を突き出していた。
僕もそれに合わせるように目を閉じて、彼女を引き寄せた。
僕と触れたゴーレムの顔と下腹部のレンガは粘土になり、泥となり、水となって溶けていった。
目を開いた僕の前には、レンガの鎧を着た〇〇さんが、瞳を閉じながら僕を受け入れていた。
顔と下腹部のレンガが溶け落ち、〇〇さんの素肌が露わになっていた。
〇〇さんの、まだ子供の様相を呈する一筋のラインが、僕の目に飛び込んできた。
今は恐ろしい鬼になってしまった〇〇さんではあるが、いくら無人の街とはいえ、まだこんなにも少女の面影を残した彼女を、公衆の面前にさらす訳にはいかなかった。
僕は彼女の腰に手を回して、引き寄せながら衛兵の詰所に入り、ドアを閉め鍵をかけた。
薄いシーツが敷いてあるだけの粗末なベッドだったが、僕は埃を払い彼女を座らせた。
まだ彼女の胴体と手足には、硬いレンガの鎧を纏っていた。
どうすれば、それを外す事が出来るのかは分からなかったが、ベッドに座っている彼女の手を取って、彼女に紳士のたしなみのようなキスをする。
レンガの甲手がスーッと溶け落ちていった。
『キスかなのか?』
そう思って足にもしてみたが、レンガのブーツに形状の変化は起こらず、脱がすことはできなかった。
何が反応をするのかは分からないが、彼女を救い出す糸口が見えた気がした。
ベッドの上で彼女を引き寄せて耳元で愛を囁く。
彼女の耳に当たる僕の吐息で、〇〇さんの口唇が小さく愛らしい声を放った。
そのまま外耳を舌先でゆるりと味わうと、彼女は目を閉じて快感に集中するように少し震えていた。
気を良くした僕は、彼女の胸元を隠すレンガの鎧の中に手を差し込んで、力強くそのふっくらとした柔らかな乳房の感触をこの手に刻み込んだ。
その瞬間だった。
彼女の右腕には、脱がしたはずのレンガの甲手があり、僕の顔面を痛烈に打った。
「やはりお前もそうなのか!こんな物!!」
「私はいらないんだ!!!」
〇〇さんが僕に投げつけた物体は、無数に散らばる大人のおもちゃだった。
それを見て理解できた。
『スポーツ万能、最強の支配者。』
そのイメージが強すぎる彼女の苦しみが理解できた。
「すまなかった。」
「もう一度だけ、僕にチャンスをくれないか?」
「君が探しているのはこれだろう?」
僕は腹の中から純白の羽根を取り出して彼女に見せた。
!!
彼女の顔色が変わった。
表情が一変し、シナを作るように僕に鎧が溶けた下腹部と、レンガのブーツを履いたままの太ももを見せつけてくる。
僕は彼女のフェロモンに吸い寄せられるように、ふらふらとベッドの方へと向かって歩き出していた。
近づくにつれて、フェロモンを放つ魅惑の園が露わになってくる。
中心にはモザイクがかかっている。
あくまでもこの世界は、僕の知識をもとに構成されているようであった。
知らないことが、こんなにも罪深い事だとは思いもしなかった。
色気のないテレビ局のマークが、僕の目の前に浮かび上がっていた。
『いやもっと、こうでは無いはずだ。』
この上に、豆のようなものが付いているはずだ。
そうだ、きっと、うん・・・。
もっとこんな感じなのだと思う、そう、そして、剥けるのだ。
こんな感じなのか?
もはや漫画でしかないが、普段は見ることも近づくこともできない秘密の部分が、こんなにも近くにあるという事実だけで、舞い上がってしまうほど嬉しかった。
僕は手に羽根を持ったまま、今確かにここにいる〇〇さんの空想の陰部を、優しく軽やかに舐め上げていく。
僕を足で囲むようにしながら、〇〇さんが僕の頭にしがみついている。
それが嬉しかった。
僕は手を伸ばし、その太ももに羽根をゆっくりと這わせる。
筋肉質で張りのある健康的な太ももが、見た目よりも柔らかく僕をの頭を包んでいる。
僕は興奮しながら頭を左右に振って、柔らかい中にも筋の入った健康的な太ももの感触を、顔中で堪能する。
太ももを甘噛されて、油断をした彼女の隙をついて、太ももから這い出す。
彼女を引き寄せて、彼女を愛した口唇で、彼女と口づけを交わす。
抱きしめた背中に羽を這わすと、僕らの間にわだかまっていた厚いレンガの鎧が解けていった。
スラリと贅肉を剥ぎ取ったような細く締まった彼女に、そこだけ女性を感じさせるようなふっくらとした乳房がある。
まだ先端までは発育していない突起が、愛らしく僕を求めて震えていた。
彼女は、僕と同じくまだ未成熟な身体ではあったが、十分に芳醇な果実の色香を放っていた。
僕は、酸味を持つような彼女の果実を味わいつつも、もう一方の乳房に羽根の先端を軽く当てた。
「くぁっ・・・。」
僕の聖剣を、少量の何かが勢い良く射抜いた。
聖剣が爆ぜるほどの快感が、電気のように僕の全身を駆け巡った。
!・・・???
僕は聖剣に落ちた落雷のような衝撃に、ガクガクと震えながら堪えるが、聖剣は脈動していた。
僕は腹から緑の衣を取り出して、僕たちの上にかぶせた。
彼女の瞳を見つめながら、僕は甘い魔法を囁いていた。
トロンとする彼女とキスを交わしながら引き寄せ、腹の中からとろりと粘度を持ったゲル状の物体を取り出し、僕らを包み込んだ。
水の中にいるような薄青く透明な液体の中で、僕らはお互いの身体を寄せ合い、お互いの戻るべき場所へと導かれるように、自然にまじり合っていった。
終わらない・・・。
終わらせたくない・・・。
僕らは同じ気持ちだった。
僕は、〇〇さんの細く締まったウエストを抱えた腕を離すことができなかった。
絡めた舌が離れたがっていなかった。
しかし、粘液にまみれた聖剣だけが、役目を終えたようにだらりと垂れ下がって、僕の腰にぶら下がっていた。
それでも愛しかった。
瞳を見つめて彼女に魔法をかけ続ける。
『消えないで欲しい。』
舌先から放たれる魔法を、直接彼女の中にねじ込み続けている。
「ありがとう。」
「とても気持ち良かったわ。」
「女の子として優しくしてもらったのは、初めてだったの。」
「私は、強くなくてもいいの。」
彼女の身体が僕の腕の中で、光るシャボンに包まれていく。
彼女が黄金に輝いていく。
『消えてしまう・・・。』
泣きそうになる僕に、彼女が笑って話しかけてくれた。
「あなたと一緒なら、もっと強くなれる。」
「 あなたがリ」
〇〇さんが消えたこの狭い衛兵の部屋は、がらんとしたとても広い空洞のように思えた。
『こんな物なんかいらない!』
彼女の投げ捨てた大人のおもちゃは、彼女を満足させるために男たちが必死で探してきた物なのであろう。
『強い女だから・・・。力強く・・・。』
間違った方向からのアプローチが、彼女を鬼へと変貌させていったのかもしれない。
鳥の鳴き声が聞こえていた。
『彼女を助けてあげて・・・。』
〇〇さんがそう言っているように聞こえたが、鳥は朝を告げているだけなのかもしれない。
僕の身体が現実に引き戻されようとしていた。
〜〜〜〜
「・・・・・・。」
夢精どころではなかった。
僕は今日、何年かぶりに『おねしょ』をした。
言い逃れができない事実だった。
ガバッと起き上がると、頭が割れるように痛かった。
夢の中で殴りつけられた痛みに似ていた。
僕はパンツを履き替えてリビングに向かった。
恥ずかしい事実だが隠しだてはできそうになかった。
「お母さん、僕・・・。おねしょしちゃった。」
「!!」
それを聞いていた妹が、ソファーからガバッと立ち上がって僕を見つめた。
「え〜ッ、なんで〜!!」
「せっかく臭いお兄ちゃんを、私が綺麗に消毒してあげたのに〜!」
「??・・・?」
母が妹に話しかけた。
「あなたが何かしたの?」
「だから、お兄ちゃんがムセーするから臭いでしょう。」
「だからお兄ちゃんが寝ている時に、アルコールでびちょびちょになるぐらい消毒してあげたのよ。」
妹の高い声が、頭の前方の芯にキーンと響く。
僕は頭を押さえて硬く目をつぶった。
「あなたは、何てことしているの!」
母の怒鳴り声がさらに頭に響いてきた。
「だって、だって、えーん!!」
もう耐えられなかった。
僕は自室に戻って濡れたパンツを持って、洗面台でゴシゴシと洗ってからシャワーを浴びた。
熱めのお湯がなぜか気持ち良かった。
14歳。
お酒も飲まないのに二日酔いになって、
おもらしをした朝だった。
爽やかな君の潮味 完
次回は、エデンの恋人 ①につづきます。
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