サラお嬢様 ②
デボラさんに連れられて、私とカオリは
用意された馬車へと案内された。
中にあの人が乗っていると思うと、めまいと吐き気が襲ってくる。
踏み台に乗せようとした足が、鉛のように重い。
手で足を持ち上げるように、ギシリと踏み台に足を乗せる。
なかなか中へ入ろうとしない私を、カオリが不思議そうに首をかしげる。
「お母さん、どうしたの? ねぇ、すごい馬車だね! これに乗っていいの! どこかに行くの? ねぇ、お母さん」
深呼吸をして、覚悟を決めて中へと入る。
━━いない?
馬車の中には誰もいなかった。
ほっと胸を撫で下ろすと、興奮したカオリに手を差し伸べる。
「カオリ、手に掴まって」
「お嬢様は、お二人を迎える為に先にお戻りになっています」
私の心中を察してか、デボラさんは尋ねてもいないのに述べる。
どこに連れていかれるのだろう。
カオリは馬車に乗ったことに興奮して、おおはしゃぎだ。
「カオリ、おとなしく座っていてね。ほら、窓から外を覗いてみたら?」
ふかふかの椅子に軽く飛び跳ねるのを注意する。
「ねぇ、あれは何?」「あそこは何のお店?」「速いね!すごいすごい!」
目に映る全てのものに大興奮の様子だ。
そのうちに疲れたのか、うつらうつらとまどろみ始める。
私の膝の上に頭を乗せて、夢の中へと誘われていた。
どのくらい馬車に揺られただろう。
馬車が停車する頃には、カオリは寝息をたてていた。熟睡するカオリを抱き抱えると、デボラさんと共に馬車から降りる。
馬車が停車したのは、大きな邸宅の前だった。
私達が玄関付近に到着すると、中からお仕着せ姿の女性が扉を開けてくれた。
デボラさんがその女性に耳打ちすると、その女性は一礼して立ち去った。
間もなく若い男性使用人と中年の女性が現れた。
「お嬢様をお預かりします」
若い男性がカオリを抱えようと手を伸ばしてきた。
見ず知らずの人に、大事なカオリを預けられるはずない!
私は断固拒否した。
しばらく言い合っていたけれど、埒があかないので、結局そのままカオリを抱き抱えていくことになった。
案内された部屋へ到着すると、カオリをソファーに寝かせた。先程の中年の女性がブランケットを手渡してくれたので、カオリへブランケットをかける。
私は別のソファーへと案内された。
とても広い部屋だ。
カオリが寝ているのを再確認して、ほっとする。
二人で話したいから別室でと提案されたけど、そんなこと出来るわけがない。
デボラさんが退室して間もなく、ノックの音が聞こえた。
そして室内に現れたのは、忘れもしないあの人だった。
「久しぶりね、リナ。元気だった?」
ぞわぞわと全身に一気に鳥肌が立つ。
あぁ、この人は全く何も感じていないのだわ……。
気軽に話しかけてくる口調━━まるで懐かしい知人にでもあったかのように。
どういう神経をしているのだろう。
私は、まだ冷静に言葉を交わせる準備ができていなかった。
「とりあえず、まずは紅茶を淹れましょう。
」
サラお嬢様は、室内に用意されたティーセットへと手を伸ばし、ゆったりと紅茶を淹れる。
不本意だけれど、紅茶の芳醇な香りを感じる。
「どうぞ。心配しなくても毒なんて入ってないわ。ふふふ」
私の警戒心を解くためなのだろうけれど、笑えないジョークだ。
頑なに紅茶には手をつけなかった。
サラお嬢様とこうして一緒に向き合うと、必然的に商会を辞めたあの時のことを思い出す。
じっと見つめていると━━睨んでいたともとれるくらいに、無言の時が過ぎる。
サラお嬢様は、ティーカップをゆったりとテーブルに戻すと、私へと視線を向ける。
「急に呼び出して驚いたでしょう?
ごめんなさいね。リナにちょっとお願いがあって。
提案というべきかしら。
ちょっと、私の話をきいてくれるかしら?少し長くなるけれど」
こちらの返答など、初めから求めていないのね。
自己中心的な態度は、あの頃と何も変わっていない。
あの時と同じく、サラお嬢様は淡々と語り出した。
***
あとがき(独り言)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
うっかり開いてしまった方といると思います
無名の私の作品を、
読んでいただけると嬉しいなと思いつつ、
誰かに届いているのだろうかと、
ポジティブとネガティブ思考が交互に押し寄せていまして…
少しでも届きますよう、祈る気持ちです
フォローや応援をしてくださった方、本当にありがとうございますm(_ _)m
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