第4話 悪意か善意か
最近サラお嬢様に対して、疑問に思うことが増えた。サラお嬢様は、本当に善意で私に接してくれているのだろうか。
最初から小さな違和感はあった。けれど、それは私の醜い嫉妬心からくるものだと思った。別れる前ならともかく、ルーカスと別れた後に、私に対して嫌がらせをする意味はないと思う。そもそも、私とサラお嬢様とでは住む世界も違うのだから。
人の善意を嫌がらせだと、悪意だと疑ってしまう自分の醜さに驚く。私はこんな人間だったのか。
でも、本当に私のことを心配しての発言なのだろうか?
毎年この時期になると、隣街で大きなパーティーが開かれる。許可された商会は、パーティの際、貴族の邸宅内の庭園に出店することができるのだ。出店することができれば、貴族の方の目に留まり、その後の新たな取引先へと進展することもある。その為競争率が高いので、この時期になると、主催者の当主の方との交渉に赴くのだ。
毎年、旦那様が父達ベテラン世代の方と共に交渉に赴いていた。出店を許可されることもあれば、ダメな時もある。
交渉が成立した場合は、売り上げも上がるので、従業員へも臨時にお給金が支給される。その為、この交渉役のメンバーには、旦那様が不可欠な存在だった。旦那様がしばらく留守になるので、その間は商会は臨時休業となっていた。
「ルーカス、今年の交渉役はお前に任せる。ゴーデル男爵様の希望でサラお嬢様も一緒にとのことだ。残りのメンバーの選抜はサラお嬢様と相談して決めなさい。決まったら私へ報告するように」
「今年は商会はお休みしないのね」
「隣街へ泊まりがけでしょ」
皆、誰が同行するのか知りたくて、ヒソヒソと話していた。父がいないので、きっとベテラン世代のアーノルドさんが選ばれるだろうと誰もが思っていた。
「リナ、ちょっといい?」
「はい、お嬢様」
私は、サラお嬢様から応接室へと呼び出された。
応接室には、ルーカスもいた。
ソファーには、サラお嬢様の隣にルーカスが座っていた。私は向かいのソファーへと腰を下ろす。
久しぶりに間近で見るルーカスは、相変わらず素敵だった。一瞬、目が合ったような気がしたけれど、ルーカスは無反応だった。
「リナ、先程の件なのだけれど、お願いがあるの。
ルーカスと一緒で心強いとはいえ、大役を任されて私達も緊張しているの。邸からメイドの同行も考えたのだけど、今後のことを考えると控えた方がいいと思って。勿論、お父様が護衛をつけてくださるから心配はいらないわ。
気心の知れたリナと一緒だと嬉しいわ。ねえルーカスもそう思うでしょ?
それにリナを残していくのが心配で…」
正気なの?
私とルーカスの事を知っての発言なの?
何が心配なの?
私は、2人がいない方が気が休まるのに。何故こんなにも無神経なことが言えるのだろうか。
「と、言う事だ。
それにリナもいつか隣街へ行きたいと言っていただろ? 父へ報告してくる。」
「…ルー…若旦那様、あの━━」
ルーカスは、振り向きもせずに応接室を出て行った。残されたのは、サラお嬢様と私だけ。
覚えててくれたの?
そう私は、毎年父達から隣街の様子を聞いて、いつか行ってみたいと思っていた。それはルーカスも同じで、いつか交渉役に選ばれたら、その時は一緒に行こうと話してた。でも、それはこんな形を望んでいた訳じゃない!
ルーカスも何を考えているの?
「ふふ、ルーカスはせっかちな所があるわね。リナもそう思うでしょ?」
「え?は、はい」
「リナ、2人の時はそんなに畏まらないで気軽に接して。リナも薄々分かっていると思うけれど、いずれはこの商会の担当は父から引き継ぐ予定なの。だから、リナとは年も近いし仲良くなりたいと思っているわ。よろしくね」
サラお嬢様の笑顔に曇りはない。本当に私と仲良くなりたいと言っているように見える。
曇っているのは私の心だけ。
私は膝の上にのせた手をきつく握りしめていた。絶対に動揺した姿を見せたくない。
誰もサラお嬢様のことを悪く言わない。
ルーカスとお似合いだと、
交渉が成功したら婚約するのではないか、と
そんな2人の噂ばかりが耳に入ってくる。
私の心は、どんどん蝕まれていった。
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