第5話

「うぅ…」


下腹部の鈍い痛みと共に目覚めるとベッドの上だった。

 ベッドに寝かせてくれるだけの良心は持ち合わせていたのね。


ゆっくりと上体を起こすと、衣服はナイトドレスを着ていた。寝ている間に侍女が着替えさせてくれたのだろうか



布団を捲り立ち上がる為にベッドの縁へと足を下ろす


その時シーツに滲む赤い滲が視界に入る


夢ではなかったという現実が襲いかかる


またあんなことをされてしまうのだろうか


これからのことを想像するだけでぞっとする


私は両腕で自分を抱きしめて身震いする自分を慰めていた



 ただ、良かったと言っていいのだろうか


そうね、良かったこともある。


魔力が安定したこと。


上手く言葉に出来ないけれど、あんなに不安定だった魔力がすとんと定着したのを感じる。


感情が昂ると何かのはずみで暴発しそうな危うさがあったのに、今は全くそんなことはない。



やはりそういう経験をすることで安定するのね


予想通りだわ



だけど、残念ながら何かの属性に秀でている感覚はない。


はぁ、治癒の力でも目覚めたらよかったのに



光属性持ちは数少ないため尊重される。

必要とされた時に治癒の力を行使するならば、女性でもわりと自由に生きることができる。


そう、例え離縁したとしても傷物だとか悪く言われることはない。貴族のしがらみに囚われることはない


 

結婚してから目覚める者も稀にいる。


私は、他の一般的な魔力持ちの方と同じく、人並程度の魔法しか扱えない。


学園時代も成績も中間あたりだった


きっとこのままここで過ごして終わるのだろう


もっと、何か楽しめることをしたかった



誰かと一緒に…


彼はどうしてるだろう


ダメね…もう私はエリー・#キャンベル__・__#なのだから



それにしても、誰も来ないわね


遠慮しているのかしら


部屋を見回しても呼び鈴もない


扉を開けようとベッドから立ちあがった時だった



ちょうどノックの音がして家令が入室してきた


脱力感が抜けないのでゆっくりと目を向けると、家令は私の首の辺りを凝視してから私の衣服の確認でもするようにじっとナイトドレスを見る。続いてベッドへと視線を移し、部屋の惨状(抵抗した時に争って荒れた形跡がある)を確認すると、目を大きく見開き、過呼吸でも起こすのではないかと心配になるくらいに呼吸が荒れていく



「も、も、申し訳ございません。まさか、こんな…早く、到着早々こんな、


主に変わってお詫び申し上げます。


大変に大変に申し訳ございません。


これくらいの時間だと予想しておりましたので、旦那様を縛り上げて拘束してお止めしようと思っておりましたのに…」



土下座でもせんばかりの勢いで深く頭を垂れていた


老年にさしかかろうとしている家令は、容姿とは裏腹に話し方も動作も機敏だった。


家令の手元には確かにロープが…



「あ、あの、一体どういうことでしょうか?」



私はわけわからずに問いかける。


「と、突然のことで、私も抵抗をしてしまいましたが…


妻としての…務めは…当然のこと


どうか謝らないでくださいませ」


家令は頭を上げると言葉をつづける


「そ、その事なのですが…


あれは旦那様であって本来の旦那様ではないのです


旦那様は…


いえ…


エリー様、妻の務めとおっしゃって下さいますが…実は…


旦那様よりこちらの書類をお預かりしております」



私は書類を受け取ると中身をざっと確認する


「これは離縁届…


ど、どういうことでしょう


私に至らないことがあったのでしょうか


キャンベル辺境伯様を不快にするようなことを…


それに、離縁は結婚してから1年は経たないと出来ないのでは…」



「エリー様に落ち度は全くございません。


旦那様は…ずっとこのようなことを繰り返しているのです。


本来は1年ですが、貴族院に伝がありまして膨大な金額を積めば半年で例外てきに認められることもあるのです。


申し訳ございません!


どうかエリー様、この私にエリー様の今後のことについて、お力にならせてください」


家令はひたすら謝罪の言葉を述べる


私は怒りとか悲しみとかそういった感情が沸いてこなかった



そうただ…


混乱していた


「どういうことなのか、説明してください」


とにかくきちんと納得できる説明が欲しかった


「そ、そうですね。エリー様はこんなお話を聞いても取り乱されない落ち着いた方。


エリー様のお部屋にもご案内させていただきたいですし、その際お茶をご用意いたします。



お話はそれからにいたしましょう」


私は頷くと家令の後に続いた


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