第3話

「先程の話の後だと堪えるな。こうして見ると、白い花はとても目立つ。警告か…」


アンディは花の傍に屈んで、花びらを確認する。私も隣に屈んで一緒に覗き込む


「綺麗なのに」

「あぁ、この辺り見て。やはり赤く見えないか?」



「えぇ、少しだけれど赤いわ。でも…

白い花にはかわりないわね」


すぅっと手を伸ばして、はなびらを無意識に触る。その瞬間、アンディの手と触れ合う。


「あっ」

「…」


咄嗟に手を引き戻すと、アンディが私のその手をそっと引き寄せる。



「えっ?」


突然のことに驚いて戸惑っていると、アンディは私の手の甲にそっと口付ける。


「エリー、僕は騎士としてきっと手柄を立てる。兵役を早く終わらせて戻ってくる。だから、その時は、君の伴侶として傍にいる権利を僕にあたえてくれないだろうか」



手を取る彼の容姿はまだ幼さの残る。それでも彼の行動はまるで大人の男性のようで、ぼーっと見惚れてしまう


「ア、アンディ、急にどうしたの?

とても嬉しい。私ずっとアンディのこと…あなたも私を想ってくれているなんて…


でもね、アンディ、白いコダのことを聞いた後では喜べないわ。不吉な予感しかしないわ。何より白いコダの前で言うなんて」


「エリー、必ず迎えに来るから。例え君が忘れていたとしても、20歳までには必ず」


「アンディ、でも私一一お父様が」


私を真っ直ぐにみつめる彼の瞳には一点の曇りもない。決意を固めた迷いのない意志を感じ取れる。

 ただの気休めになるのかもしれない…

父が反対していることはアンディは知っている。それでも想いを伝えてくれるなんて…

 


淡い期待に胸が膨らむ


もしかしたらという願望が欲を出す


彼の言葉を信じて待つことが許されるなら


私はいつまでだって


私が黙って頷くと緊張が解けたようにふっと表情を緩めて、優しい眼差しを向けてくれる



私もそれに応えるように、心から溢れる想いを込めて見つめ返す。


お互いの瞳の中に同じ想いが宿っているのを確認するように、ずっと見つめあっていた。




幸せな気持ちでいられたのは束の間のことだった。


なぜならその日帰宅してすぐに、父から嫁ぎ先を告げられたからだ。



卒業式の後、その足で先方に向かうようにと、荷物などは既に送ってあると、


お相手はクリフォード・キャンベル辺境伯様



あまり良い噂はきかない


女性関係が激しいという噂がある



何人もの女性を泣かせているらしく


結婚もはじめてではない



だが辺境の地を守護する重要な存在のため、領地を守る職務を果たしているので、

プライベートなことは些細なことだと随分と多目に見られているらしい



父からは疎まれているとは思っていたけれどもまさか娘をそんな方に嫁がせるなんて…



望んで娘を嫁がせる者がいないので、かなりの支度金含め国からも礼状が届いたとか



所詮父にとっては女性はただの道具にすぎないのね


「断ることは死を意味すると思え。

泣こうが喚こうが覆らない

貴族の責務を全うすることがお前の役目

いいな」


突然のことでどうしたらよいかわからなかった。


部屋から出ることは許されずに、卒業式後の予定のはずが、私の態度から逃亡を恐れて、卒業式に行くことは叶わなかった。


明朝すぐに馬車へと身一つで押し込められて、辺境の地へと向かっていた。




卒業おめでとうアンディ


卒業おめでとう…私


揺られる馬車の窓へ、子供のいたずらのように指で文字を書く



もっと自由に生きられたなら


この家に生まれていなければ



たらればばかり考えてもどうしようもないのに


卒業式に行けなくて良かったのかもしれない


アンディに会ったらきっと


私は泣き出したでしょうね



いい加減大人にならなければ



永遠にこのまま辿りつかなければいいのに


私の願いも虚しく、馬車は順調に進んでいた






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