つよつよメスガキのリリムが分からせられるわけがないっ! お♡

訳者ヒロト

第1話

「ざぁ~こ、ざぁ~こ。おじさんざっこぉ。リリムみたいなずーっと年下の女の子に屈服させられて恥ずかしくないの?」


 俺はロリコンではない。なのに何故胸の鼓動がおさまらないのか……


 仰向けのまま拘束された俺。そしてあろうことか俺を踏みつけにする少女。このクソガキが今度の主人だ。


 つややかな金髪を肩にかかるほどのショートカットにし、瞳は輝くような空の色。あと数年もすれば世を騒がせる絶世の美女になるのだろう。


 だがまだガキだ。


 この女はナントカ伯爵の令嬢で、生まれたときから勝ち組だと決まっている貴族。正直、俺は貴族が嫌いだ。全員奴隷になってあげくに死ねと思っている。


 なのに、なぜ、俺の目線は柔らかそうな太ももの間に吸い込まれてしまうのか――


「おじさん見すぎ〜 リリムの太もも見すぎ! 目つき怖いんですけど〜」


 落ち着け。俺はロリコンではない。俺はマゾでもない。落ち着くんだ。


 俺は戦闘奴隷だ。世間に見下されてはいるが、自分自身に誇りを持っている。何度も何度も死線に叩き込まれ、この肉体と勘の冴えだけで生き抜いてきた。少女に踏みつけられた程度で揺らぐほどヤワな精神は持ち合わせていない。


 このクソガキは俺を縛り付けたくらいで屈服させたと勘違いしている。少しおどかしてやろう。


 俺の手首足首、そして首と腰は枷によって地面に打ち付けられているが……


 全身の細胞に力を入れて体を浮かび上がらせる。枷がミシミシと悲鳴をあげて限界が近いのを訴えた。肺の中の空気すべてを吐き出すつもりで叫ぶ。


「なめんなよガキッ!」


 大の男でも怯ませる裂帛の咆哮。俺はこれで何度も窮地を脱してきた。しかし――


「おじさんきっも~。リリムみたいなちっちゃい女の子にマジギレとかきもーい。ウケるんですけど~。顔赤すぎ。そんなんでビビると思った? バカにしすぎ~。そんな簡単に枷が壊れるならこの世界に奴隷なんているわけないでしょ」


 リリムは涼し気な表情を崩すことなく、むしろ顔に張り付けた愉悦の笑みを深くする。そして俺の腹に置いた小さな足をグリグリとえぐるように動かした。


「おじさんは~今日からリリムの奴隷になったの。逆らっちゃダメ。吠えるのもダメ。勝手におしっこするのもダメ。リリムの所有物で、絶対服従なんだから。分かった?」


 クソッ。俺は生まれたときから奴隷で様々な主人に仕えてきたが、なかには奴隷をペットかなんかだと勘違いしているクズが数人いた。それも犬猫ではなくカブトムシくらいの感覚で、「戦わせてみよ! あ、死んじゃった」みたいに言うのだ。


 そういう輩は特に貴族に多くて、奴隷のことを同じ人種だとは思っていない。だが俺も奴らを同じ人種だとは思っていない。奴らは鬼だ。


 だから分からせる必要がある。奴隷と貴族は同じ種族ではないが――同じステージに立っているのだと。研がれた剣などなくても、従者などいなくても、身一つで喉笛を噛みちぎってやることができるのだと。


 俺はこれまでも、何度も分からせてきた。傲慢な貴族どもに小便をちびらせ、奴らは俺を奴隷商に不良品だと突き返す。そして今回もそうなるはず。


 なのに――


 なぜ――


「あれれ~? なんでココ大きくなってるの? リリムが買ったのは戦闘奴隷であって、エロ猿じゃないのだが? なんでなんで? オラオラぁ。なんでだよぉ」


「ちがっ―― これは生理現象で…… くっ――そっ」


 なんで俺はこんな巷にあふれるエロ本みたいな台詞を吐いているんだ? 自分のことながら理解ができない。この世全ての苦痛と屈辱を味わってきたと思っていたが、こんな種類の辱めは初めてだ。


 黒いストッキングを履いた足が擦るように動かされて、痛みと快感の中間みたいな痺れが襲ってくる。


 俺は激しくなる鼓動を抑えてなんとか言葉をひねり出した。


「今すぐやめねえと……痛い目をみるぞ」


「きゃはは♪ じゃあやってみてよ。リリム、痛い目見てみたーい。どんな風にやるのお? ほら、やりなさいよ。ご主人様としての最初の命令です。リリムに痛い目をみせてみなさい。――――できないじゃーん。はやくしてよ~」


 イライラしてきた。この耳にまとわりつくような声を聞いていると気が狂いそうだ。


「なによその目。反抗的なんですけど」


 リリムの声が少し低くなった。


「お仕置きが欲しいのかなあ」


 俺の首に足を乗せ、喉仏をゆっくりと圧迫してくる。数少ない急所を的確に責められ、少女の体重といえども息が苦しくなる。


「てめえ……」


 苦しい。殺してやりたい。


 なのに――


 なぜ――


 俺の視線は艶めかしい太ももとその奥に控える純白の布地に吸い込まれてしまうのか。


「ごめんなさいって言いなさい。ご主人様を睨みつけてごめんなさいって言いなさい」


 その太ももはほそっこいくせに妙に肉付きがよくて、ストッキングが食い込むところにむちりとした段差が生まれている。足先からは若々しい汗の匂いがして俺の脳みそを浸食してくるのだ。


 俺はロリコンではない。俺はマゾではない。


 心の中の俺と対話する。そうだよな? 俺たちはおっぱいの大きな大人の女性が好きだよな? そいつは笑っていた。「なんでもアリだぜ、兄弟」。――クソッ!!


「ほらほら。息ができないでしょ? 苦しそう~ 可哀想~ ごめんなさいって言うだけなのにそんなこともできないのぉ? リリムは三歳のころにはごめんなさいできたけどなあ。お猿さんには難しいかなあ」


 その足が動くたびに赤いスカートがひらひらと揺れて、白いパンツを露わにしたり、隠したり、露わにしたり。


 まずい。


 このままでは俺は死んでしまう。このままこの光景を見続け、無様に興奮し続けていては、俺という誇り高い戦士は死んでしまう。


 そう思ったら言葉が口をついて出てしまっていた。


「ごめんなさい」


 リリムは満足そうに薄いピンクの唇を吊り上げ、「よくできました」と言って足を離す。その仕草の間、俺の視線はずっとパンツに釘付けだった。


「この変態! パンツみるなっ!」


「ゴフッ」


 足が腹に食い込む。みぞおちに爪先が深く突き立って俺の体は二つ折りになろうとしたが、枷によって阻まれて震えるのみ。


 リリムは恥ずかしそうにスカートの裾を押さえて顔を赤くしていた。


「リリムのパンツを覗くのは禁止なのだが? きもおじさんに見られたとかありえないのだが? 次やったら死刑なのだが?」


 なんだこいつ。見せびらかしてきたくせに、純真ぶりやがって。酸素が全身に供給されるについで怒りが湧き上がってくる。


 リリムは「さっさとついてきて、ざーこ」とだけ言い残し、身を翻して地下部屋から出て行った。


 静かになった空間で、とにかく呼吸を落ち着かせる。冷たい石の天井は変わりなく俺を見下していた。


 悟った。


 これは戦いなのだ。


 俺がやつを分からせるか、それともやつが俺を敗けさせるか。


 もし負けることがあれば、俺は男としての尊厳を失うだろう。俺はあんなガキに屈する変態ではない。俺は誇り高い戦士だ。


 いままで数多の血しぶきの中を駆け抜け、そして勝ってきた。奴隷の俺に与えられるのはいつだって最も過酷な場所だった。


 今回も同じ。戦うのだ。


 やつに一発ガツンと食らわせ、俺という存在を恐れさせる。適当にからかっていい存在ではないと理解させる。


 それが俺の次なる戦いだ。


 そう心が決まれば、視界が澄んで思考がクリアになり世界を克明に感じ取れる。いい調子だ。体の感覚が戻ってきた。


 だが――


「ついてこいって言われても……どうすれば?」


「お待ちなさい」


 死角からにょきっと女が現れた。メイド服を着た無表情の女だ。ずっとこの部屋にいたのだろうか。気付かなかったが……なかなかの影の薄さだ。


「今から枷を外しますが……私に突然襲い掛かるようなことはしないですよね?」


「ああ」


 その女は順々に俺の枷を外していく。解放感が心地いい。


「私はアイカ。リリムお嬢様にお仕えするメイドです」


「アイカ。俺の名前は――」


「不要です」


 遮る無機質な声によって、俺の自己紹介は止められてしまった。アイカは氷のような表情で言う。


「名など名乗らなくてよろしい」


 チッ。冷たい女だ。この屋敷には憎たらしいやつしかいないのか?


「リリムお嬢様についていきなさい。今からお前を購入した理由、与えられた仕事を果たしてもらいます」


「仕事? どんなだ。何を殺せばいい」


「いけば分かります」


「そうか」


 手首足首を回しながら部屋を出て階段を登る。


 リリムに目にもの見せてやる機会。それは想像よりずっと早くにやってきた。

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