蠕動する祈り

佐倉遼

はじまりはじまり

 思い返せば、最初に「渇き」があった。

 

暗闇の中で、私と渇きだけが確かに存在していた。

 渇きは静かに、しかし確実に私を蝕んでいく。私はただ身を捩るしかできなかった。

 生き延びるために、必死に何かへと這いずり込む。


――生き残るために、できることはすべてしなければならない。


 そこは温かく、心地よい場所だった。暗闇の中で、流れるもの、拍動するものが現れた。私はまだ私でなかった頃の自分が、どうしてそれを成したのかは分からない。


 ただ、一つだけ確かなのは――突然、光を感じたことだ。


 それは初めて見る光景だった。


 ここは、どこだ?


 澄んだ空気が優しく私を包み込んでいた。その時の私は何も知らなかったが、今振り返ると、それは限りなく美しいものだった。


 遠くで鳥の声が響く。私は驚いた。

 青々と茂る草木の香りが鼻腔を満たす。

 眩しすぎる光が、私のすべてを照らし出していた。


 どうか、ここで生き延びられますように。

 もう、渇きはなかった。

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